「なぜ、こんなやり方で解決できるかのようにふるまっているのか」。10代の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの発言に身構えてしまうのは何もトランプ大統領ばかりではないだろう。ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんは11歳の時、「なぜ女の子が学校に行ってはいけないのか」と世界に訴えた。

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 有名な子どもに限った話ではない。わが子が親に向ける言葉も同様。子どもの「なぜ?」はいつも率直で偽れない。「子どもにはわからない」「大人の事情がある」「そんな簡単な話ではない」。大人が言い訳をして、言葉を濁す時、たいていの場合、子どもが正しい。

『パラサイト』と賞を競った話題作

レ・ミゼラブル』は去年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したフランス映画。『パラサイト 半地下の家族』一強で、存在感が薄れてしまったが、フランス代表としてアカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされるなど、数々の映画祭で『パラサイト』と競ってきた力強い作品だ。タイトルからヴィクトル・ユゴーの同名小説(日本では『ああ無情』でも知られる)を映画化したミュージカル映画と混同されそうだが、あえてこのタイトルで勝負しようとした監督の強い意思が伝わってくる。時代を超えていまもなお、『レ・ミゼラブル』は続いているのだと。

 ユゴーが小説『レ・ミゼラブル』で描いたことで知られるフランス、パリ郊外のモンフェルメイユ。現在は移民や低所得者が多く住む犯罪多発地区である。

 シェルブールから転属してきた警官のステファンは、白人のベテラン警官のクリスとこの地区で育った若いアフリカ系のグワダとともに犯罪防止班に加わることになった。パトロールするうち、ステファンはこの地が分断されたいくつものグループで構成されていることに気づく。

警官よりも人望のある前科者

 ことの発端は子どものいたずらだった。ロマのサーカス団からライオンの子どもが盗まれた。目撃者の証言で犯人はアフリカ系の少年だという。ロマの人々がアフリカ系の団地に乗り込み、一触即発。クリスたちはライオンの子どもと犯人を捜す羽目になる。

 常日頃から威圧的な警察に子どもたちは非協力的だ。無理やり聞き込みをした結果、犯人は有名な悪ガキ、イッサだと判明する。追う警察、逃げるイッサ、仲間を助けようとする子どもたち。少年たちともみ合いになるうち、ついにグワダがイッサに向けて、発砲してしまう。しかも、その一部始終を別のアフリカ系の少年、バズがドローンで撮影していた。動画の流出を防ぎたいクリスたちは傷ついたイッサを連れ回し、今度はバズの行方を追う。

 おまけに話を聞きつけた、団地を仕切っている通称「市長」もバズを追う。常日頃からクリスたちに大きな顔をされ、苦汁をなめていた「市長」はその動画をネタに優位に立とうという魂胆だった。ところが逃げたバズが救いを求めたのは、元チンピラでいまは更生しているサラーだった。なんとしても動画の流出を防ぎたい警察。動画を手に入れたい「市長」。子どもを守りたいサラー。さらにクリスらに頼まれ、薬の売人までやってきて、サラーを懐柔しようとする。

 動画の流出は暴動に繋がる。暴動が起きて、なんの得があるとステファンに説得され、サラーは彼に映像データを渡すものの、「正当な怒りなら、暴動以外、ほかに主張する方法がない」と言い残す。

 事件をもみ消し、大人たちは解決したと思いこんでいた。誰一人、子どもたちの気持ちを考えていなかった。そして、さらなる事件が起きる。

 人種差別主義者で粗暴な面もあるが、家に帰れば、優しい父親であるクリス。子どもに発砲したグワダも家に帰れば、母を愛する一人の青年。街をよくしようと希望に満ちて職に就き、本来なら、子どもたちから尊敬され、目標とされる存在のはずだった。なのに人望があるのは、前科者のサラーの方。何がどこでどう間違ってしまったのか。

映画観たマクロン大統領がこの地域の改善を要求

 ジャーナリストの堀潤氏はドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』(3月7日公開)で、「真実を見極めるためには、主語を小さくする必要がある」と言っている。

 個と個、一対一で向き合えば、きっと起きなかったであろう悲しい出来事が、雪だるま式に大きなトラブルになっていく。イッサがどうしていたずらをしたのか。寂しかった、注目を集めたかった。きっと、それくらいの理由だろう。対する警官たちも人の親。本来なら、その気持ちを見抜けないはずはなかったのに。

 子どもたちが声を上げている時。そこには正当な理由がある。劇中で、間違いを犯しているのは大人ばかりである。

 次々と起きる事件に続々と絡めとられていく人々を圧倒的なスピードで描いた衝撃作。フランスでは大ヒットを記録し、あのマクロン大統領も鑑賞、この地域を改善するアイデアを政府に要求したのだとか。

 監督のラジ・リはこれが長編監督デビュー作。今もこの団地に住み、撮影を続けている。映画はフィクションでも、描かれていることは本物。息をのむ衝撃のラストに大人はどう応えるべきなのか。大人の一挙手一投足をいま、この瞬間も子どもたちは見逃さない。

レ・ミゼラブル

2月28日(金)新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本

監督・脚本:ラジ・リ
出演:ダミアン・ボナールアレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、ジャンヌ・バリバール

原題:Les Misérables/2019年/フランスフランス語/104分/カラー/シネスコ/5.1ch  
©SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS  

公式サイト: lesmiserables-movie.com
公式Twitter&Facebook:@lesmise2019  #レミゼじゃないレミゼ
 

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