「無観客試合」が新戦力の分析を遅らせてしまう。今、対戦チームがもっとも警戒しているピッチャーは、広島東洋カープ森下暢仁投手(明大)だという。

 日本野球機構(NPB)は臨時の12球団代表者会議を開き、今後3月15日まで予定されている全72試合のオープン戦のほか、同29日から開始する春季教育リーグ33試合や、練習試合も「無観客」とすることを決めた(2月26日)。反対意見もなく、スンナリと決定したそうだ。しかし、無観客試合となって、球界が被るリスクも見えてきた。観戦料が入ってこないことも大きいが、無観客試合とは、スコアラーも入れないことも意味する。それによって、新加入選手の分析も大幅に遅れてしまう。そして、もっとも「データが不足している」と見られているのが、広島のドラフト1位・森下投手なのだ。

 「対外試合の初登板がちょっとヘンだったからね。どの球団スカウトも森下を高く評価していました。でも、スカウトの報告と異なる点が多くて」(在阪球団スタッフ)

 森下がベールを脱いだのは、2月22日ヤクルトとのオープン戦。3イニングを投げ、失点2。初回こそ点を失ったが、その後は立ち直っている。広島・佐々岡真司監督もひと安心といった雰囲気だったが、他球団の評価は違う。「投げ方(投球フォーム)が変わってしまった」と――。

 「投げる時、上半身が一塁側に傾いていました。若干、そういうクセがあることは森下を追い掛けたスカウトから聞いていましたが、報告よりもひどい」(前出・同)

 一塁側に傾くから、腕を振る可動域も大きくなり、リリースする瞬間に手首 も立って、回転数の多いボールが投げられる。そんな見方もあるだろう。しかし、プロのスコアラーたちは「上半身が傾くから、球種が丸見え」だというのだ。

 「こんなピッチャーではないんだが!?」

 昨秋のドラフト会議での評価も高かったため、このデビューマウンドを指して「本気を出していない」と、セ5球団のスコアラーは見ていた。「再調査の必要アリ」としていたところに無観客試合が決まった。そのため、今、森下がもっとも警戒されているのだ。

 「佐々岡監督は投手出身なので、上半身が一塁側に傾くことによるデメリットは分かっているはず。キャンプ中、森下に投球フォームを指導する場面はなかったと思うが…」(プロ野球解説者)

 広島は先発ローテーション入りさせる他のピッチャーを隠しているのではないだろうか。森下にメディア、他球団スコアラーの注目が集まっていたその裏側で、これまで中継ぎを任せてきた誰かに先発転向の調整をさせていたのかもしれない。

 対戦チームは広島投手陣に警戒を強めている。スコアラーの調査が不可能となるこれからのオープン戦を、広島はプラスに変えたようだ。(スポーツライター・飯山満)

佐々岡真司監督