取材に答える都築氏

キャリア経験談をシェアできるプラットフォー「CREEDO(クリード)」。事前登録開始から10日で登録者数500人を突破するなど成長スピードは速く、「こんなサービスを待っていた」という声も上がっている。新サービスを手がけるのは、「世界に100億の志を」をビジョンに掲げる株式会社ブルーブレイズ 。代表の都築辰弥氏は2019年8月に同社を設立したばかりだが「もう半年も経ってしまった。早い」と話す。

新卒で入社したソニーXperia商品企画を担当していた都築氏が、どんな経緯で着想を得て起業に至ったのか、熱い思いを語ってもらった。

「有史以来、世界は良くなっているのか?」世界一周で得た疑問

幼少期をドイツで過ごした都築氏。日本企業の看板が韓国企業にとって代わられるのを目の当たりにした体験から「日本のものづくりを立て直したい」とソニーに入社した。「ソニーしか受けていません。落ちたら路頭に迷います」と採用面接で訴えたというエピソードからも、真っ直ぐで熱い人柄がうかがえる。

しかし転機は、そのソニー入社前に行った世界一周旅行中に訪れる。パレスチナ自治区を歩きながら「有史以来、世界は良くなっているのだろうか?」という疑問がふと頭をよぎった。

インターネット自動車もない昔よりも、現代は格段に便利な世の中です。でも、『ゆえに世界は良くなっている』と結論づけて本当に良いのだろうか? そんなことを考えながら混沌とした印象のパレスチナの街を歩いていると、道端で5歳くらいの少女を連れたお父さんに出会いました。立ち話をしながら、特に深い理由もなく『娘さんの将来の夢は何?』と聞きくと、さっきまでニコニコしていたお父さんがムッとした表情でこう言ったのです。『夢なんてあるわけないだろ。ここは戦場だぞ』と」

「なんて無神経なことを聞いてしまったんだ」と反省すると同時に、夢を語れるということはとても恵まれたことなのだ、と気づいたという。マズローの「欲求五段階説」によれば、人は満たされた衣食住や生活の安心を得て、自己実現という高次元な欲求にたどり着く。現代は科学技術の進歩や市民革命により、数世紀前と比較して低次の欲求が満たされる人は確実に増えている。つまり、世界をより良くしてきたものは、他ならぬ先人の「志」だ。そこで、「志のある人が志を持てる人を増やしていくことが、世界が良くなるプロセス」という考えにたどり着いた。

「とはいえ、帰国後は内定をいただいていたソニーに入社しました。ちょうどXperiaで巨額の赤字を抱え、多くの人が辞めてしまったタイミングであったこともあり、若手ながら非常にたくさんの経験をさせていただきました。入社時は『将来はソニーの社長になる!』と息巻いていたのですが、その後順調にソニーが業績を立て直しました。自分の中では『日本のものづくりを立て直したい』という幼少期から抱いていた思いと同時に、『志を持てる人を増やしていきたい』という、パレスチナで得た思いが並行していました」

そして、区切りのよい段階でソニーを退職。「志高き個の力を群のムーブメントに変え、世界をより良くしていく」というミッションを掲げ、株式会社ブルーブレイズを立ち上げた。

等身大のロールモデルを探すインタビューメディアを作成

都築氏が大学時代の仲間と共に初めに手がけたのは、インタビューメディアクラウドファンディングにより資金を集め、自分と近い属性・職種・境遇の語り手の志や仕事哲学に触れることで、自分のやりたいことを定めるヒントが見つかるインタビューメディアローンチした。

「大人のバーチャルOB訪問とも言えますね。ネットを探せば、志を語るインタビュー記事はたくさんありますが、語っているのはネットを賑わす有名人や今をときめく起業家ばかり。そんなスーパーマンの話ではなく、もっと自分と近しい人の話が求められているのではないか。彼らの志を見つけるために、等身大のロールモデルたちを取材しています」

インタビュー記事を読んだ人だけでなく、取材を受けた人たちからも「自分のキャリアの棚卸しになった」と多くの好評を得た。そしてそれが、キャリア経験談をシェアできるプラットフォーム「CREEDO(クリード)」の前身となる。

「この志をもっと伝搬させていくにはどうしたらいいだろう? と考えました。結果、自分たちで直接やりとりしてもらおう、と」

インタビュー記事を作成してメディアとして介さずとも、キャリア経験談をシェアしたい人と参考にしたい人が直接やりとりをしてもらえれば、もっと志の輪が広がる。もちろんインタビュー記事もデータベースとして増やしていくが、これまで公募で募っていたインタビュイーも、参加者の中から探すことで探す必要がなくなる。メディアからCtoCプラットフォームへと形を広げた。

キャリア経験談を「売りたい」「買いたい」は半々

「CREEDO」は、キャリア経験をシェアしたい人と聞きたい人とで使い方が異なる。経験談をシェアしたい人は価格を設定し、シェアしたいトピックを発行する。経験談を聞きたい人は興味あるトピックを探し、プロフィールを見て申し込む。マッチングが成立したらトークルームで具体的な相談内容や日程を調整し、決済完了後、Web会議または対面で話すことができる。キャリアをシェアする人のメリットは、複業としての収入だけではない。人に話すことで、これまでの自分の考えや選択を整理し、自己理解を深める効果が期待できる点だ。リファラル採用のきっかけとしても利用できる。

「事前登録開始から10日で500人の方が登録してくれました。予想をはるかに超える数字で驚きました。しかも中を開いてみたら、『キャリア体験談をシェアして売りたい人』『キャリア体験談を買って聞きたい人』はちょうど半々くらいでした。年内に1万人の登録者数を目標としていますが、メルカリのように、買い手と売り手の転換が起きたらビジネスとしてはチャンスだと思っています」

初めは「ちょっと聞いてみようかな」と買い手側で参加する。そして「こんな話だったら自分も話せそうだな」と売り手側にまわる。そんな循環を理想としている。もちろんそんな自然な転換を起こすには、サービス提供側としての緻密なフォローが重要だ。

「聞き手も売り手も何を聞いていいか、シェアしていいのかなど、具体的には分かっていない状態だと思います。また体験談という無形のものにいくらの価格を付けていいのかも悩まれるところだと思います。価格設定などはココナラなどを参考にしていますが、トピックに関してもある程度設定しておくことが円滑なコミュニケーションのために必要だと考えています。少しの工夫によって(使われやすさが)左右されると思うので、その辺りは念密に設計しています」

キャリア「相談」ではなくキャリア「選択」を支援する

人の寿命は伸び、転職や、結婚・出産・定年後に働くことも当たり前となった今、キャリアのあり方は多様化・複雑化している。例えば、「未経験職種への転職を検討中」「大企業からスタートアップへ移ってみたい」「出産を機に独立を考えている」など、キャリアアップだけでなくキャリアチェンジを考えている人が増えている。

しかし、特定の企業で働く人の情報はあっても、キャリア全体の情報は少ない。そんな人たちが「本当に可能なのか不安」「どんなギャップや苦労があるのか知っておきたい」など、良いことも悪いことも含めたリアルな情報を知りたいと思ったときに参考にできる情報プラットフォームはない。海外であれば大学のネットワークなどの仕組みが整っているが日本ではそこまでのものを望めない。社内に相談できる人もいないし、キャリアコンサルタントに相談すれば転職を勧められてしまう懸念がある。

「キャリア相談ではない。アドバイスでもない。流通させたいのは情報なんです。キャリアシェアという文化を作っていきたい。右か左か悩んだ時に参考にできる人がいる。もしくはどうしたいか何がやりたいのか、もやもやとしている人に「こんな選択肢を選んだ人もいるんだ」というレコメンドにもなる。人生の先輩は必ずいるし、それを参考にしたい後輩もいる。「実はあなたにも売るもの(だれかの役に立つ経験)があるでしょう」という気づきも与えたい」

CREEDOは、人材業界も未経験であった都築氏の「志を持てる人を増やしたい」という純粋で熱い思いから着想を得て、潜在ニーズを掘り起こしたと言える。オープンは3月上旬を予定しているが、「コードの書きすぎで腱鞘炎になってしまって……」と、早速思わぬ足止めも。開成・東大・ソニー・起業、と眩しいキャリアを持つ都築氏の物腰は柔らかく、思いを語る姿は終始穏やか。しかし、経験を語るひとつひとつの言葉からは、等身大の熱量がじわじわと伝わってきた。まさに「志」を持って突き進む都築氏の思いが、より良い世界へ繋がる1歩として届けられることを期待したい。