社会保障に使われるお金は右肩上がりで増えていくが、それを支える若者たちは減っていく。「超少子化」「超高齢化」が加速する真っ只中で、“人生100年時代”を生き抜くために、今すべきことは何か。ファイナンシャルプランナーの横山光昭氏が、今日からでも始められる家計再生プログラムを伝授する。(JBpress)

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(※)本稿は『長い老後のためのお金の基本』(横山光昭著、ちくま新書)より一部抜粋・再編集したものです。

長寿のリスク

 今から約50年前、1970年の日本には100歳以上のお年寄りはたったの310人しかいなかったのです。北海道から沖縄まで、日本全国津々浦々探しても、100歳を超える高齢者は、たった310人! なんと希少価値だったことでしょう。

 それから20年後の1990年、3000人を突破するまでに100歳以上のお年寄りは増えています。さらに最新の2018年の人口統計を見ると100歳以上の高齢者は69785人もいます。ほぼ7万人にまで増えているのです。

 310人だった時代と比べると隔世の感があります。しかしこんなことで驚いてはいけません。2050年にはどうなっているのかというと、100歳以上の人は68万人になると予測されています(国立社会保障・人口問題研究所平成29年推計〉より)。

 ちなみに、ベストセラー『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社、2016年)の著者であるロンドン・ビジネススクールのリンダグラットン教授によると、2007年生まれの日本人の2人に1人は107歳以上生きるそうです。

 ということは、60歳で仕事をやめると、残り40年。70歳まで働いたとしても、あと30年はリタイア後の人生を生きていかなければなりません。

 30年40年とひとくちにいっても、かなりの長さです。江戸時代に生きていれば、もう一回、人生が最初からできるくらいの年月です。成人式が2回できるくらい、と言ってもいいでしょう。リタイア後の人生はどんどん長くなっています。

 私たちはまさに100歳まで生きる長寿のリスクに直面しています。リタイア後も、成人式を2回も行えるような人生にどう対応していくのか。のんびりしているひまはありません。

 これからは超少子化、超高齢化時代が加速していくばかりです。65歳以上の高齢者は増え続け、加えて子どもも生まれない......。人生100年時代といわれる現在の日本の課題は、まさにこの「超少子化」「超高齢化」社会にあります。

 年金、医療、福祉など、国が社会保障に使うお金の推移を見てみましょう。100歳以上のお年寄りが300人ほどしかいなかった1970年代は、社会保障給付費は3.5兆円でした。これが30年後の2000年には70兆円、2017年には120兆円にまでふくれあがっています。

 3.5兆円から120兆円へ! 国家予算で、この規模で増え続けるものはほかにないでしょう。この先、さらに社会保障に使われるお金は右肩あがりで増えていきます。

 しかしながらそれを支える生産年齢人口、つまり若者たちは減っていく。つまり国の収支でみると、収入より支出が完全に上回ってしまいます。

 こうなると、もはや国がなんとかしてくれる、という時代ではないことがわかります。どうあがいても、国が助けてくれないのは動かしがたい事実ですから、私たちは自分で自分の将来を守らなければなりません。すなわち、自分の生活を支えられる「強い家計」をつくっていかなくてはいけないのです。

 そのために、どうしたらいいのか。やるべきことはとてもシンプルです。

シンプルな3つの方法

(1) 収入を上げる
(2) 支出を抑える
(3) 資産を増やす

 この3つだけ。理想は全部をやることですが、最初からいきなりハードルを上げるのはたいへんですので、まずはこのうちの1つだけでも実行できれば上出来ということにしましょう。

 みなさんの家計もこの3つ、もしくは3つのうちの1つまたは2つでも実行できれば、いくらでも立て直すことができると考えてください。あきらめることはまったくありません。やりようはいくらでもあるのです。

 お金にまつわる行動でうれしいのは、なにかすれば確実に変化がおとずれることです。なにもしなければゼロですが、なにかを行動に移せば、それだけの効果が必ず期待できます。

 まず(1)の「収入を上げる」ですが、これはもっともシンプルな将来への対策です。リタイア後もなるべく長く働き続ける、あるいは専業主婦の女性もパートに出る。それだけで世帯の生涯年収は大きく違ってきます。

 かりに再雇用の月給が毎月25万円で、5年間、働いたとします。25万円×12カ月×5年間=1500万円。会社が負担してくれる社会保険料なども考慮しますと、実質1600万円近い収入を得られると考えていいでしょう。

 パートの収入でも、ばかにできません。月額5万円のパート収入だとしても、5年続ければ300万円が貯まります。私の80歳になる母親も、いまだに働いています。お店の手伝いやちょっとした掃除などの軽い仕事ですが、それでも月5万円になるそうです。

 高齢化社会になって、いいことが1つだけあります。それは働く年齢層が上がってくることです。体さえ健康であれば、意外と働く場所はあります。できるだけ長く働く、ということが「安心老後」へのもっとも効果的で、確実な戦略です。

 もっとも、現在サラリーマンとして働いている方は、毎月の給与が決まっているので、それ以上に収入を増やすのは難しいでしょう。しかし、(2)の「支出を抑える」は、どんな人でも、今日からでも、今からでも始められます。

 そもそも「老後2千万円問題」でも、毎月5万円の赤字を半分に縮小できれば、不足額は2千万円から1千万円に減ります。月2万5千円の節約なら、やりくりすればできない額ではありません。

「節約ばかり考えて、ケチケチ暮らしたくありません」という人が多いのですが、なにもしないでいると、老後にいやでもケチケチした暮らしを始めなければならなくなります。

 今、自分の意志で、前向きに節約に取り組むのか、老後、やむにやまれぬ状況に追い込まれて、いやいやながら節約生活を強いられるのか。私なら、迷わず前者を選びます。

 たとえば、タバコ代に毎日500円使っている人がいたとします。今日からタバコをやめれば、1月1万5千円、年間18万円、10年で180万円、30年で540万円を節約したことになります。

資産を増やす=投資

「投資」と聞いただけで、「難しそう」「損しそう」「危険だ」とアレルギー反応を示す人がいますが、実はいちばん難しそうな(3)は、今の時代にお金を貯めるなら、ぜひ取り組んでほしいと思うことです。

 昔と今ではお金の貯め方が違います。昔は貯金していれば、お金は安心でした。かつては銀行や郵便物局の金利が5%や8%をつけていました。8%の金利で10年預ければ、利息もいれて元本が約2倍になります。

 その後、日本はデフレ時代に突入しました。デフレの時代でも、貯金は有効なお金の貯め方でした。デフレでは、ものの価値が下がって、お金の価値が上がります。ですから、利息5%、8%の時代にはかないませんが、とにかくキャッシュでお金を持っていても、まるで利息がついているように自然にお金の価値は上がっていったのです。

 今のシニア世代にはそのころの価値観や常識をひきずっている人がたくさんいて、とりあえず、元本保証の貯金をしておけば大丈夫だろうと思う人が少なくありません。

 しかしこれが大間違いなのです。もちろん貯金はしていてかまいませんが、昔のように全部のお金を貯金に回していては、資産は目減りしていくだけです。なぜなら、

(1) 金利がとても低い

 普通預金の金利は今0.001%(!)しかありません。こんな時代では、昔のように預けていればお金が増えていくどころか、不用意にATMを使ったり、送金をして手数料がかかったりしてしまえば、あっという間にマイナスになってしまいます。

(2) これからインフレに向かっていく

 時代は通常であれば、インフレに向かっていきます。もちろん少し前の日本のデフレ時代のように、一時的にデフレが続くことはあるかもしれませんが、長い目でみれば、ものの値段は上がり、お金の価値は下がっていきます。ですからお金をそのまま置いておくと、どんどん目減りしていきます。

「リスクをとらないリスク」

 やりくりや節約をして、毎月コツコツ貯金していくことは大切ですが、それだけでは限界があります。これからは年金の支給額も減っていくでしょう。反対に物価は上がっていくという、前述したようなインフレに向かっていくでしょう。貯金だけで長い老後を生き抜くのは難しいと考えられます。

 貯金だけでは、知らないうちにお金が減っていくのです。ですから貯金だけでなく、それにプラスして「運用」という知識が不可欠です。

 これからは「投資」という掛け算を少し加えないと、資産を守れない時代になっています。人生100年時代を生きるためには、「投資」をしないという選択肢は今はもうない、と私は思っています。

win-winではない取引

 退職金が入ったり、年金生活に入ったりすると、取引きがある銀行の勧誘が一気に過熱してきます。「退職金無料相談会」「資産運用セミナー」「相続セミナー」など無料の相談会に誘われることがあるかもしれません。しかし、金融機関が開く相談会には行かないほうがいいというのが私の考えです。

 言葉は悪いですが、あれは銀行が利益率が高い商品を売ることができる絶好の機会です。もちろん真摯に考え、対応してくれる行員さんもいるとは思いますが、無料セミナーといっても、金融機関は人件費をかけてやっているので、それだけのメリットがなければ開催しません。銀行も今はどこも経営が厳しく、手数料で稼がないことには、やっていけないのが本当のところです。

 ですから、手数料の高い外貨建ての生命保険や窓口販売で行う投資信託などを積極的にすすめてくるですが、金融機関は個人に比べて圧倒的に多くの情報を持っています。商品を売る側と買う側で、はなはだしい情報格差がありますので、どこまで行っても、けっしてwin-winの関係にはなりません。

 結果的に金融機関に有利な条件で商品を買わされることになる、と思っておけば間違いないでしょう。つまりは、自分で調べ知識を持っておくことも大切である、ということでもあります。

「つみたてNISA」

 比較的安全な投資としてぜひおすすめしたいのが、「つみたてNISA」などで投資信託を運用することです。

 証券会社には、野村證券や大和証券といったリアル店舗を持つ大きな証券会社があります。一方、最近はネット系の証券会社も台頭してきました。私がおすすめできるのは、ネット系の証券会社です。

 リアル店舗を持つ証券会社は、セールス担当者が実際に何を買えばいいか、親切に商品の相談に乗ってくれます。それがいいという人もいますが、私からすると、よけいな雑音が入るので、逆に誘導されてしまって、相手の思うツボにはまることもあると思うのです。

 銀行同様、証券会社も手数料でもうけていますから、けっしてwin-winの関係にはなりません。相手は圧倒的な情報量を持つ“情報強者”であることを肝に銘じておくべきです。

 その点、ネット系の証券会社では、個別に商品の相談には乗りません。せいぜいサポートセンターでパソコンの操作の方法を教えてくれるくらいです。もちろんメールやウェブでおすすめの商品は紹介されますが、セールス担当者から直接電話がかかってくることもありません。よけいな雑音が入らない分、冷静な頭でしっかり考えることができるのです。

 ネット証券にはいろいろな会社が参入していますので、扱う商品の数が多く、手数料も安いところがいいでしょう。おすすめできるのはやはり大手です。楽天証券、SBI証券、マネックス証券、カブドットコム証券(編集部注:現auカブコム証券)の4社なら間違いありませんが、商品数が多く、素人でも使い勝手がいいところとして、私は相談に来られるお客さんには、楽天証券とSBI証券をおすすめしています。

何重にもお得なiDeCo

 もし老後の年金に上乗せをしたいのなら、おすすめしたいのがiDeCoですが、「運用するのがどうしてもこわい」という人は「元本確保型」の金融商品として、「積み立て定期預金」という商品があります。

 iDeCoが銀行の積み立て預金とどこが違うのかというと、積み立てている掛け金がすべて所得控除になる点です。

 ただし加入している公的年金制度と企業年金制度により積み立てられる上限があって、たとえば企業。年金のない会社員の場合、月2万3千円まで、年間トータル27万6千円までしか積み立てられません。しかしそれでも、積み立てている金額(=掛け金)が丸々所得控除になるのは大きなメリットです。

 なぜかというと、課税所得が抑えられるので、所得税や住民税が安くなるからです。年収500万円(妻あり)の人なら、年間約4万1400円も節税になります。同じ額を銀行に積み立てていても、まったく節税にはなりません。

 さらに受け取る利息にも、差が出ます。銀行の積み立て預金は、微々たる利息にも税金がかかります。一方iDeCoなら、運用益や利息も非課税です。さらに60歳になって、受け取るときに「退職所得控除」が受けられるので、税金が安くなります。

 それに、万一、自分が勤めている会社が経営破綻しても、iDeCoには影響しませんし、たとえ自分が債務整理をするようなことになっても、このお金は法的に守られることになっています。

 このように何重にもお得で、誰でも利用できるのに、どうしてiDeCoで積み立てをしないのか、私は不思議になってしまうくらいです。

 唯一、iDeCoが銀行の積み立て預金に負けるとしたら、60歳まで解約できないことでしょうか。逆に60歳まで解約できないから、しっかりお金が貯まる、と考えてもいいでしょう。

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