3月の年度末が近づいてきました。勤めている会社の同僚や部下、先輩、後輩の中から、思いがけず退職を表明する人もいるかもしれません。

 ところで最近、退職することを「卒業する」と言う人がいるそうで、ネット上では「会社を辞めるあいさつで『卒業します』と言われると違和感を覚える」「仕事で成果を出し、次のステップに行くための退職は『卒業』と言ってもよいのでは?」など、さまざまな声があります。

 なぜ、会社を退職することを「卒業します」と言うのでしょうか。キャリアコンサルタントの小野勝弘さんに聞きました。

自ら言うようになったのは2015年ごろ?

Q.いつごろから、会社を退職することを「卒業します」と言う人が現れたのですか。

小野さん「はっきりとした時期は分かりませんが、『卒業します』と言う人が増えてきたのはここ数年です。私も以前から、退職することをネガティブに捉えている転職希望者に『退職を卒業と捉え、次のステップを意識してみよう』と前向きな転職になるようにアドバイスすることはありました。

しかし、転職希望者が『今の企業を卒業して…』と自ら話すようになったのは、2015年ごろ以降のように思います」

Q.なぜ、「卒業します」なのでしょうか。

小野さん「ステップアップを意識するからです。次の自分のキャリアを考えた前向きな一歩として、退職を卒業と表現しています。しかし、特に前向きな理由があるわけではなくても使えるのが『卒業』という言葉です。友人や転職エージェントに転職理由を深く聞かれたくないという理由から、『卒業』と表現するケースも多いように感じます」

Q.会社を退職するときに「卒業します」と言うのは、アリでしょうか、ナシでしょうか。

小野さん「アリかナシかを決めるのは、外部の人間ではなく本人と社風です。なぜなら、表現をどう変えても『会社を離れる』という事実は変わらないからです。

『卒業します』と言える社風は、自分の進みたい方向を語れる会社です。そして、『社員の成長をそれぞれが応援する』という社風であれば、『退職を経て、新たに成長してきます。次のステップのために卒業します』と言いやすいのではないでしょうか。

逆に、ワンマン経営などトップダウンが激しい会社や、パワハラが横行しているような会社では言いにくいでしょう。そうした会社では、残る人への後ろめたさや、後ろ指を指されないようにといった理由もあり、そもそも退職を公言することを避ける傾向があるように感じます」

Q.「卒業します」という言い方は、20代後半~30代前半の社会人が使うことが多いそうですが、なぜでしょうか。アイドルグループメンバーの「卒業」と関係があるのでしょうか。

小野さん「もちろん、アイドルグループメンバーの脱退と関係があるように思います。しかし、過去にもアイドルグループは多数ありますし、『卒業』という表現は使われていました。よって、『卒業』というフレーズが心に刺さり、自分でも使ってみたくなった世代が、今の20代から30代前半の社会人だったということではないでしょうか。

ではなぜ、20代、30代前半の社会人に『卒業』というフレーズが刺さったのか。それは、単純にキャリア意識が形成されてきている世代だからだと私は考えています。通常、『卒業』という言葉を使うときは、高校を卒業して大学へ進む、大学を卒業して企業へ入社するというように、次のステップが用意されています。

最近、しきりに叫ばれている『キャリア教育』をしっかりと受け、自分の人生を自分でデザインしていくというキャリアデザインの考え方を学んでいる世代だからこそ、『卒業』という表現がぴったり当てはまったのではないかと思います」

Q.逆に、会社の上司が部下が辞めることを公にするとき、「卒業する」を使うケースがあるそうです。本当でしょうか。

小野さん「部下が辞めることを公にするときに『卒業する』を使うケースは実際にあります。

一番多い理由は、社内の人に話しやすいからというものです。『今度、○○さんが会社を辞めるから』という話をするだけで、やたらと理由を聞かれたり、連鎖退職の危険を感じたり、マネジメントに支障が出てしまったりするケースがあり、それを防ぐために『卒業する』という表現を使うのです。

また、他のケースで言えば、退職後しばらくして同じ会社に復帰することを歓迎している企業で、『成長して戻って来いよ』という意味を込めて、『卒業』という言葉を贈っている会社もあるようです」

Q.「卒業します」と言いたい場合、どのような状況で辞めるのであれば、周囲から「まさしく卒業だね」と納得して送り出してもらえるでしょうか。

小野さん「自分の進むべき方向を定めていて、進路まで決まっているような状態で、かつ社内の根回しをきちんと踏んでいるという状態であれば、納得して送り出してもらえるのではないでしょうか。周囲から快く送り出してもらいたいのであれば、今の会社の中では達成できないことが明確であり、周りもそれを納得済みである必要があります。

また、引き継ぎを含めて業務をしっかりこなして、『職場に貢献した』と言えるような状況を作ることも大切です。そうしないと、『自分勝手に行動する迷惑な人』になってしまい、『納得しての送別』からは遠ざかるでしょう。

どうしても『卒業します』と表現したい場合という想定は、自分しか見えていない状態であることが想像されます。卒業するまでの間、残る人に自分はどんな貢献ができるのかを考え、一つでも多く貢献しましょう。そうすることで、『まさしく卒業だね』と言ってもらえる環境をつくれるでしょう」

 あなたは、会社を「退職」しますか? それとも「卒業」しますか?

オトナンサー編集部

「退職」ではなく「卒業」、なぜ?