主に海生の甲殻類であるシャコ(Mantis shrimp)は、「地上最強のハードパンチャー」と言われています。
人の握りこぶしほどのサイズながら、威力・スピードともに他の生物の追随を許しません。
プロボクサーのパンチスピードが平均時速30〜50キロなのに対し、モンハナシャコは80キロ。パンチ力も折り紙つきで、不用意に触ろうとしたダイバーの指を折ったという話があるほどです。
もし彼らが人と同じサイズなら、おそらくワンパンでビルの壁に風穴をあけてしまうでしょう。
水中でこれほどの威力とスピードなのですから、抵抗のない空気中ならば、さらにパンチ力が上がることが予想されます。
ところが今回、アメリカ・ミネソタ大学が、空気中でのシャコのパンチ力を計測したところ、水中時より大幅に弱まることが判明したのです。
その理由には、地上最強ならではの理由が隠されていました。
研究の詳細は、2月25日付けで「Journal of Experimental Biology」に掲載されています。
シャコの驚異的なパンチ力
シャコのパンチは、バネ仕掛けになっており、弓矢のように力を極限までためて一気に放ちます。パンチスタイルは、顔の下で折りたたまれた両腕を同時に放つというものです。
これで獲物となるカニを失神させたり、貝の堅い殻を割ったりします。
下は、シャコのパンチをスローモーションで撮影した映像です(今回の実験で撮影されたものではありません)。
実はシャコのパンチは、カニや貝の殻にとどまらず、薄いガラスまでもぶち割ることができるのです。
証拠映像はこちら。
空気中ではパンチ力が落ちる!?
今回の実験では、ハイスピードカメラを用いて、パンチを繰り出すシャコの様子を撮影し、威力やスピードを分析しました。研究チームは、シャコの下腹を安全な棒で突つくことで、パンチを出させています。
研究主任のケイト・フェラー氏は「前予想として、水中のような抵抗力がない分、当然パンチ力も上がるだろう」と予測していました。
しかし結果は真逆で、空気中でのスピードは水中時の半分以下、威力に関しては10分の1程度しか出ていなかったのです。
研究チームはこの結果について、「空気中ではパンチの威力が水中ほど伝達しきれないのでは」と推測。しかし、別の研究で、シャコは状況に応じてパンチ力を微調整できることが報告されています。
つまり、シャコは空気中では、あえてパンチ力を抑えているのではないかということです。
これはシャコがパンチを放つ際に放出される余分なエネルギーをいかに消散させているかに関係します。
例えば、同じバネ仕掛けの部位を持つバッタやイナゴは、跳躍の余分なエネルギーにより関節を傷めないよう、脚の後部にエネルギーを吸収するクッション構造を持っています。
一方、シャコにそのようなクッションはありませんが、彼らはパンチの余分なエネルギーを、標的であるカニや貝殻の体表面で消散させているのです。
つまり、シャコはパンチ力が高すぎるあまり、フルスイングで空振りすると、ヒットしていない分のエネルギーがすべて自分に返ってきて、関節を傷めてしまうというわけです。
ターゲットのいない空気中でパンチ力を落とすのは、ハードパンチャーならではの悩みなのかもしれません。
コメント