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 一向に終息の兆しが見られない新型コロナウイルスのおかげで、武漢や香港、シンガポールイタリアなど、一部のスーパーマーケットの棚からは、商品がほとんど消えてしまっているようだ。

 日本でもマスクや消毒液は常に品薄状態となっているし、更にはトイレットペーパーはマスクと同じ材料だから品薄になる」という”全くのデマ情報”がSNSで拡散し、全国でトイレットペーパーが品切れする事態が相次いだという。(これに対し、メーカーが加盟する日本家庭紙工業会では「国内のメーカーは通常どおりの生産を行っていて供給量は十分にあるため、トイレットペーパーの在庫がなくなることはない」としている)

 ニュースメディアは、こうした様子をパニックによる買い占めと伝えている。だが、これは本当にパニックのせいなのだろうか?

 ニューカッスル大学の行動経済学デビッド・A・サベージ准教授とクイーンズランド工科大学のベノ・トルクラー教授は、こうした買い占めについて、パニックなどではなく、現在の状況に応じた適切な対応であると解説している。

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パニックに陥った暴徒は現実にいるのか?

 研究者らによると、パニックは、人間の行動の中でも一番誤解されているものの1つであるという。その行動についての従来の理解は、現実というよりは誤った通念に基づいているのだ。

 パニックと聞けば、恐怖で理性を失った人たちによる不合理な行動が思い浮かぶかもしれない。しかし、災害に直面した人々が見せる行動は、大抵はそれとはまったく違うようだ。

 災害をテーマにした映画などでは、極限状態で社会秩序が崩壊し、人々が暴徒となって狼藉を働く場面が描かれている。

 しかし、ほとんどの研究は、茫然自失のショック状態やパニックを起こした群衆といった、いわゆる「災害症候群」を否定している。現実の被災地で人々が見せる行動は、倫理的に許容できるもので、法律や社会習慣をきちんと尊重しているのだという。

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image by:MichaelJay

不測の事態に備えた将来を予測するロジカルな思考


 もし今起きているのがパニックではないのなら、何なのだろうか?

 多くの動物とは違い、人間は多少なりとも将来の危険を予測して、それに備えることができる生き物だ。そして新型コロナウイルスの場合、重要なファクターの1つは、世界で情報が共有される速度だ。

 ウイルスに感染することを恐れ、住人が外出を控えているために、まるでゴーストタウンのように人気がなくなった武漢などの街中の様子が報道されている。

 こうした状況を目にしたとき、自分自身の近所が似たような状況になった事態に備えておこうと考えるのは自然なことだ。

 自分の街にもウイルスが広まるのなら、できるだけ他者との接触を避けねばならない。そのためにはある程度の食糧やその他の備蓄が必要だろう――これはロジカルな思考だ。

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備蓄の確保は本能的な生存メカニズムの発露

 その脅威が大きく感じられれば、それに対する反応も大きくなる。現時点ではウイルスの潜伏期間は1日~14日(日本感染症学会)と考えられている。だから人は、少なくともその期間は外出せずにすむ備えを、と考える。

 これに対して備えておこうというのは、恐怖に煽られた不合理な行動ではなく、本能的な生存メカニズムの発露だ。歴史を振り返れば、人々は厳しい冬や不作、疫病の流行といったことに個人的に備えながら生きてきたが、これと同じだ。

 備蓄を確保しようというのはもっともな反応であって、人々が目の前の状況にただ翻弄されているばかりではなく、あり得る事態を想定して、計画的に行動しているということを示している。

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iStock

不確かな状況では、最悪の事態を想定する傾向にある


 災害に見舞われると、状況は非常に不確かなものとなる。それは、問題への対策が現状ではなく、認識された脅威に基づいてなされるということだ。

 そして、この不確かさのために、人々の行動は過剰なものになりがちだ。人間は一般にリスクを回避しようとする生き物で、楽観的なものよりも、最悪のケースに備えようとする傾向にあるのだ。

 災害を生き抜くために個人的に備蓄を用意しておこうとする際、騒ぎがいつ終息するのか分からない以上、どれだけ用意すればいいのかも分からないだろう。

 すると、判断の誤りは、過少な備えよりも、過剰な備えのほうにズレることになる。合理的な人間が不確かな将来に備えようとするならば、これは自然な反応である。

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Khusen Rustamov from Pixabay

感情は必ずしも不合理な行動を誘発するわけではない


 スーパーのマスクや消毒の棚が空っぽになってしまうようなこうした行為は、一見すると不合理で感情的な反応にも思えるかもしれない。

 だが、感情とて不合理なばかりではなく、ある物事にどれほど注意を向けるか決める手助けをしている。

 感情があるからこそ、人間は物事にいつまでも関心を払い、それに対して懸命に、かつ柔軟に対応することができる。それは人間行動の本能的な要素で、人々の行動を分析する際にしばしば見落とされがちな部分だ。

 とは言っても、こうした一人一人の行動の変化が、大きな結果を引き起こすことがある。

 たとえば、スーパーマーケットは平均的な消費量に応じて商品の仕入れを行なっている。突然の変化に対応するようできてはいない。そのために、需要の急増に直面すると、在庫がまるでないという状況になる。

 それはパニックに陥った人々のせいではない。個人がどうすれば生き残れるか、合理的に考えて行動に移した結果なのである。 

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インフォデミックには注意

 ただし一つだけ注意しなければならないことがある。不安定な状況下においてや誤情報やデマが拡散されがちなのだ。世界保健機関(WHO)はこれを「パンデミック」ならぬ「インフォデミック(infordemic)」と指摘し警鐘を鳴らしている。

 SNSの普及により誤った情報がいとも簡単に拡散されてしまう。今日現在で(2/28)新型コロナウイルスの治療法は確立されていないし、民間療法で対処できるものではない。

 権威ある人の名を語ったフェイクニュースなども拡散されており、先の見えない不安から普段なら信用しないような情報も信じてしまいがちだが、惑わされない為には、必ず厚生労働省の報道発表日本感染症学会の発表をチェックしておこう。

References:Stocking up to prepare for a crisis isn't 'panic buying'. It's actually a pretty rational choice/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52288334.html
 

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