離婚後、日本では子の親権は両親のどちらかがもつ。親権を持たない親らが「共同親権」の導入を求めて声をあげる中、2月28日、「シングルマザーサポート団体全国協議会」代表の赤石千衣子さんらが、共同親権の法制化に反対する1万人を越える署名(「STOP 共同親権」)を森まさこ法務大臣に提出した。

提出後、赤石さんは「子どもやDV被害者の安全が確保されていない現状では共同親権を法制化しないでほしいこと、DV防止法の改正などを要望として伝え、法務大臣から『しっかり受け止める』というお答えをいただいた」と話した。

本田正男弁護士は「(共同親権に反対する)当事者は声があげにくいため、声が届かなかったが、これだけの数が集まったのは、潜在的な問題であることのあらわれだ」として、「親権とは本来、親としての権利ではなく責任のこと。共同親権になれば、親権という武器をもちあって諍いがより大きくなる恐れがある」と懸念を示した。

●声をあげられない「共同親権を望まない」当事者

法務省は共同親権の導入について検討する研究会(「父母が離婚した後の養育の在り方を中心とした家族法の検討課題について」)を実施している。こうした動きを受け、DV離婚経験者、ひとり親、虐待被害者の匿名グループ「あんしん・あんぜんに暮らしたい親子の会」が声をあげ、署名活動が始まった。

赤石さんらが今回、署名提出に動いた理由の1つに、当事者の声がなかなか社会に出てこないことへの危機感があったという。

「メディアには共同親権の導入を要望する声が多く出ます。しかし(DVを受けた方は、身の危険から)表で顔を出して声をあげるのが困難です。この方たちの声が国会、関係省庁に届いていません」(赤石さん)

●共同親権の導入、何を問題視しているのか

共同親権の導入を主張する際、理由の1つとして「単独親権のため、離婚後、面会できない」ことはよくあげられる。

これについて離婚に詳しい弁護士からは「程度(時間や頻度)の問題はあるが、面会交流はほぼ実現している。現在、裁判所によって、面会を制限されることは、そうせざるを得ない事情が認定された、例外的な措置」との指摘もある。

「別居や離婚後も、養育者としてかかわる仕組みは単独親権でもできます。単独親権下でも、暴力があっても面会交流を強制されている現状があり、共同親権になったら、よりつらい目にあうのではないかという声が親や子からあがっています」(赤石さん)

共同親権は「DV」がある時は、面会交流は対象外とされる。しかし現状でも、精神的DVやモラハラがDVと認められず、面会を余儀なくされているケースもあることに強い危機感を抱く関係者は多い。

先の弁護士も「殴ったり、蹴ったりという身体的暴力だけでなく、DVには精神的、心理的、経済的、性的暴力も含まれる。ところが現在のDV法は、あまりにもDVの定義が狭すぎ、カバーされていない」と問題を指摘。

「共同親権制度によって、安心、安全な生活が続けられなくなる恐れがある。すでに離婚が成立した人も、共同親権が導入されることで、婚姻時のような嫌がらせを受ける恐怖心を抱えている。当事者がそういう心理状態であることを理解して欲しい」(赤石さん)

また本田弁護士は「裁判所は『原則、面会交流を実施』という枠組みで運用している。が、本来は個別のケースに応じて、裁判官が人格的に向き合うべきなのに、あまりに数が多くて処理できない。司法インフラが足りていない」という実態も指摘した。

「共同親権では、子どもの安全が守れない」慎重な議論求め、1万人の署名提出