―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―


その79 自衛隊の緊急医療体制と新型コロナウイルス

◆「ダイヤモンド・プリンセス号」へ自衛隊の医療支援

 自衛隊には医官や歯科医官、薬剤官、看護官など多職種の医療スタッフがいます。これまでも、自衛隊の医療関連部隊は要請を受けて、地下鉄サリン事件などのテロ対処、災害時の健康調査など支援活動を行ってきました。今回、自衛隊新型コロナウイルスの集団感染で医療支援活動を行った際も、自衛隊の記事を専門に扱う朝雲新聞社が以下の内容を報じています。

 自衛隊は医師の資格を持つ予備自衛官(最大50名)に召集命令を2月13日に発令、240人態勢で新型コロナウイルス対処にあたりました。

ダイヤモンド・プリンセス号」や、武漢からのチャーター便の帰国者に対して、自衛隊は医療支援や搬送支援活動を行っています。4台の自衛隊救急車が船内から病院への輸送支援をしています。新型コロナウイルスの医療の最前線の現場は危険と隣り合わせです。現場ではDMAT(災害派遣医療チーム)に交じって、自衛隊もいたことを知っていただきたい。そのご苦労を報じるメディアが増えてほしいものです。

自衛隊救急車は最大一度に8人を運べる

 さて、自衛隊にはどういった医療用の装備品があるのでしょうか? その一部をご紹介したいと思います。(陸上自衛隊 千僧駐屯地を取材させていただきました)

 まず、自衛隊救急車は「白」ではありません。赤十字保護標章が車体の横になければオリーブ色の自衛隊トラックに見えますが、赤色灯も搭載したれっきとした緊急車両です。車体内は両サイドに担架をそのまま搬送できる2段の細いベッドがあります。両サイドで4人、中央にも1人分の担架が積め、最大5人の担架が一度に輸送できます。

 座ればなんと最大8人が輸送できます。さらに、かなりの悪路でも走れます! 簡単な応急処置をしながら緊急搬送業務が行えます。自衛隊だから、新型コロナウイルス対処にも「命をかけて国民を守る」任務を遂行してくれるのだと感謝したいものです。

自衛隊の衛生部隊・移動式医療システム

 さらに、陸上自衛隊には屋外で展開できる移動式医療システムがあります。 野外手術車は手術準備車・滅菌車・衛生補給車とチーム動きます。これは電気・水道などの供給の望めない場所でも、電源車や給水車を同行すれば応急の救命手術ができるすぐれものです。

 有事の際の自衛隊員の負傷を想定してつくられているため、インフラの望めない場所でも応急の開胸・開腹手術が可能なシステムを持っているわけです。出血を止めるダメージコントロールを行い、設備の整った病院に搬送する時間を稼ぐことができます。

 この野外手術システムモジュールの各車両はコンテナなので、船に積み込むことも、地面に設置して野外病院の一部にすることもできます。離島にも人里離れた山間部にも運ぶことも条件がうまくあえば可能です。

 そのほかにも航空自衛隊には人工呼吸器を必要とするなどの重症緊急患者にも対処できる高度な機動衛生ユニットがあります。これは輸送機にそのまま積んで運ぶことができます。また、海上自衛隊の艦艇内には手術可能な医務室があります。いずも型護衛艦には手術室も設置された広い医務室がありました。

 ここまで自衛隊の移動式医療システム素晴らしいポイントをお伝えしましたが、ここにもまた予算の問題があります。残念なことにこの陸上自衛隊の野外手術システムの薬品棚は通常時は空です。

「常時使うわけじゃないでしょ?」「使うときに必要な消耗品や資材などを補給系統に依頼して補給してもらえばいいでしょ?」というシステムです。常時即応体制を取れるわけではありません。医官や看護官、薬剤官なども通常時は自衛隊病院などに配属されています。必要になれば呼び出され編成チームをつくるかたちです。これでは初動が遅れます。

 医官や看護官が移動式手術システムを使い慣れたほうがいいのですが、実際には使う場面がありません。事故現場や災害派遣で医官が実際に活躍することで、医療技術が向上し、より多くの人を救命できる可能性が広がります。しかし、それには通常業務を圧迫しないためのお金と人が足りません。せっかくの装備品がもったいないなぁと感じます。やはり、予算と人員をケチってはいけないのです。

自衛隊が誇る救急医療と予算の限界

 米国は「ダイヤモンド・プリンセス号」に乗船していた国民を帰国させるためにチャーター便を送りました。米国のチャーター機内では完全な個人防護具(PPE)を着た医師が体温を測るなどの健康チェックを行っていました。米国は対処する医療スタッフに対しても予算を使って感染から防護しています。

 自衛隊の「医官、薬剤官、看護官」が船内で薬の仕分け作業や健康状況の確認作業を行う写真も記事中に掲載されていました。そこでは自衛隊の隊員の一部しか防護服を付けておらず、マスクだけで対応している自衛官もいました。自衛官にも防護服をつけさせてあげてという声がSNSで沸き上がりました。

 2月19日防衛省は、ようやく「薬剤仕分け区画で作業をする隊員については、これまでサージカルマスクと手袋を着用し作業に当たっていましたが、感染リスクを局限するため、本日からガウン、ヘアキャップを追加で着用しています」とTwitterで発表しました。新型コロナウイルスの感染力を甘く見ていると、新たな二次感染に繋がります。対処する自衛隊員たちには、十分な感染予防処置を取ってほしいものです。自衛隊には医療用の防護具(PPE)が十分にあるのか? とても気になるところです。

東京都が防護服を12万着中国に送るって?

 そんななか、東京都は2回に分けて12万着もの防護服を中国に送っています。タダで外国に提供するなら、自衛隊やDMATに無料で提供すべきかと思います。経済大国である中国に対し、その支援の代金は請求しているのでしょうか? 税金で都民のための災害備蓄品を無料で送ることは、いかがなものかなぁと思います。変ですよ。それ。

 兵庫県も防災のために備蓄してあったマスク100万個も中国に提供しました。県下ではマスクが足らず、医療機関ですら使い捨てマスクを水洗いして再び乾かして使うような涙ぐましい努力をしているというのに! おかげで兵庫の備蓄倉庫はすっからかんです。「許せない!」と私は兵庫県民として嘆きたいです。

 自衛隊の野外手術システム救急車も他にはない高い能力を持っていますが、そこで任務に当たる自衛官は人間です。病気に感染しないわけではありません。未知のウイルス対処に医療従事者が感染対策をしなければ、彼らが働けなくなるだけでなく新たな感染源となってしまいます。

 予算があり余って、マスクや防護服が不要なら、必要とする自衛隊や消防、DMATなどに寄付すべきでしょ。防護服は着脱が難しく、ウイルスに暴露されないように正しく使うためには日頃から訓練が必要です。でも、訓練をする防護服だって予算です。自衛隊の予算はともかく余裕なくギリギリです。予算不足からさまざまな問題が起こります。

 自衛隊救急車や野外手術システムの各モジュールもそれを運用する隊員さんたちも優秀な方たちでした。でも、どんな道具も常時使って慣れておかなければ、十分な力は発揮できません。リスクに対して事前に最悪を想定して、できることを準備する力は「知性」です。

 転ばぬ先の杖である自衛隊の予算は十分なのでしょうか? 自衛隊だって、医療機関だってマスク不足なんです。 兵庫県が中国に差し上げた100万枚のマスクがあればなぁと思います。まず、日本人の健康や安全を第一に考えて下さい。

 外国に対して気前よすぎですよ。

小笠原理恵】
国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年ブログキラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。9月1日に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

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