「私だけこんなに辛い目にあってるのに、のうのうと生きている部長を許せません」。弁護士ドットコムニュースのLINEで、読者から「不倫体験」を募ったところ、たくさんの情報が寄せられました。

今回、不倫体験を寄せてくれたのは30代女性のSさん。社内不倫があまりに壮絶な終わり方をし、それから数年経った今でも、不倫相手の元上司を訴えられないかと「復讐」を考えています。

●元不倫相手に6年越しの怒りをたぎらせる女性

相談を寄せてくれたSさんは現在、東京都内で夫と子どもと静かに暮らしています。働いているため仕事と育児とで、てんてこ舞いの毎日のようです。しかし、その穏やかな表情のSさんが結婚前に起こした社内不倫で会社を追われた過去があると言うのです。

不倫相手の上司だけでなく、信じていた同僚にまで裏切られたという6年前の不倫劇を振り返ってみましょう。

●2人きりの海外出張。夜のホテルで始まった不倫

Sさんは大学卒業後、新卒で大手IT企業に就職しました。問題の男性と出会ったのは、社会人4年目のとき。当時、Sさんは27歳、同じ海外営業部の部長だった彼は39歳でした。

初めて男女の関係になったのは、2人だけで行った海外出張先だったといいます。宿泊先のホテルのバーで一緒にお酒を飲んだ後、部長の部屋で飲み直すことになりました。部屋の中でいきなり押し倒されたときには、驚きはありましたが、スーツにも気を使えるおしゃれな「年上の大人の男性」への好奇心もあり、そのまま受け入れました。

それから海外出張へ行くたび、数カ月の間に5回ほど関係を結んだそうです。部長には社内結婚した妻がおり、しかも当時は妊娠中でした。

Sさんも「家庭のある相手ですから離婚を求めることなんて考えていませんでした。私にも別の会社に勤める彼氏がいたし、お互いにただその場の恋愛を楽しむだけの関係でした」と割り切った関係を強調します。

ところが、そんな「火遊び」が破滅につながったのです。

●「おまえは誰かに不倫のことを言ったのか?」

「当時若かったこともあり舞い上がっていた私は、会社の同僚のA子、後輩のB美とC奈との飲み会で『部長との不倫』を打ち明けたんです。愚かでした。彼女たちが社内に噂を広めて、部長や本部長の耳にまで入ることになりました」(Sさん)

それからしばらく経ち、すっかりその日のことを忘れていたSさんに、部長から連絡がありました。

本部長から呼び出しを受けて『不倫をしているのか』とヒアリングされた。おまえは誰かに不倫のことを言ったのか?」。部長の話にSさんから血の気が引いていきます。さらに「自分には家庭があるし、なんとか不倫を否定してほしい」と懇願されてしまいました。

会社に不倫がバレているーー。動揺したSさんは部長に「不倫のことは言ってない」と思わず嘘をつき、「不倫を否定する」と答えたそうです。面談を終え、これで終わったとホッとしたのかもしれません。

しかし、これは終わりの始まりに過ぎなかったのです。

●厳しいヒアリング「後輩に話したことは、セクハラだ」

部長からの連絡から数日後、出社したSさんに人事部と本部長からの厳しいヒアリングが待っていました。

「不倫をしているのか? そんな話を聞きたくもない後輩に言ったのか? 後輩は嫌がってたんだぞ。セクハラだ」(本部長

Sさんはこう振り返ります。

「セクハラだなんて言われてとても驚きました。居酒屋での会話は、ガールズトークそのもので、みんな興味津々で楽しく聞いていました。同期のA子とは旅行に行くほど信頼していたし、後輩2人とも週に2〜3回は飲みに行く関係でした。まさかセクハラとか、嫌がってるとか、寝耳に水です」

●急に「セクハラだ」と糾弾された理由

一体、何があったのか。Sさんの推測では、後輩は自分たちの流した噂が想定以上に広まり、不倫を言いふらした張本人だとバレることを恐れ、一計を案じたようです。

「Sさんから性的な話を無理やり聞かされるセクハラを受けた。その相談をしたら不倫の話が社内に広まってしまった。このままではSさんが怖くて会社に行けなくなる」とありもしない話を本部長に報告したのではないかーー。

事実はわかりませんが、Sさんは後輩たちの裏切りの理由をそう分析しています。本部長から不倫の事実を確認されたSさんは、部長からお願いされていたこともあり、その場では不倫を否定します。

「私も否定することが一番だと思い込んでいたのでヒアリングでは『不倫していません』と否定しました。会社の判断は持ち越され、そのまま自宅待機を命じられました。『Sが会社に来ると、後輩が怖がって業務に支障をきたす』という理由です」(Sさん)

●「虚言癖のある女」として扱われ、屈辱の謝罪

自宅待機の間に処分が決定しました。しかし、その結果は思わぬものでした。部長とSさんの不倫の事実はなく、すべては「Sさんには虚言癖と妄想癖があり、嘘をついていた」という結論で片付けられたのです。

「『不倫の事実はない』という結論になり、会社からは後輩2人に謝るように言われました。不本意でしたが、それで片付くならと後輩2人には『嘘をついてごめんなさい』と会議室で頭を下げました。でも、いくら後輩に謝っても『誠意が感じられない』とますます悪者にされたのです」(Sさん)

処分は屈辱的な謝罪だけで済みません。Sさんには東京の本社から大阪の子会社への転籍が命じられ、ずっと働いてきた海外営業部とは全くの畑違いの総務部への配属が決まったのです。「不当だ」と必死に猛抗議しましたが、全く聞き入れられませんでした。

さらに驚きなのは、新卒時代に受け取ったストックオプションの放棄までも厳命されたのです。

「当時の精神状態は普通ではなく、とにかく早くその状態から抜け出したかったので、ストックオプションの放棄も了承しましたが、今思えば納得できる理由の説明も全然ありませんでした」(Sさん)

●部長は被害者扱い。ペナルティーは一切なし

Sさんにとって納得できないのは、不倫相手の部長だけはお咎めなしだったことでした。

同じく自宅待機をしていた部長だけは「なんでSが不倫の話なんてことを言ったのかわからない」など被害者の立場を貫き、何食わぬ顔で元の仕事に戻ったのです。

「被害者ヅラした部長は復職しましたが、私は体調を崩し、自律神経失調症と鬱で1カ月の療養を会社に申し出ました。事情を知らない同僚たちからは『そんなことをする人だとは思わなかった。がっかりした』などとメールが届き、つらくてつらくて、泣いてばかりの日々で本当に大変でした」(Sさん)

仲間からは嘘つき呼ばわりされ、好きだった部長からも切り捨てられ、失意のどん底でした。ようやく立ち直り、仕事復帰を急いだものの、会社側は「戻る先が決まらない」という理由で休みを3か月引き伸ばします。その間の給料も出ていません。

その後、縁のない大阪支社で慣れない仕事を始めたSさん。結局は転職し、付き合っていた彼氏にも正直に事情を話して、そのまま結婚して子どもをもうけました。

●静かな生活が一転。部長との再会が怒りに再び火をつける

平和な日々のはずでした。しかし、思いがけないことに、あの部長との「再会」をしてしまったのです。

「埼玉に住んでいたはずの部長が、数年前に私たち家族の住む場所から数駅離れたところに引っ越してきました。うちの近くのスーパーで遭遇したんです。家族と一緒で、お互いに見て見ぬふりをしました。

怒鳴ってやろうかと思いましたが、いざとなると声が出ないものですね。また会うのはイヤなので、それからは買い物の時間をずらしてるんですが、なんで私がそんな思いをしないといけないのか…」(Sさん)

不倫の後始末によって、Sさんの生活は一変しました。昔の会社の同僚の結婚式やOB会にも呼ばれません。友人からは「人生勉強だと思いなよ」と言われるそうですが、納得はできません。

「私も確かに悪いことをしました。それは反省してます。ただ、部長だけがのうのうと生きてるのが許せない。やつは家族とトラブルにもなってないし、会社でも出世しました。私と同じくらいズタボロになって欲しいです」(Sさん)

●部長を名誉毀損で訴えたい。ストックオプションも返せ

Sさんは部長をこらしめ、自分の気持ちを納得させるための計画を考えています。

(1)名誉毀損で部長を訴える。 (2)ストックオプションの放棄命令は不正として会社から取り返す。 (3)部長に内容証明を送り、Sさんの居住エリアに近づくなと伝える。

Sさんによれば、この行動を夫も了解してくれています。ただ、法的に問題はないのでしょうか。

●弁護士の見解は?

そんなSさんの希望に添えるような回答になるのでしょうか。冨本和男弁護士に聞きました。

ーー元不倫相手の部長を名誉毀損罪に問えますか?

部長はSさんの社会的評価を低下させるようなことをあちこちに言いふらしているわけではないので、部長は名誉毀損に当たりえません。

また、名誉毀損罪公訴時効は3年のため、今回のような6年前のケースでは無理です。

ーーストックオプションを会社から取り戻すことはできますか?

動揺していたとはいえ、任意放棄しているので、ストックオプションを取り戻すことは難しいと思います。錯誤状態であることや、強要や脅迫がなければ、取り返せる理由は特にありません。

ーー内容証明を部長に送ってもよいのですか?

それはできます。気をつけなければいけないのは、「またスーパーに来たら会社にも伝える」などの書き方は強要罪にあたりえます。「近くに引っ越して来ないでほしい」「スーパーに来るのはやめてほしい」など、ただのお願いに過ぎませんが、そういう書き方で相手の自宅に送るのであればそこまで問題にはならないでしょう。

ストーカーに対しては接見禁止を命じることはできますが、今回はそのようなケースでもありません。相手の行動を制限できる理由が全くありません。

会社に送った場合ですと、本人宛の郵便でも社内の誰が見るのかわかりません。内容が会社に漏れたことで部長が不利益を被ると、名誉毀損で慰謝料請求される恐れもあります。

私のもとにもSさんと同じような相談に来られるかたが大勢いらっしゃいます。しかし、このような行動を取ると逆に責任が問われかねません。内容証明を送ることはできますが、やり過ぎだと思います。

●社内不倫の代償

部長を名誉毀損で訴えたいといったSさんの強い思いとは裏腹に、部長に対してアクションを取ることは法的なリスクがある。冨本弁護士はそう指摘し、Sさんに冷静な対応を取ることをすすめました。

転職によってキャリアダウンしたこともあり、Sさんの年収は下降線をたどりました。

「私が辞めてからも本社でずっと働き続けた同期は、年収1000万円を超えたそうです。一方、私の年収はやっと550万円。部長や同僚に裏切られたことで、数千万円の損失が出ました。これだって取り返したい気持ちです」

相手が既婚者と知って不倫を始めたSさんの責任も大きいのでしょう。不倫の代償は大きいーー。Sさんの話の隅々から、そんな悔しさが伝わってきました。

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