神奈川県横須賀市にある独立行政法人国立病院機構「久里浜医療センター」は、アルコール依存症の専門治療で知られる。本書『スマホ依存から脳を守る』(朝日新書)は、同センター精神科医長の中山秀紀さんが、インターネット依存症やゲーム依存症に警鐘を鳴らすために書いた本だ。

ゲーム依存は疾患

 昨年(2019年)5月、世界保健機関WHO)は、スマートフォンなどのゲームにのめり込んで日常生活に支障をきたすゲーム依存症が、「ゲーム障害」という疾患であると認めた。ギャンブル依存症などと同じ精神疾患に分類されたことを冒頭に書いている。大人も子どももかかりうる病気であるとして、前半3章を覚せい剤アルコールなどさまざまな依存物と依存症について充てている。

 中山さんアルコール依存症が専門だけに、アルコールの規制に詳しい。1920年に発効したアメリカ禁酒法は、飲酒すること自体は禁止していなかったとか、興味深いことを紹介している。日本の「未成年者飲酒禁止法」案は、明治34年(1901年)に提出されたが、衆議院で6回、貴族院で12回廃案になり、成立したのは大正11年(1922年)だった。反対する議員の答弁に「酒をゲームに置き換えると現代にも通用しそうな議論に思える」と皮肉っている。

 第4章以降がスマホ依存症を扱っている。いささかじれったいが、この構成はよく出来ている。なにしろ、スマホ依存症はアルコール依存症などと同じ「疾患」であるという「読者脳」が、ここまで読むうちに出来てしまう。

昼夜逆転でゲーム、不登校に

 中山さんが診察した二つの典型例を紹介している(プライバシー保護のため特定の受診者ではない)。13歳の男子は、中一の夏休みに昼夜逆転でゲームに没頭するようになった。2学期から不登校が続き、部屋にひきこもりスマホばかりをいじるようになった。11月に母親とともにしぶしぶ受診。診断はスマホ依存症・ゲーム障害だった。

 16歳の男子は通信高校1年生。中二からシューティングゲームにはまり、朝起きることが出来ず週1回学校を休むようになった。中三のゴールデンウィーク明けから完全に昼夜が逆転、学校には行かなくなる。卒業後通信制高校に入ったが、5月から行かなくなった。診断はタブレット依存症・ゲーム障害だった。

 国際疾病分類(ICD)-11では、下記のゲーム障害についての診断基準が収められ、2019年WHOの総会で承認され、2022年をめどに日本でも用いられるようになる予定という。

 1 ゲームに対して自制が効かない(開始、頻度、強度、期間、終了、内容において)  2 他の生活上の興味や日常的な活動よりもゲームの優先度が高い  3 ゲームによって悪い結果が生じているにもかかわらず、ゲームを継続し、またその使用がエスカレートする  4 個人、家族、社会、教育、職業またはその他の重要な領域に重大な障害をもたらすのに十分なほど深刻であり、これらの症状が1年以上続いていること

 中山さんは、重大な障害とは、「度重なる遅刻・欠席、不登校、留年、ひきこもり、就労困難(不能)、家族との対立、社会的孤立」などの深刻な状態を想定している。ゲーム障害と診断されるときにはかなり重篤になっているので、診断以前に未病のうちに対応することが重要だとしている。

 スマホ依存の悪影響のなかで、就寝時刻の遅延が最も危険な兆候の一つだと指摘している。

学業成績にも悪影響

 また、学業成績への悪影響として、東北大学加齢医学研究所と仙台市教育委員会の共同調査でスマホ時間が延長するほど平均点が低かったことを紹介している。

 この調査について、BOOKウォッチでは以前、川島隆太東北大学加齢医学研究所所長の著書『スマホが学力を破壊する』 (集英社新書)を紹介したときに詳しくふれている。仙台市立の小中学生約7万人を5年間追跡調査、スマホを使用することで成績が下がり、止めると、成績が上がることが分かった。自宅での学習時間が同じ場合、スマホの使用時間が短い子の方が、成績が良かった。

久里浜医療センターでの治療

 最終章では、同センターの樋口進院長が中心となり、2011年に立ち上げたインターネット依存症治療部門について紹介している。中山さんも設立まもなくから携わっている。スポーツプログラムを織り込んだ集団心理療法や家族会、スマホオンラインゲーム環境から離れる入院療法や治療キャンプを行っている。

 スマホは「依存物」だとして、依存症のリスクの高い青少年には、「依存物から守られる権利」があるはずだ、中山さんは主張する。

 今年(2020年)2月、「子どもスマートフォンゲーム機の使用は平日1日60分まで」などの制限内容を盛り込んだ条例案が、香川県議会に提出された。全国初で、罰則はないものの賛否を呼んでいる。

 中山さんは大人の依存症と未成年者の依存症との違いについて、こう書いている。

 「未成年者の場合には、依存症が重症化して学校に行けなくなっても、保護者はその生活を維持します。食事を用意し、洗濯をし、電気代を払う。要するに、未成年の依存症者には親に見捨てられてしまうというリスクはほとんどなく、それがかえって依存症の状態を支え、さらに重篤化させてしまう場合があるのです」

 最初、この本はスマホを手放せない大人向けの本かと思い、読み始めたが、著者は子どもゲーム依存を最も心配しているようだ。

 特に発達障害やその傾向がある場合は、スマホを持たせるのを可能な限り遅くしましょうと注意している。小学生の場合であってもごく短期間で深刻な状態になることがあると警告する。その理由も本書で詳しく書いている。

 BOOKウォッチではこのジャンルの先駆的なルポ『ネトゲ廃人』(新潮文庫)も紹介済みだ。

  • 書名:  スマホ依存から脳を守る
  • 監修・編集・著者名: 中山秀紀 著
  • 出版社名: 朝日新聞出版
  • 出版年月日: 2020年2月28日
  • 定価: 本体790円+税
  • 判型・ページ数: 新書判・231ページ
  • ISBN: 9784022950536

BOOKウォッチ編集部
スマホはアルコールや覚せい剤と同じ「依存物」だ