- 生命の材料となる有機物は鉱物の触媒作用でつくられることがわかった
- 生命の始まりは核酸でもタンパク質でもなく鉱物かもしれない
生命の誕生において、核酸とタンパク質のどちらが先に登場したかは大きな謎でした。
核酸はタンパク質がなければ複製されず、タンパク質は核酸がなければ合成されません。
しかし今回、ドイツ、フランス、日本の研究者からなる国際研究チームは、核酸もタンパク質も「鉱物」の働きによって生じた可能性があるとする研究を発表しました。
現在の私たちの体を作るタンパク質に微量ながらも金属が含まれているのは、原始の生命が鉱物に依存して生きていた「なごり」だというのです。
核酸やタンパク質に先立ち「鉱物」はどのようにして原始の生命の材料を作ったのでしょうか?
研究内容はドイツにあるハインリッヒハイネ大学のマルティナ・プライナー氏らによってまとめられ、3月2日に学術雑誌「Nature Ecology&Evolution」に掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41559-020-1125-6
生命誕生にかかわる深刻な矛盾
かつて海底は一切のエネルギー供給のない、死の世界だと考えられてきました。
しかし40年前に熱水噴出孔が発見され、独自の生態系を築いていることがわかりました。
また熱水噴火口からは豊富な鉱物が噴出され、これらの鉱物の触媒作用によって海水から(生物にとって)高エネルギーの水素ガス(H2)が作られていることも判明します。
熱水噴火口の周囲に存在する微生物は、その水素ガスを取り込んで、二酸化炭素(CO2)を還元(Oを一個とる)し、有機物の合成を行っています。
また死んだ微生物によってつくられる海底の厚いマットは、多様な多細胞生物のえさ場になっています。
原始の地球においても、熱水噴出孔には多様な鉱物と豊富な水素ガスが存在していたと考えられます。
しかし生命が誕生する前では、H2を利用する微生物が存在せず、生物学的な方法での有機物の生産は行われません。
そして有機物がなければ、生命もうまれず、有機物も作られず、生命がうまれず…と、一種のパラドックスが起きてしまいます。
熱水噴出孔は生命誕生の起きた場所だとされているだけに、この矛盾は絶対に解く必要がありました。
生命の材料は鉱物を触媒にして作られた
矛盾を解くために、研究者たちは熱水噴出孔の周囲に積み上がった鉱物に目をつけました。
噴出孔を囲む鉱物は、地球の内部から吹き上がった金属を豊富に含んでいます。
研究者たちは、これらの鉱物がH2とCO2から有機物を作っている可能性があると考えました。
そして試行錯誤の結果、鉄と硫黄が結合したグライガイト(Fe3S4)、磁鉄鉱として知られるマグネタイト(Fe3O4)、ニッケルと鉄の合金であるアワルイト(Ni3Fe)の3種の鉱物が絞り込まれました。
研究者がこれらの鉱物とH2とCO2と水を反応させたところ、驚くべきことに、金属表面から「ギ酸」「酢酸」「ピルビン酸」「メタン」などの有機物が発生したのです。
現存するメタン菌などの細菌もH2とCO2からギ酸、ピルビン酸、酢酸、メタンを作成し、これらを材料にして自分の体となる核酸、アミノ酸、脂質を作っています。(メタンは排出される)
研究者たちは、熱水噴出孔でH2によるCO2還元反応が継続的に起これば、やがては核酸やタンパク質が作られ、生命に結びついたと考えています。
生命誕生以前、熱水噴出孔の「鉱物」は、生命材料の工場だったのです。
そのため、最初に存在したのは核酸でもタンパク質でもなく「鉱物」と言えるようです。
しかし「生命の材料は全て彗星が運んできた」とする説も根強く存在します。事実、最近の研究では彗星にアミノ酸だけでなくタンパク質が存在するとの報告もあげられました。
もしかしたら地球生命は、地球外と地球内のハイブリッド物質でできているのかもしれませんね。
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