新進気鋭の作家・肋骨凹介(あばらぼね・へこすけ)が描く注目のSFマンガ『宙に参る』の第1巻が、2月27日に発売されました。

リイド社「トーチweb」にて不定期連載中のこの作品は、「次にくるマンガ大賞2019【WEBマンガ部門】」ノミネート、また錚々たる作家陣によるアンソロジー「年刊日本SF傑作選 おうむの夢と操り人形」に本書の第3話「永世中立棋星」が収録されるなど、単行本発売前から評判となっていました。

今回は作品レビューと作者への一問一答の2本立てで、このSFマンガの新たな傑作の魅力に迫ります。

文 / 兎来栄寿

◆『宙に参る』とは?

『宙に参る』は、宇宙船が現在のセスナ機くらい身近になり、脳以外なら挿げ替えが効くようになった近未来を舞台に、未亡人技術者・鵯(ひよどり)ソラを中心にして展開される物語。作品世界の中には近未来の技術やガジェット、料理や人々の生活様式などが大量にちりばめられており、豊かな発想に彩られた世界観にワクワクせずにはいられません。

たとえば第1話で描かれる、ソラ自らが作った焼香ロボを使って行われる「遠隔葬儀」というちょっと不思議な、しかし近い将来に起こり得るかもしれない催事の様子。未来感と古来からの日本の伝統的な文化の合わさった感覚に、何とも言えない妙味が溢れています。

また、主人公を始めとして登場するロボットやAIも含むキャラクターたちは皆一癖も二癖もあり、そんな彼らの発するセリフ一つ一つにも独特のセンスが溢れ味わいがあります。

さまざまな遊び心を伴いながら穏やかに始動する物語ですが、徐々に明らかになっていく真実と共に、疾走感を持って驚くような展開をみせていくのも見どころ。スケールの大きな話と庶民的な話、シリアスコメディが溶け合った面白さが実に魅力的です。
単行本の幕間にはさらに細かい設定も書かれており、物語をより深く楽しむ一助となっています。

作者は以前からWebやコミティアなどで作品を発表していましたが、商業での単行本は初となります。
一体『宙に参る』はどのようにして誕生したのか。また、そもそも創作活動のルーツはどこにあるのか。

このたび作者にメールにて質問を投げかけ、その創作のルーツを垣間見せてもらうことができました。

◆作者・肋骨凹介への一問一答

ーー 最初にマンガを描こうと思ったのは何歳ごろでしたか。またそのきっかけは何でしたか。

幼稚園か小学校の時分に『星のカービィ デデデでプププなものがたり』をマネたカービィの漫画を描いていたのが最初かと思います。身近にある娯楽で、テレビとかゲームはどうやれば作れるか判らないけど、マンガならペンと紙でマネできるし……という甘い目論見からです。

ーー ペンネームの由来は“肋骨が凹んでいるから”だそうですが、もし今の名前でなかったらどんな名前になっていましたか。

インターネットでマンガを公開するに当たり考えたペンネームで、「被らない」「覚え易い」「特に意味が無い」あたりの要件を満たそうとは考えていました。なので“偏平足彦”とか“臀部痒巳”とかになるかと思います。

ーー Twitterの投稿を拝見するかぎり、読者としてもかなりのマンガ好きとお見受けします。日頃どれくらいのマンガを読まれていますか。

ちょうど確定申告でまとめていたのですが、2019年の購入書籍は240冊でした。出版各社のアプリとかWebサイトで読み切りや受賞作品を読むのも好きです。

ーー どんなマンガに刺激や影響を受けてきましたか。

一番刺激を受けたのは『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』です。初めて読んだ当時は似たようなマンガをノートに描いては消していました。その他、『吼えよペン』、『サイボーグクロちゃん』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『機動警察パトレイバー』、『刃牙』シリーズ、位置原光Z作品、『まんがサイエンス』、『ドロヘドロ』他たくさん……。

ーー いま現在注目している作品やトピックなどはありますか。

マンガですと『東京入星管理局』、『スキップとローファー』、『チェンソーマン』、『不滅のあなたへ』。描いている漫画の内容の都合上「もっと色々勉強しとけばよかったな」と思うので、暗号論とか土木学とかも気になります。またSFにそれほど明るくないので色々読みたい気持ちはあります。

ーー マンガ以外のコンテンツで特に影響を受けたものや好きなものはありますか。

中高生の頃は漫才やコント番組が好きで、掛け合いにテンポを求めるのはそういう所の影響もあるかと思います。当時NHKの「爆笑オンエアバトル」が最盛期で、繰り返しよく見ていました。チャイルドマシンと18KINが好きでした。

ーー 様々なSF的設定やガジェットはどのように発想していますか?

起点は作劇上の都合であったり、色々あります。ソラたちが乗っている「客船」で言うと、この作品自体が不定期更新になるため、フラっとご新規さんに読んでもらうために単話完結のエピソードも出来た方がいいという都合があり、そのためには新しい環境なり登場人物がコンスタントに必要でした。
普通の旅なら新しい土地とかに辿り着けばいいのですが、いかんせん宇宙で且つそんなにしょっちゅうどこかに寄航できるようなスパンの話でもないので、「じゃあ人・施設ごと移動する大型客船にしよう」という風に考え、現在の形になっています。

ーー 『宙に参る』を描こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

今の担当さんに以前同人誌を持ち込んで名刺をいただいており、不躾ながら「何かやりたいんです」と手ぶらで伺ったにもかかわらず、大変親切にお話を聞いていただく内に「宇宙の旅」というざっくりしたテーマが決まりました。
その後、そのテーマでやっていくなら「人工知能」もあったほうがいいね、といった具合で要素を調整して「人工知能の息子と宇宙から遠隔葬儀」という今の第1話がまずできました。そこから前述の「客船」よろしく、背景・設定を固めていくような要領でした。

ーー 『宙に参る』で特に力を入れたところ、あるいは苦労したところはありますか。

良くも悪くも「情報が多い」と言われるんですが、ギリギリまで圧縮したいと思っているので、どのぐらいなら食傷気味にならないかを探り探り描いてます。特に第1話は元々今の第5話くらいまでの内容を25Pでやろうとしていたので、足したり削ったり先延ばしにしたりで半年くらい直していました。

ーー 『宙に参る』の中で特に気に入っている設定、小ネタなどはありますか。

第3話のコマちゃん(編注:将棋AI「棋星」の通称)が「将棋の指しやすさ」だけであの配布アバターを選んだというのが、性格が出ていて好きです。

ーー 『宙に参る』で作中や幕間のコラムにも書いていない、ここだけで明かせる裏設定やボツにした設定などはありますか。

第2話は元々ソラが仮想太刀魚を捌く話でネームまで描いていましたが、「2話っぽくない」という事で現状唯一のボツです。結果的に今の「2話っぽい」第2話になって良かったですが。
ただ特に太刀魚を捌く話自体がダメな訳ではないので、そのうちやるかもしれません。

ーー 今後どういった作品を描いてみたいですか。

『宙に参る』の感想と併せてよく言及されるのが、趣味で描いているWebマンガ『派遣の谷』なる作品の続きを! というコメントで、描きたいなとは思っています。あとは陸上部漫画など……。
本作が売れたら描きやすくなるかと思います。よろしくどうぞ。

人工知能の息子とともに、亡夫の遺骨を地球に届ける!? 注目のSFマンガ『宙に参る』のルーツを作者に聞いたは、WHAT's IN? tokyoへ。
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掲載:M-ON! Press