街を歩く全ての人がマスクをしている。着用率100%。

筆者は韓国に住んで20年近いが、こんな光景を見るのは初めてだ。異様ですらある。

新型コロナウイルス感染者が韓国で初めて見つかったのが、1月20日。中国武漢市から来た中国人だった。それからすでに一か月以上が経つが、3月4日時点での感染者は5328人、死者は32人にまで増えた。韓国政府は毎日1万人以上の検査をしている上に、検査結果待ちの人数は3万人近いため、まだまだ勢いは収まりそうにない。

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「上半期は終わった」

影響は随所に出ている。中でも経済は深刻だ。

大きい話からすると、韓国銀行は第一四半期がマイナス成長となる可能性に言及した。自動車、流通、観光といった産業の損害は最低でも数千億円とされる。さらに『パラサイト』で脚光を浴びた右肩上がりの映画業界も、劇場はガラガラだ。稼ぎ頭であるK-POPのコンサートも軒並み中止となっている。

筆者の身近な例では、2月下旬から3月に予定されていた飲み会や会合が全部中止となってしまった。韓国の3月は日本の4月にあたる。つまり、学校では入学・始業の時期であり、会社では新年度の始まりでもある。本来ならば勢いづく時期にコロナウイルスが直撃したせいで新規プロジェクトも激減するだろう。大企業に勤める友人は「上半期は終わった」と筆者に毒づいた。

3月2日に始まるはずの学校も始業が3週間延びた。学童保育があるとはいえ「大変だ」という親世代の嘆きはSNSにあふれている。

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背景に「政府と宗教」

ではなぜ、ここまで韓国にコロナウイルスが広まったのか。理由は二つある。

まずは、韓国政府の対応だ。韓国政府は当初から、なるべく多くの感染者(確診者と表現)をあぶりだし、隔離することで安全地帯を確保する対応を取った。さらに、そうした情報をすべてオープンにすることで、国民の不安を取り除くねらいもあった。

これは2015年に流行し、186人の感染者と38人の死者を出したMERS中東呼吸器症候群)から教訓を得たものだ。当時は検査が追いつかず国民の不安を呼び、朴槿恵パク・クネ)政権にとってダメージとなった。現在の文在寅ムン・ジェイン)政権はこれを反面教師として、腕まくりして取り組んだ。

その成果が、4日現在131,379人に対する検査実施という実績だ。日本は2,684人(厚労省3日発表)。中国以外の国ではその数が群を抜いている。このため当然、感染者数も多くなる。つまり、韓国政府の全力対応により、逆説的に「新型コロナウイルスが広まったことが分かった」ということだ。

次に、宗教が感染拡大の原因となった。すでに報じられているように『新天地イエス教会』の信徒が感染に気づかずに礼拝などに参加したことで、爆発的に増加した。既存のプロテスタントからは「異端」とされ、ゲリラ的な信徒拡大を行ってきた同教団には、狭い所に密集し歌を歌うなど、感染に最適な環境があった。

今後も1000人単位で

30万人近い信徒は、地方間の往来も少なくなかった上に、同教団の秘密主義により政府当局への協力が遅れ、さらなる拡散を招いた。韓国メディアは4日、「2次、3次感染まで合わせると、感染者の90%が『新天地イエス教会』発」という政府高官のコメントを伝えている。その影響の大きさが分かる。

 

見てきたように、韓国における新型コロナウイルスの状況には悲壮感しかない。冒頭に書いたように韓国政府は大規模な検査を続けているため、感染者は今後も1000人単位で増えるだろう。

街ではマスクを買うこともできない。国民の不満が高まるや、3日には業を煮やした文大統領みずから「マスク供給しっかりやれ!」とハッパをかける始末だ。さらに文氏はこれからが本番とばかりに、政府に24時間対応を注文した。これでは落ち着きようがない。

筆者夫妻も在宅ワークに切り替わったため、昨日は子連れで30キロ離れた統一展望台に行って北朝鮮でも眺めてこようと出かけたが、コロナのため立ち入り禁止となっていた。近所の図書館や博物館も閉館で行くところがない。ストレスだけが溜まる毎日である。【取材・文=ソウル在住ジャーナリスト 徐台教(ソ・テギョ)】

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マスクを求めて列をなす韓国の人々(キム・ジン)