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他モデルに展開可能な標準化システム

text:John Evans(ジョン・エバンス
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
技術的な見本車両の意味合いが強い、GKNジープ・レネゲードeAWD BEVプロトタイプ。大手サプライヤーが、既存のモデルをベースに生み出した純EVだ。多くの自動車メーカーが、純EVで利益を生み出すことに苦労している中にあって、注目の1例といえる。

英国のエンジニアリング企業であるGKN社は、コンパクトSUVジープ・レネゲードをベースに、ドライブトレインを総入れ替え。高額な融資を受けずに、EVを具現化できる実例といっていい。

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GKNジープ・レネゲードeAWD BEVプロトタイプ

GKNレネゲードは、フロントタイヤによるトルクベクタリング機能を含む、4輪駆動の電動パワートレインとトランスミッションを搭載する。システムとして標準化され、そのまま既存のクルマへ搭載可能なシステムだ。

モーターは前後に2基あり、最高出力は総合で264psとなる。2つあるバッテリーパックもGKN製で、14kWhと24kWhの容量を合わせて38kWh。車体フロア部分にレイアウトされている。トランスミッションもGKN社が製造する。

今回のレネゲード・ベースのプロトタイプは2イン1と呼ばれるシステムで、パワーインバーターは前後個別に搭載。さらに高出力を生み出す、3イン1と呼ばれるシステムとインバーターの組み合わせも、標準化システムとして用意されている。

このGKNレネゲード・プロトタイプでは、フロントにはは永久磁石タイプのモーターを採用。コストに優れ、多くの自動車メーカーが採用するモーターといえる。リアにはインダクション(誘導)モーターを採用している。

GKN社独自の駆動制御システム

注目なのが、eツインスターと呼ばれる、GKN社が開発した駆動制御システム。クラッチを利用して、トルクの流れを左右フロントタイヤ間で個別に制御し、安全性を高めるとともに、楽しいドライビング体験を生んでいる。

技術的には、レンジローバー・イヴォークやフォードフォーカスRSなどのものと得られる結果は同じ。だがGKN社製の場合、電動モーターと2速ATを組み合わせて実現している点がポイント。BMW i8に採用された、トランスミッションの開発にも関わっているという。

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GKNジープ・レネゲードeAWD BEVプロトタイプ

GKN社によれば、2速ATの方が、1速のシングルスピードよりも加速と最高速の優れたバランスが得られるとのこと。効率の高い回転数を中心にモーターを動かせるため、航続距離も伸ばせる。

ただし、シングルスピードのトランスミッションの方がEVでは主要なシステムになると予測されている。このGKNレネゲードでも、リアに搭載されるトランスミッションは1速だ。

eツインスターで最も大きな特徴となるのが、モーターのトルク制御がとても繊細に行えること。減速時やコースティング時はエネルギーの回収を行うだけでなく、操縦性を高めるために前輪へトルクを分配する制御も行える。

リアに搭載されるトランスミッションは、一般的なオープンデフ。トルクは左右リアタイヤへ半々で分配され、個別の制御機能は備わらない。リアタイヤの駆動系は、2020年末に発売されるレネゲードのプラグインハイブリッド版と似たシステムといえるだろう。

ステアリングに伝わるトルク分配

今回GKNジープ・レネゲードeAWD BEVプロトタイプを試乗したのは、GKN社のテストセンター。スウェーデンの内陸北部、アリエプローグにある。

GKNレネゲードには、エンジンを取り外された際に一緒に横滑り防止装置、ESPが取り外されている。おかげで、凍ったハンドリングコースや高速サーキットを、思う存分走り回れた。

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GKNジープ・レネゲードeAWD BEVプロトタイプ

ドライビングモードは3種類がある。アンダーステア傾向のあるスタンダードと、最も自由度の高いスポーツ・モード。その中間に、両極端な間を取ったGKNモードが用意されている。

スタンダード・モードで圧雪の高速サーキットを走らせると、GKNレネゲードのエネルギー回生システムは力強く感じられた。アクセルペダルを離すと、eツインスターはクルマのバランスを維持し、コーナリング前にフロントを落ち着かせる。

左右フロントタイヤへのトルク配分の状態は、ステアリングホイールを通じて感じ取れる。操舵する安心感がある。トラクション・コントロールが介入し、リアタイヤのスピンもしっかり制御されている。

このシステムは、平らな氷上でも有効だった。コーナリング時にアクセルを緩めると、前輪がクルマを安定させているのがわかる。

さらに4輪駆動へ切り替えると、氷上でも圧雪路でも加速力は上昇。リアタイヤでもエネルギー回生をしつつ、アクセルペダルを離した際の安定性を高めてくれる。

量産モデルへと受け継がれるEV技術

スポーツ・モードを選ぶと、オーバーステア傾向が強くなる。eツインスターはフロントタイヤのコーナー外側へトルクを多めに分配。同時にリアタイヤのトラクション・コントロールは自動的にオフになる。

その結果、リアタイヤを横に滑らせながら、クルマを旋回させられるようになる。楽しさが10倍くらいは高まること請け合いだ。

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GKNジープ・レネゲードeAWD BEVプロトタイプ

前後の車輪が独立した、機械的にはつながっていない4輪駆動システムだが、2つの電気モーターとトランスミッションの統合制御は印象的なほど高い。モーターはパワフルながら、存在感は薄く感じられた。

GKNジープ・レネゲードeAWD BEVは購入できない。しかしこの技術の多くは、2020年中に発売となる少なくとも6車種のハイブリッドとEVモデルに搭載される。ジープ・レネゲードのPHEV版もその1台だ。

電動化技術の採用が進む当分の間、自動車メーカーはシステムを標準化することで、EVのコストを抑える取り組みを進めるだろう。安全で直感的な操縦性という、ドライバーのニーズも満たしていく必要がある。

スポーティな仕上がりはしばらくの間お預けかもしれない。だが、GKNレネゲードに搭載されたeツインスターが実現する、機敏でレスポンシブな走りは確かめることができた。彼らの努力が報われ、われわれが楽しめる日も遠くはなさそうだ。


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