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丁寧な開発が施された412

text:Martin Buckleyマーティン・バックリー)
photo:Olgun Kordal(オルガンコーダル)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
ブリストル仲間の間では「冷蔵庫」という嬉しくないあだ名を付けられている、白の412コンバーチブルS2だが、オーナーズクラブのコンクールでは4度も優勝している。これまで8万ポンド(1144万円)もの費用をかけてレストアを受けており、状態は最高だ。

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ブリストル412へ、そこまでの費用をかけているオーナーは数少ない。ボディーカラーは家電のようだが、600ポンド(8万円)のオプションだった純正エアコンが付いている。

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ブリストル412コンバーチブル

新車当時、クルックはエアコンを積極的には勧めなかったようだ。コンコルドを設計したエンジニアが担当したボディは、標準のままでも通気性が良かったことが理由だった。

シートベルトの位置を調整するために、フロアにはレールが敷かれるなど、丁寧な開発が行われていたことを示している。単なるエキゾチック・カーではなく、しっかり使えるクルマを狙っていたのだろう。

白のブリストル412には、ブリストル603に用いられていた、サポート性の良いシートが取り付けられている。これも当時のオプション。フロントシートには、身重の高いドライバーでも充分快適に座れるだけでなく、リアシートにも大人が問題なく2人乗れる。

車内は261枚に別れたコノリー・レザーで覆われ、412は大人4人での快適な旅を威風堂々と楽しませてくれる。もちろん荷物も一緒に運べる。フル・タルガモードを選べば気流に揉まれることもなく、ビリヤード台程はある大きなボンネット越しに、外を眺めながら先を急げる。

英国車初の量産ターボモデル

一方の深みのあるブルーに塗られた魅力的な412ボーフォート。360度、遮るもののない視界が楽しめるが、ボンネットには有無をいわさぬ筋力が隠れている。8気筒らしいハミングとは異なる、エグゾーストノートからもそれが伺える。

滑らかなATと、感触の良いしっかりとしたパワーステアリングのフィーリング。バランスが良く、強い制動力を生むブレーキ。大きな距離もリラックスして走破できそうだ。

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ブリストル412 ボーフォート・コンバーチブル

直線は安定しているが、コーナーでのボディロールは大きめ。着座位置が高いから、傾きも強く感じられるのかもしれない。とにかくカーブを抜けていくのが楽しい。

シャシーバランスに優れ、スピードを上げてもニュートラルさが失われない。車重が軽くなり、安定性も増しているようだ。

1980年に発売が始まった、4灯のヘッドライトを持つ412ボーファイタークリーム色の1981年製の412ボーファイターは、活発な走り以外は基本的に他の412と変わらない。英国の量産モデルとしては初めてターボチャージャーを積んだクルマでもある。

ロードマスター社製のターボを納めるため、ボンネットにはバルジが付いている。エグゾースト・マニフォールドの右側にターボが搭載され、ウェストゲートはクロスオーバー・パイプに付いている。

低速度域でのボーファイターは、自然吸気の412と同じ穏やかなマナーを披露する。アクセルペダルの踏み込み量が少ないときは、ターボバイパスするように吸気設計されているためだ。

アメリカ市場を狙ったワンオフモデル

フィーリングの良いアクセルペダルを踏み込むと、マニフォールドとカーター社製の4バレル・キャブレターの圧力が等しくなり、ターボコンプレッサーへと吸気が流れ込む。

シームレスに加速を増していくボーファイタースリル満点。こちらも最高出力は非公開だが、追加となったパワーは、トルクフライト社のATとの相性も良い。品格を保ちながら、変速を終わらせる。

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ブリストル412 ボーファイター・コンバーチブル

リアサスペンションはリジッドアクスルで、トーションビームとワットリンクが付いている。セルフレベリング機能も備え、加速を受け止めてくれる。コーナリング途中の不意な起伏以外、粗野な素振りは見せない。

通常の412より硬めのサスペンション設定を受けていたボーファイターだが、違いはわずかに感じられる程度。調整式で、ドライバーの好みに変更も可能だ。

トランクリッドは車内からリモート操作が可能で、電動調整ミラーと集中ドアロックも備える。クルックとエンジニアたちは、1980年代に採用が進む便利な機能をしっかり取り入れていた。

一方で、412シリーズの物語に、追伸のように登場したボーフォート。紺色のボディにロールバーは備わらず、電動のソフトトップによって完全なオープンボディになる。

アメリカ市場への足がかりとして、1台限りのワンオフで制作されたため、ボーフォートは左ハンドル仕様。パンフレットの内容に偽りのない、充分に考え抜かれた完成度を得ている。

フルオープンになるボーフォート

このボーフォートは1984年に作られたが、1988年まではナンバー登録を受けていない。ボーフォートの初代オーナーは、ブリストルカーズのトニー・クルック本人。ソフトトップを折り畳む機構がリアシートの空間を削りすぎるため計画は中止にした、と後にコメントしている。

もともとクリーム色だったボーフォートは、エジプトビジネスマンが買い取った。だが病気になり、ロンドンのホテルの駐車場へ放置。しばらくして中古車市場の流通に乗り、アストン マーティンミッドナイト・ブルーに塗り直され、英国の道へ姿を表した。

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ブリストル412 ボーフォート・コンバーチブル

ボーファイターにはフラットダッシュパネルが採用されたが、ボーフォートの方にはクラシックな7つのアナログメーターが並ぶ。クリーム色のレザーシートに入る、青いパイピングが美しい。

ソフトトップを閉めたシルエットはかなりハンサムだが、開くとブリストル412らしい個性を失ったように見えるボーフォート。屋根を閉じると後方の視界は小さな窓で制限され、リアシートの空間も狭く、実用性は通常の412に劣る。

ソフトトップは静かに開閉し、スッキリと折り畳まれる。ロールバーのない視界はブリストル412と驚くほど異なる雰囲気を与えるが、ボーフォートは変わらず活発に走るし、振動に悩まされることもなかった。

ブリストル411は控えめな主張に留まっていたのに対し、412は、ブリストルが初めてこれ見よがしの華やかさを与えた試みだった。ブリストル版の、ロールス・ロイス・カマルグやウィリアム・タウンズがデザインした、アストン マーティンラゴンダといっても良いだろう。

アメリカとイタリア、イギリスの掛け合わせ

大胆でシャープなデザインを持つ、412の強い存在感。1970年代における、ブリストルなりの主張だったのだ。

土台は古く、長年をかけて更新を重ねて誕生したブリストル412シリーズ。それでも味付けは、ちゃんと当時並みの新しいものに改められていた。

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ブリストル412412ボーファイター412 ボーフォート・コンバーチブル

希少性の割には驚くほど手頃な価格で取引されているものの、時間の経過とともに、堂々とした本来の評価を改めて得られる日が来るかもしれない。

ザガートのスタイリングと、クライスラーのエンジン。英国らしいラグジュアリーでパーソナルで、実用的なオープンボディ。これらが掛け合わされたクルマは、今のところブリストル412コンバーチブル以外には存在しない。

ブリストル412コンバーチブル/412ボーファイター・コンバーチブル/412ボーフォート・コンバーチブル(1975年〜1992年)のスペック

価格:新車時 1万4584ポンド(208万円)/現在 6万ポンド(858万円)以下
生産台数:59台(ボーフォートを含む)
全長:4940mm
全幅:1770mm
全高:1435mm
最高速度:225km/h
0-96km/h加速:7.9秒
燃費:4.6-5.3km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1715kg
パワートレインV型8気筒6566cc/V型8気筒5898cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:−
最大トルク:−
ギアボックス:3速オートマティック


【ザガートのボデイにクライスラーのV8】ブリストル412コンバーチブル 後編