【識者コラム】劣勢の前半に選手がハイプレスを断念 「正しいかどうかは分からないが…」

 リーガ・エスパニョーラ第26節の“エル・クラシコ”、レアル・マドリードバルセロナに2-0で勝利した。前半はバルセロナ、後半はレアルが攻勢だった。

「前半はバルセロナにボールをあげることにした。正しいかどうかは分からないが、そうすることに決めた」(レアルDFセルヒオ・ラモス

 ジネディーヌ・ジダン監督の策はハイプレスだったようだ。バルサのビルドアップを敵陣で阻止する、攻撃力を元から断つという作戦である。バルサに確実に勝とうと思ったら、これが一番効く。ボールを保持できなければ、バルサは決してスーパーなチームではないからだ。実際、この試合の後半はそうだった。

 一方、バルサのポゼッションを阻止するのは至難の業でもある。ボールを持たせなければいいというのは分かりきった結論なのだが、それを実行するのはほぼ不可能なのだ。レアルも、前半はバルサのパスワークを制御できていなかった。

 GKからでもパスをつないでいくポゼッションに対してのハイプレスは、諸刃の剣でもある。ハイプレスでビルドアップを破壊できればいいが、プレスを外されてしまうと自動的に相手のカウンターアタックを食らってしまうからだ。だからハイプレスがはまらなかった前半のレアルは、危険な状態になりかかっていた。そこでラモスが話しているように、レアルは引くことにしたわけだ。ハイプレスが機能していないと判断し、いったん撤退することにした。

 この決断ができるのは、さすがだと思う。監督の決めた作戦を試合中に選手の判断で変えるというのは、そう簡単なことではない。素早く次善の策を講じる、それをチームメートが即時に理解して共有する、というのはそう簡単ではないはずだ。

 しかし、それをすんなりとやれてしまうところにレベルの高さを感じた。ただ、それよりも作戦変更は「正しいかどうか分からない」のだ。正解が分かっていれば誰でもやれる。正解が分かっていないのに作戦を変更する決断をするところが、さすがである。

日本代表が苦手な試合中の対応力、監督を尊重しすぎてしまう?

 もしかしたら、そんなことは当たり前なのかもしれない。なぜなら、選手だけでなく監督を含めて、誰にも正解など分からないからだ。ジダン監督の策も後半については正解だったが、前半は不正解だった。どうせ誰も正解など分からないなら、監督の作戦が間違っていたと思えば選手が違うアイデアで変えればいいだけ。何も恐れる必要はない。ダメでもともとである。

 ところが、なかなかそれができない。特に日本代表は苦手だ。

 2019年アジアカップ決勝で、カタールに対して日本のハイプレスは全くはまらなかった。バルサ戦前半のレアルと同じ状況である。しかし、日本は当初の方針を変えず2失点してしまっている。ハイプレスを強行するならマッチアップを噛み合わせなければならなかったし、そうでなければレアルのように一時撤退を決断しなければならなかったが、どちらもなかった。

 置かれている状況を把握できていないのか、監督を尊重しすぎてしまうのか、単に責任を負いたくないのか……。いずれにしても状況が悪い時に柔軟に対処することが苦手である。例にあげたカタール戦だけでなく、このケースは繰り返されてきたので、日本代表の取り組むべき課題だろう。(西部謙司 / Kenji Nishibe)

レアル・マドリードがクラシコを2-0で完封勝利【写真:Getty Images】