文化リゾート・軽井沢で創業

「成長のスピードが速まっている。メディアの皆様から最近、そのようなコメントをよく受けます」。星野リゾートの星野佳路代表はこう話し始めた。

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「2020年は1月15日に運営を開始したハワイのホテル『サーフジャック ハワイ』を筆頭に、国内では3月12日開業の『界 長門』(山口県)をはじめ、『BEB5 土浦』(茨城県)、『星のや沖縄』『リゾナーレ小浜島』(沖縄県)、『OMO3 東京川崎』(神奈川県)と、開業やリニューアルがたまたま重なり、そのように見えてしまうのではないかと思います。そのため、成長のスピードを意図的に速めているわけではありませんし、速めようにも、1つの施設を開発するのには3〜7年かかります」

 星野リゾートは国内外で旅館やホテル、スキー場など41施設(2020年3月1日現在)を展開するリゾート運営会社である。1914年に長野県軽井沢で創業し106年、初代・星野嘉助氏が開業した一軒の宿「星野温泉旅館」からスタートしている。

 その頃すでに軽井沢は、宣教師アレクサンダー・ショーの功績により外国人別荘地として注目されていた。「避暑地 軽井沢」として評判になり、星野温泉旅館には内村鑑三、与謝野鉄幹・晶子、北原白秋をはじめ、著名人らが温泉逗留し、文化リゾートの香りを地域に根付かせた。

 星野温泉は、「国設軽井沢野鳥の森」の整備に尽力した2代目、西洋のホテルスタイルや斬新なウエディングプランで話題を集めた3代目時代と繁栄をみせるも、バブル経済崩壊もあり苦戦を強いられる。低迷のその時代、1991年に社長に就任したのが4代目の星野佳路代表だ。実家である温泉旅館の再建が、星野さんの経営者としてのスタートだった。

 1995年に社名を株式会社星野リゾートへと変更し、その後、飛躍のきっかけとなったのは、2001年にマイカルグループから運営を引き継いだ山梨県小淵沢の「リゾナーレ八ヶ岳」の成功だった。会員制ホテルを「大人のためのファミリーリゾート」に転換し、見事に3年で黒字化。この功績が注目され、その後の福島県アルツ磐梯スキー場(2003年)、北海道トマムスキー場(2004年)の運営につながる。

 2005年からは温泉旅館の再生が本格的にスタートした。現在も高い稼働率をキープする青森県三沢市の「青森屋」は、経営破綻した大型旅館・古牧グランドホテルを、“365日青森を体感できるリゾート”というコンセプトを掲げて再生、東北地方活性の一躍となった。また、星野さんが「開業まで12年もの時間を要した」と語る本拠地軽井沢での「星のや軽井沢」(2005年開業)の好調も追い風となる。

 

真似しづらい「運営特化」に踏み切った理由

 前述の「青森屋」は、2005年当時に施設を所有していたゴールドマンサックス社からの運営受託である。ホテル施設は所有せずに「運営」に集中するという、運営特化こそ星野リゾートの最大の特徴と言われる。

 星野さんはホテル経営を学んだアメリカで「運営特化」に影響を受け、自身の社長就任時からその実行に移した。しかし一族の猛反対など、その確立には膨大な時間と体力を要したことは、自著のファミリービジネス研究本などに詳しい。運営特化の進化について星野さんはこう話す。

リーマン・ショック(2008年)で投資家の多くが事業から手を引いていきました。安定して運営を継続するためには、施設を長期で所有してもらう仕組みが必要です。持続可能な集客力へのアプローチが重要で、それが長期にわたり競争力を維持するのです」

 その考えは2013年に上場を果たした「星野リゾート・リート投資法人」の誕生につながり、現在は「旅館リート」という個人も観光に投資できる仕組みができている。真の観光立国、サスティナブルツーリズムへの更なる挑戦がはじまっている。

 

分かりやすいブランド展開で拠点数を増やす

 星野リゾートでは2011年からブランドを多角化する「マスターブランド戦略」をスタートさせ、現在5つのブランドを展開する。圧倒的な非日常感に包まれる日本発のラグジュアリーリゾート「星のや」、洗練されたデザインと豊富なアクティビティを備える西洋型リゾート「リゾナーレ」、全国展開の温泉旅館ブランド「界」、都市観光を楽しむためのホテル「OMO(おも)」、そして仲間とルーズに過ごすホテル「BEB(ベブ)」だ。

  ブランド戦略の狙いを星野さんは、「外資系の競合他社のように値段でブランドを分けるのではなくて、宿のコンセプトでブランドを分ける。なぜなら、旅行するお客様は星野リゾートの場合、旅のオケージョン(目的)で宿を選ばれているからです」と語る。

 わかりやすく差別化したブランド力の賜物か、星野リゾートの勢いが止まらない。なかでも都市ホテル「OMO」のニーズが高いと聞く。運営依頼だけで全国数十軒にのぼるそうだ。

 2020年2月のプレス発表会では、同年6月に川崎駅そばにリニューアルオープンする「OMO3東京川崎」の詳細が発表された。川崎エリアでの事業展開、それもその客室スタイル、さらに1泊2818円〜(1名1室利用時、税別、食事別)という料金には驚かされた。次回はリーズナブルな料金設定も話題の都市ホテル「OMO」のユニークな空間づくり、地域魅力発掘までのプロセスなどを紹介しようと思う。

 最後に少し余談を。筆者が星野温泉を知ったのは1994年。星野温泉のコテージに滞在し、野鳥観察のアクティビティに参加し魅せられた。エコツアーや環境教育を行う専門集団による有料ガイド「ピッキオ」の仕組みが素晴らしいと感じた。近年アクティビティも劇的に進化している。

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