「その鉄扇、譲ってくれない?」。2005年、某MMORPGをプレイしていたときのこと。筆者にお願いしてきたフレンドはこう続けた。「好きなキャラが鉄扇を使うんだよ。ハクオロって言うの」。それが筆者と『うたわれるもの』(以下『うたわれ』)の出会いだった。『うたわれ』は、アクアプラスを代表する人気シリーズのひとつで、ハクオロは1作目の主人公だ。テレビアニメ化され、続編がリリースされたり、スマホゲームが配信されたりしているいまでこそ、「あのゲームか」とすぐにわかる人が多いだろう。だが、1作目の『うたわれ』は、もともとPCで発売されたゲームだったので、当時は知る人ぞ知る名作だったと思う。あれから約15年。1作目をPS2に移植した『散りゆく者への子守唄』(2006年発売)、2作目『偽りの仮面』(2015年発売)、3作目『二人の白皇』(2016年発売)に、いちファンとしてはもちろん、ゲームライターという仕事を通して携わってきた。そして今回、とてもありがたいことに、『偽りの仮面』と『二人の白皇』のSteam版の配信に合わせて、このレビューを書く機会をいただいた。「うたわれ」シリーズは、ストーリーが見どころの作品であるがゆえに、できるだけネタバレを避けつつ、シリーズや『偽りの仮面』、『二人の白皇』の魅力を紐解いていきたいと思う。

文 / ジャイアント黒田

◆三部作だけど2作目から遊び始めて大丈夫な理由

そもそも「うたわれ」シリーズは、1作目『散りゆく者への子守唄』、2作目『偽りの仮面』、3作目『二人の白皇』からなる、壮大なストーリーを描いたシミュレーション・RPGの三部作だ。1作目と2作目は、続編が発売されるまであいだが空いたこともあり、両作は物語の舞台や登場人物を一新しているが、2作目と3作目は物語が密につながっている。1作目『散りゆく者への子守唄』を遊んでいなくても楽しめるような構成になっているので、今回の配信を機に、Steam版の『偽りの仮面』と『二人の白皇』で、初めて「うたわれ」シリーズの作品に触れる人も安心してほしい。

むしろ、2作目と3作目を続けてプレイできるのは幸せだ。というのも、2作目は続きが非常に気になるところでエンディングを迎えるのだが、リアルタイムでプレイしていた筆者のようなファンたちは、約1年間、耐えに耐えて3作目の大団円を体験した。いまにして思えば、まだかまだかと待ちわびた時間もいい思い出なのかもしれないが、すぐ遊べるのなら、迷わずにそっちを選ぶ。絶対に。初めて『偽りの仮面』をプレイした人の多くが、クリアー後すぐに『二人の白皇』を購入するはずだ。

ちなみに、『二人の白皇』は序盤から『偽りの仮面』のネタバレが満載! ネタバレを気にする人は、『偽りの仮面』をクリアーするまで、『二人の白皇』の情報を遮断すること。公式ホームページを見るのも厳禁だ。

「うたわれ」シリーズは、2作目からでも十分に楽しめるとはいえ、『散りゆく者への子守唄』をプレイしていると、思わず顔がほころぶネタが随所に用意されているのも事実。続編では1作目のキャラクターたちの成長した姿を見られるし、そもそもメインヒロインのクオンは、1作目の登場人物たちに深く関係しており、クオンのイベントを通して、ファンにとって懐かしのメンバーの新たな一面を堪能できるのだ。

『散りゆく者への子守唄』は、2018年に2作目や3作目のシステムに踏襲したHDリメイク版がリリースされているが、いまのところ『散りゆく者への子守唄』のSteam版が配信される予定はない。

偽りの仮面』と『二人の白皇』をプレイして1作目に興味が湧き、配信されるかどうか現時点ではわからないSteam版が待ちきれないという人は、PS4版PS Vita版をプレイするのも手だ。

◆シリーズ最大の魅力はキャラクターとストーリー

2作目と3作目は、大國ヤマトが物語の舞台。この地で行き倒れていた記憶喪失の青年は、薬師の少女クオンと出会い、“ハク”と名づけられる。このハクが両作を通しての主人公なのだが、彼は1作目の主人公のハクオロと異なり、よほど主人公らしくない。怠惰で不真面目な性格で、いかに仕事をサボって楽をするかを考えており、悪知恵を働かせては周囲を呆れさせる。無神経なハクの言動で、ヒロインたちが青筋を立てた回数も数え切れない。

その一方で、ハクには機転が利き、洞察力にも優れた一面もある。事件に巻き込まれてピンチになるたびに、非凡なアイデアで仲間の窮地を救うことになるのだ。いざというとき、ハクならなんとかしてくれる。彼のもとに集う登場人物たちはもちろん、筆者もハクの不思議な魅力の虜となっていった。

2作目と3作目で、ハクの立場が大きく変わるのも作品の見どころ。シナリオの展開上、3作目はシリアスなシーンが増えるのだが、親友との約束を胸に、茨の道を突き進むハクの姿に胸を打たれた。そこに、かつての怠惰で不真面目なハクは見る影もない。まさに“人が変わった”ように、自分の職務をまっとうしようと努めている。

3作目をプレイした当初は、ドタバタな日常劇の多い2作目との差に戸惑うかもしれないが、徐々にコミカルなシーンも増えてくるのでご安心を。ハクと個性豊かな仲間たちとのやり取りは、『二人の白皇』において、一服の清涼剤になってくれるだろう。

緻密に作り込まれた「うたわれ」シリーズの世界観も驚嘆に値する。本作の世界には、耳や尻尾の生えた亜人が暮らしている。ひと口に亜人と言っても、天使のような羽を持つオンカミヤリュー族、高地で暮らす少数民族エヴェンクルガ族、戦闘能力の高いギリヤギナ族など多彩な種族が登場。國ごとに異なる文化や宗教が形成されており、設定が細部まで作り込まれている。リアルさを感じる世界だからこそ、登場人物たちが生き生きとしていて愛着が強まるし、何らかの理由で命を落としたときは、登場人物たちの心情を察して心が痛んだ。

印象的なシーンを盛り上げる楽曲もすばらしい。いや、言葉を選ばずに言うとズルい。楽曲で泣かせに来ているのがわかる。わかるのに、プレイするたびに自然と涙が頬を伝う。とくに『二人の白皇』のラストのシーン。いまのところ百発百中で泣かされている。正直、思い出しただけでもちょっと涙腺がヤバい

◆シミュレーションパートの作りも抜かりナシ

シミュレーションパートは、ZOC(Zone of Controlの略。特定のユニットが周囲のユニットに影響を与える効果や範囲などのこと)や高さの概念を取り入れた、シミュレーションRPGとしてはオーソドックスな作りだ。そこに、ボタンをタイミングよく押して多彩な技をくり出す連撃や、条件を満たすと発動できる強力な必殺技など、独自の要素が加えられている。

このシミュレーションパートで何よりもうれしいのが、3Dで表現されたキャラクターを育てて操作できることだ。キャラクターは、レベルが上がると新たな連撃を習得できるほか、連撃の回数が増えていき、最終的に必殺技を放てるようになる。必殺技発動時は、専用のカットインも挿入されるので、演出でも気持ちを盛り上げてくれる。

さらに、『二人の白皇子』ではシミュレーションパートがパワーアップ。ふたり同時に連撃を仕掛ける協撃や、特定のキャラクターが力を合わせて放つ合体技の“協撃必殺”が実装された。協撃はどのユニットの組み合わせでも発動できるので、好きなカップリングで技をくり出す楽しみも。

また、協撃必殺は姉弟のノスリ+オウギや、主従関係にあるアンジュ+ムネチカなど、想像しやすい組み合わせがある一方、剣豪のヤクトワルト+おっとりお姉さんのフミルィルなど、意外な組み合わせも収録されており、新たな協撃必殺を見つけるのにも発売当時は夢中になった。

ほかにも『二人の白皇』には、味方ユニットがふたつのチームにわかれて戦う紅白試合や、ステージごとに異なるクリアー条件の達成に挑むムネチカの試練といった新モードが収録されているのもポイント。紅白試合のチームわけは自動で行われるうえ、マップのシチュエーションがランダムで決まるので、新鮮な気持ちでレベル上げに励めた。ムネチカの試練も、ステージをクリアーするとさまざまな報酬が手に入ったので、ときにストーリーを進めるのを忘れるほど、夢中になってプレイしたのを覚えている。

◆Steam版はクリアー済みのファンにもオススメ

Steam版の『偽りの仮面』と『二人の白皇』は、日本語のほかに英語や中国語にも対応している。胸が熱くなる感動的なシーンも、心躍るセクシーなシーンも、腹がよじれるコミカルなシーンも、英語と中国語で楽しめるので、日本語版でクリアーした人も新鮮な気持ちでプレイできるだろう。英語や中国語の勉強をしている人は、楽しみながら学べる教材として、Steam版の両作をプレイするのも一興だ。

かくゆう筆者は、このシーンは英語や中国語だとこうなるよと、『うたわれ』を教えてくれたフレンド、もとい、結婚して奥さんになってくれた人と楽しんでいる。夫婦のあいだで15年間、たびたびに話題になった『うたわれ』。今後もいちファンとして、夫婦でシリーズを応援していきたい。

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偽りの仮面』&『二人の白皇』がSteamで配信! 何度プレイしても涙腺が緩む『うたわれるもの』シリーズの魅力とは?は、WHAT's IN? tokyoへ。
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掲載:M-ON! Press