空気圧縮機(エアーコンプレッサー)で同僚男性の肛門付近から体内に空気を入れて重傷を負わせたとして、会社員の男性が3月7日、傷害容疑で茨城県警に逮捕された。

報道によると、6日午後2時ごろ、同県神栖市内の職場で同僚の男性の肛門付近に業務用空気圧縮機を押し付け、ズボンの上から空気を体内に注入する暴行をくわえ、負傷させた疑いがある。逮捕された男性が119番通報したが、負傷した男性は重傷とみられる。

過去にも…

この報道を見て「またか」と思った人もいるだろう。「お尻から空気を入れる」という行為だけ聞けば、ユーモラスなイメージを持つ人もいるかもしれないが、危険性は極めて大きい。

空気圧縮機を使って肛門から空気を入れる事件は、今回が初めてではない。2017年12月には埼玉県産業廃棄物業者の従業員2人が同僚男性の肛門に空気を注入する暴行を加え、死なせてしまったとして傷害致死容疑で逮捕されている(事件を報じた記事)。 また、2018年7月に茨城県の会社工場で起きた傷害致死事件でも同様に空気を尻から入れられた男性が死亡している(事件を報じた記事)。

2018年の事件の被害男性は、高圧の空気の噴出によって直腸が裂傷し、そこから流入した空気が腹部や胸部に流入し、胸腔内に空気が溜まったことなどによって窒息死した。水戸地裁は2019年3月、空気圧縮機を使った同僚の男に懲役4年の判決を言い渡している。

空気圧縮機は家庭や仕事の様々な場面で使用される道具だ。ただ、使う人によっては悲惨な事態をもたらすことになる。今回は大人が大人に使用した事件だが、インドでは子ども同士がふざけて使用したことで6歳の男児が死亡する事件も起きている。

そもそも「エアーコンプレッサー」とは?

今回の事件をきっかけに、改めて、空気圧縮機の特徴を知り、使い方次第で生じる危険性も整理したい。日本の産業用空気圧縮機の製造大手「日立産機システム」(東京都千代田区)の経営企画本部事業企画部・瀬戸口信雄さんが解説する。

今回の事故で使用された空気圧縮機がどれだけの大きさのものかわからない。

瀬戸口さんは「産業用の空気圧縮機は小さくても人体に向けて使用すると大変危険です。今回の事故がどこのメーカーのどの仕様の製品かはわかりませんが、弊社の製品の中の比較的小型の製品を例に解説します」と話す。

どのような場面で使われるもの?

「空気圧縮機はさまざまな工場でも稼働し、圧縮空気の力でネジを回したり、物を動かしたり、溶接クズなどを吹き飛ばしたりするなど様々な用途に使われています。普段の生活の中では歯科クリニックで使われる歯を削る「ドリル」や、大工が建築現場で使う「釘打ち」、ゴルフ場で靴に付いた泥を吹き飛ばす「エアガン」などが想像しやすいですね」

「小型の空気圧縮機の仕組みは、モーターでシリンダの中のピストンを動かし、圧力タンク(空気タンク)の中に圧縮した空気を貯めます。使用するときは、タンクの中の空気を吐出します」

「例えば自動車タイヤはパンパンに張っていて、人間の力で空気を入れることは難しいですね、空気圧縮機はそのようなときに使われます」

「たいてい事故が起こるのは小さな空気圧縮機の使用時です。本人は『たいしたことがない』と悪気なく使っても、圧縮された空気は体内で膨張します。圧縮されているので何倍もふくらむので、気づいたときに取り返しがつかない事態になります。ちょっとしたいたずら心で短時間でも大きな事故につながります」

ここで、日立産機システムの標準的な小型空気圧縮機(上記写真)を例にとる。家庭用の電源(単相100ボルト)で使用可能な出力0.75キロワットものだ。町の自動車整備工場やガソリンスタンドなどで修理に使われるという。

この製品の最高圧力は0.93Mpa(メガパスカル)、吐出し空気量は80L/minである。

「空気圧縮機の能力は、圧力と、吐出し空気量で決まります。圧力は空気を押し出す力で、単位はMPaを使います。約1MPaで1センチ四方の中に10キログラムの力がかけられている状態です。吐き出し空気量は、1分間に送り込める空気量のことです」

1分間で大人1人以上の体積の空気を送り込める

この製品は、1分間に80リットルの容量の空気を送り込むことが可能で、1分間に大人1人以上の空気を送り込むことになる。この数字は空気圧縮機単体の能力で、短時間でも人体に向けて使用されると深刻な事態となる。また、内蔵されている空気タンクも38リットルあり、本体以外に外付けタンクを利用することもあり、空気タンクに蓄えられた空気は人体と比較すると非常に大きな容量となる。

続いて、大工の釘打ち用に使われる製品の仕様を見てみると、最高圧力は2.7Mpa。吐出し空気量は38L/minとなる。つまり、こちらは1分間に38リットルの空気を吐き出すことができる。

小型でもお尻に使えば大惨事

「これも家庭用電源で子ども1人分の容積38リットルの吐き出し空気量があります。とてもじゃないが、計算するまでもなく体に入れば大きな影響があります。どちらにせよ今回の事故の様に内蔵の破裂など大きな損傷が考えられます。たとえ、ズボンの上からだとしても取り返しのつかない事態になります」

「1Mpaは1センチあたり10キロの圧力となり、小さな空気圧縮機でも大変危険です。ここで紹介したものが産業用空気圧縮機の中で小型なものです。町工場でも10倍以上の大きさのものも多く使われています。

そのため、小さな空気圧縮機でも十分に危険です。お尻に空気を入れるような行為は製品の用途に反した使い方です。絶対にやめていただきたいです」

子どもを持つ家庭での使用にも注意

インドでの事故のように、幼い子どもが死傷するケースもある。空気圧縮機は家庭でも使われることがあるだけに、瀬戸口さんは「ご家庭で使用する場合は、子どもが遊びに使って事故に巻き込まれないため、あらかじめ注意しておくとよいでしょう」と警鐘を鳴らした。

なぜ、人は空気圧縮機をお尻に使って、結果的に事件を引き起こしてしまうのだろうか。

「小型の空気圧縮機は、ゴルフ場のエアガンのように、おもちゃピストルのような形で、引き金を引くだけで圧縮空気が出る構造が多いので悪戯したくなるのではと思います。実際の事故では、加害者が警察に連絡していることも多いようなので、悪意がなく軽い悪戯な気持ちであることが伺えます」

そろそろイタズラでは済まないことを誰もが自覚しなければ、悲劇は何度でも繰り返されてしまうだろう。

法的に問われる罪。いずれ殺人罪に該当する可能性も?

お尻に空気圧縮機の空気を送り込んでケガを負わせることは、法的に問題となりえる。

まず、人の臀部に空気を入れる行為は、人の身体に対する不法な有形力の行使にあたり『暴行』(刑法第208条)に該当する。暴行の結果、人に傷害を負わせた場合は傷害罪(刑法第204条)、死亡させた場合には傷害致死罪(刑法第205条)に該当する可能性もある。

なお、殺人罪が成立するためには、殺意が必要だ。空気圧縮機による死亡事故や傷害事故が起こり、死亡する危険性の認識がもっと広まっていけば、今後は殺人罪が成立する可能性もあるかもしれない。

何度やったらわかるんだ! コンプレッサーで尻に空気、またも惨劇…メーカーが警告