先月より公開が始まり、現代日本に切り込む映像表現を追求するスタイルが話題を呼ぶ、齊藤工総監督の映画「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」。オムニバス形式でつづられる本編の中で、人形アニメーションがあるのはご存知だろうか? 人形アニメ「C.C.C.C サイバー・コンプライアンス ・コップ・カルヴィン」でコンプライアンスを問うた、監督の飯塚貴士さんと、4月から「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」が放送される監督の伊藤智彦さんが初対談! 〝コンプライアンス〟に切り込んだ!

飯塚貴士監督

――ちなみにご自分で、コンプライアンス的に一番攻めたと思っているシーンはどこですか?

伊藤 うーん……血の色も赤くしないしなあ……「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」でアスナのおっぱいを出したくらいですかね。本当は劇場での上映時から出すつもりだったのに、日和ったプロデューサーたちに止められて、Blu-rayでしか見れなくなったんですけど。

――まさにコンプライアンスの事例じゃないですか。

飯塚 でも、お客さんの気持ちをどのくらいまで想定するかは難しいですよね。僕、テレビ東京さんでやらせてもらった「フォーカード」のとき、人形を車のラジコンに乗せて走らせて撮影するシーンで、シートベルトを着けるかどうかでちょっと迷ったんですよ(笑)。人間なら今の基準だとアウトなんですが、人形として扱うのか、人として扱うのか、悩みどころで……。

伊藤 シートベルト問題は実写やアニメでも気にしすぎな気がしますけどね。反社会的勢力の登場人物がシートベルトをしていると、やはり疑問に思うじゃないですか。悪い奴らは、その因果応報で懲らしめられる。「シートベルトをしないような奴は、こんなにひどい目にあいますよ」と想像力を持っていくのが、映像作品の役割なのではないかという気がするんですけどね。

――アニメだと、さきほど伊藤監督がおっしゃったような、エロスの線引きが難しい印象です。

伊藤 直近の例だと「異種族レビュアーズ」とかですかね。あれに関しては、原作があるものですから、やるからにはちゃんとやるんだという風にプロデューサーと監督が覚悟を固めた。そして怒られているかもしれないけど、決めたからにはがんばっている。そういう風に、俺は受け止めています。

――しかし、そもそも企画を通すことに驚きますよね。

伊藤 それは、おっしゃるとおり(笑)。

飯塚 最近では赤十字が「宇崎ちゃんは遊びたい!」をポスターに起用した件もありました。同じ絵でも、出しどころによってセンシティブな話題になる。どこに、どう、コンプライアンスの基準を持っていくかは、すごく難しくて、毎回ネットで騒動を見るたびに混乱します。

伊藤 ……気になっていたことがあるので、ちょっと作品の話に戻したいんですが、飯塚さんは作品に登場させる人形たちにそれぞれ設定を考えているそうですね。あれは、どういう形で生み出されるんですか?

飯塚 ちゃんと活字に起こしたのは、パンフレットに載せることが決まったときですが、もともとひとりで作っているときに、集団作業の気持ちが味わいたいという気持ちがあったんですね。それで「この人形は、こういう役者さんで、性格はこう……」とか、勝手に考え始めたんです。「今回の作品では照明部さんが怖い」とかも。自分の中で、この映画のために集められたスタッフの「組」が回っているように妄想しながら作ることが多いんです。だから、あるカットの撮影が終わって、使わない人形を画面外に退避させているときも、大物の役者と設定している奴はクッションの効いた椅子に座らせたりしているんですよ。

――それは人形アニメを作る方にとっては一般的なやり方では……。

飯塚 ないですね、たぶん(笑)。

伊藤 ソフト化されたら、キャラクターコメンタリーを聞いてみたいです。ちなみにアニメ業界でもたまに、そういう考え方をする方はいるんですよ。俺の師匠筋である遠藤卓司さんが「WXIII 機動警察パトレイバー」を監督するとき、「この作品はあまりお金がかけられない、いわゆるB級映画なんだけど、でも照明さんを始め、集まっているスタッフにはベテランの人が多い……そんな実写映画のつもりで演出しているんだよ、伊藤くん」と言っていて、当時は何をいっているのかわからなかったんです。でも、今の話を聞くと分かるというか、遠藤さんなりにそういう裏設定を作って、イメージを固めて制作に臨んでいたわけですよね、きっと。

飯塚 うれしいですね、そういう共通点を聞くと。

――では最後に、お互いの最新作への意気込みを。

伊藤 対談のきっかけになった「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」は、原作の舞台を現代に置き換え、お金持ちの刑事をダークヒーローとして描こうと考えています。

――ミステリーではなく、ヒーローものなんですか。

伊藤 そう解釈してほしいです。原作の要素を使って、遊ばせてもらっている形ですね。

――コンプライアンス的に挑戦してるところは?

伊藤 上級国民憎し、芸能界薬物汚染問題……ですかね(笑)。

飯塚 おお~。楽しみですねえ。僕は今日お話してきた「C.C.C.C」が最新作です。映像表現の持つ暴力性による快感って、楽しんでいいのか? いけないのか? そんなこと考えるきっかけになるといいかな、と。僕も悩みながら作ったので、見て、一緒にモヤモヤしてもらえたらうれしいです。「COMPLY+-ANCE」はオムニバス作品で、他の監督さんたちはまた違った、様々な視点で作品を撮られています。それぞれのコンプライアンスに対する覚悟がうかがえる、決意が見える作品がギュッと集まっていますので、ぜひ見て、日々の生活に活かしてもらいたいです。単純に笑える作品でもありますので、気軽に触れてみていただけたら。(WebNewtype・【文・構成/前田久】)

伊藤智彦監督(左)と、飯塚貴士監督