上野樹里さんと川口春奈さん。共に今年の序盤、ドラマシーンで注目を浴びた女優です。上野さんはTBS系連続ドラマ「テセウスの船」好調の原動力となり、川口さんはNHK大河ドラマ「麒麟がくる」のスタートダッシュに貢献しました。

 そんな2人には、生い立ちに一つの共通点があります。それは3姉妹の末っ子だということです。

 これとは別に、兄と姉がいる末っ子の女優もいます。例えば、松たか子さん。姉は女優の松本紀保さんで、兄は歌舞伎役者の松本幸四郎さんです。松さんはディズニーアニメ「アナと雪の女王2」で第1作に引き続き、ヒロインの声優とメインソングの歌手を務め、今年2月には米国アカデミー賞授賞式で歌を披露して話題になりました。

 松さんは今年1月公開の映画「ラストレター」に主演していますが、この作品でヒロインの姉とその娘の2役を演じたのが広瀬すずさんでした。こちらもまた、一般人の兄と女優をしている姉・アリスさんがいる末っ子です。映画「海街diary」(2015年公開)では、1人だけ母親が違う4姉妹の四女に扮(ふん)し、みずみずしい演技が高く評価されました。

仲間由紀恵香里奈尾野真千子篠原涼子

 最近の芸能界では、こうした“末っ子女優”の活躍が目立ちます。他には、関西テレビフジテレビ系連続ドラマ「10の秘密」に出演している仲間由紀恵さん(5人きょうだい)や、TBS系連続ドラマ「恋はつづくよどこまでも」の香里奈さん(3姉妹)もいますし、新垣結衣さん、中越典子さん(共に3姉妹)、尾野真千子さん(4姉妹)、篠原涼子さん、上戸彩さん(共に3人きょうだい)、吉田羊さん(5人きょうだい)もそうです。

 なお、橋本環奈さんは双子の妹で、その上に兄がいるので、やや変則的な末っ子です。

 さらに、現在活動休止中の沢尻エリカさんも兄が2人。つまり「麒麟がくる」での帰蝶役の交代は、末っ子同士によるものでした。また、沢尻さんがかつて内定していたという映画「SPACE BATTLESHIP ヤマト」(2010年公開)のヒロイン役を引き継いだ黒木メイサさんは姉が3人。こちらも末っ子リレーです。

 降板つながりでいえば、不倫スキャンダルの唐田えりかさんも3姉妹の末っ子。とまあ、豪華かつタイムリーな顔ぶれが末っ子女優にはそろっているのです。

 ではなぜ、末っ子と女優の相性がこんなにいいのか。きょうだい構成と性格の関係にいち早く着目して、「姉妹型性格判断 相性と適職を知りたいあなたに!」などを著した漫画家で著述家の畑田国男さんは、末っ子タイプの特徴として以下のものを挙げています。

「自信」「大胆」「負けず嫌い」「目立ちたがり」「理論より感覚」「ワガママ」

 なんとなく分かる、という人もいることでしょう。末っ子は親からよくも悪くも甘やかされ、それほど神経質にもならずに割と自由にやらせてもらえるものの、兄や姉がいるので、人一倍、根性や自己アピール力がなくてはなりません。いわば環境的傾向から生じる特徴です。

 そういえば、広瀬姉妹はお互いをこう評しています。

「お姉ちゃんは考えて考えて…ってタイプ」「すずは直感型」

末っ子は「したたかなアイドル」

 また、兄弟姉妹の定義として、2人きょうだいの下の子も末っ子に含まれます。同性同士で同じものに取り組むと、下の子の方が大成するケースが目立ちます。

 スポーツ界では特に顕著で、例えば、テニス選手の大坂なおみさんには1歳半上の姉がいて、先にテニスを始めていました。それ故、「毎日負けたことに怒って、明日は勝ってやると挑戦し続けていました」と、上達したコツを振り返っています。

 女優の場合でも、姉が先に芸能活動を始めていたケースが珍しくありませんし、姉が果たせなかった夢を代わりに託そうとすることもあります。新垣結衣さんは、2番目の姉の勧めで雑誌「ニコラ」のモデルオーディションに応募しました。「私はもう(年齢的に)できないから」と言われたそうです。

 そして何より、末っ子は「かわいい」という褒め言葉を浴びやすい存在です。そのポジションを要領よく演じることもうまくなったりします。「不機嫌な長男長女・無責任な末っ子たち」を書いた心理カウンセラーの五百田達成さんは、末っ子を「したたかなアイドル」と呼びました。

 そんな末っ子のアイドル性は、フィクションにおいても強調されています。例えば、19世紀米国の作家・オルコットが4姉妹を描き、映画やアニメにもなった「若草物語」。四女のエイミーはおませでおしゃれで、鼻を高くしようと洗濯バサミでつまみながら寝たりします。

 かと思えば、史実を生かしつつ、末っ子らしい魅力を浮き彫りにしたのが2011年の大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」でした。ヒロインは戦国時代を彩った「浅井3姉妹」の三女・江。演じたのは、前述の通り、自身も同じ3姉妹の三女である上野樹里さんです。

 気が強く、自由奔放なキャラで英雄たちと渡り合い、将軍の妻、そして将軍の母となるヒロインは、まさにハマリ役でした。一方、長女・茶々は繊細で責任感が強く、いかにも姉らしい性格。天下人の妻となって世継ぎを産みながら、時代の変化に翻弄(ほんろう)され、最期は自害します。こちらは宮沢りえさん(一人っ子、ただし、異父弟がいるとの報道も)が演じ、上野さんとのコントラストが絶妙でした。

 なお、既に触れたように、末っ子の定義では、2人きょうだいの下の子も含まれます。そうなると、石原さとみさんや綾瀬はるかさん、長澤まさみさん、吉高由里子さん、有村架純さん、多部未華子さん、安藤サクラさん、白石麻衣さん、西野七瀬さんといった顔ぶれも末っ子女優に分類されます。

 とまあ、活躍著しい末っ子女優ですが、もちろん、長子女優にも、中間子女優にも、一人っ子女優にも、それぞれの魅力があります。NHK連続テレビ小説スカーレット」で3姉妹の次女・直子を演じている桜庭ななみさんは、姉と弟に挟まれた中間子です。本人いわく「私も真ん中で次女で、直子に似ている。楽しくやっています」ということで、自身の生い立ちを芝居に生かしているようです。

 そんなフィクションと現実について思いを巡らせ、“姉妹型”に注目しながら作品を見るのもおすすめ。ドラマや映画がますます楽しくなることでしょう。

作家・芸能評論家 宝泉薫

(左上から時計回りに)上野樹里さん、川口春奈さん、広瀬すずさん、新垣結衣さん(2017年10月、時事)