「不可抗力」条項発動
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、開催4日前に中止が決まったジュネーブモーターショーは、ふたたび伝統的なモーターショーの影響力低下という問題に注目を集めることとなった。
先週自動車メーカー各社はジュネーブに向けて投じて来た莫大なコストを回収できるかどうかの調査を始めているが、主催者による中止の判断が土壇場となったことに怒りを露わにするものもいる。
ある大手メーカー関係者は匿名を条件に、総額600万ユーロ(7億650万円)のコストのうち、回収できるのはほんのわずかでしかないと考えていることを明かしてくれた。
この人物は「おそらくこのコストはわれわれが負担するしかないでしょう」と話しつつ、主催者は「もっと早く決断するべきでした」と指摘している。
メーカー各社が抱える不満のひとつが、参加者1000人以上を見込むすべてのイベントをスイス政府が禁止したことで、実質的にジュネーブモーターショー開催が不可能となった金曜日になるまで、主催者が判断を先延ばしにしていたことだった。
このスイス政府の決定により「不可抗力」条項が発動したことで、各メーカーは主催者に契約債務の不履行を訴える権利を失っている。
記者会見の場で主催者側は、参加予定だった各社に対する金銭補償は行わないつもりであることを明らかにしている。
「もっと早く中止の決断をすべきだったにもかかわらず、まるで彼らはこの政府の決定を待っていたかのようです」と、あるメーカーのCEOも匿名を条件に語っている。
さらに、こうした経緯は保険の適用も難しくしているのだ。
モーターショーの地盤沈下
「中止の判断をしたものの、賠償責任を負わなくて済むのですから、主催者側は笑いが止まらないでしょう」と、こちらも匿名を希望するあるメーカー幹部は話している。
「モーターショーの地盤沈下が叫ばれているなか、本来であれば彼らは可能な限り自動車メーカーの役に立つことをしなければならないはずですが、その代わりにまったく逆のことをしたのです」
ジュネーブ中止のはるか以前から、自動車メーカー各社はモーターショーに替わる、より効果的な宣伝機会というものを求めるようになっている。
大手自動車メーカーが存在しないスイスは中立的だという理由もあり、伝統的に多くのメーカーが好んで参加してきたジュネーブでさえ、今年はフォードやプジョー、日産、シトロエン、ボルボ、さらにはミニの各ブランドが出展しないという事態に見舞われていた。
「モーターショーは全般的に凋落傾向にあります」と、調査会社LMCオートモーティブでトップを務めるピート・ケリーは話す。
「すべてのモーターショーが出展メーカーの減少に見舞われており、自動車メーカー各社ではこうしたショーだけではなく、さまざまなイベントにもコストを費やすようになって来ています。以前のような状態に戻るとはとても思えません」
メーカー各社は新たなイベントの開催に踏み出している。
例えばフォードは、マスタング・マッハEとその他の電動化モデルのプロモーションのため、2月のロンドンでのお披露目を皮切りに、英国内100箇所でゴー・エレクトリック・ロードショーと言う名のイベントを開催している。
「欧州フォードではわれわれの新たなモデルやテクノロジー、そしてサービスをより多様な方法でご紹介すべく、独自イベントの開催にますます注力するようになっています」と、フォードは話す。
新たなアプローチ
アウディやトヨタ、フォードでは、すでにメディアやディーラー、そして顧客向けにプライベートなモーターショーとでも呼ぶべきイベントを開催しており、こうした機会に新型モデルのプレビューを行うことで、市場の反応を確認しているのだ。
さらに、こうしたイベントはメーカー自ら時間と場所を選ぶことが出来るため、特にジュネーブのような大型モーターショーでは顕著なホテルの価格高騰などに悩まされることもない。
それでも、モーターショー側もすでにこうした事態への対応を始めている。
先週、フランクフルトモーターショーを主催するIAAは、この隔年開催のイベントを来年からミュンヘンで行うと発表しており、ショー自体にもまったく新しいアプローチが採用されることになるようだ。
「IAAはもはや単なるモーターショーではなく、モビリティーのプラットフォームへと変化します」と、ドイツ自動車工業会(VDA)会長のベルンハルト・マテスは話している。
「展示会場を飛び出し、市街地へと広がるのです」
有名な米国デトロイトのモーターショーも新たな姿を模索しており、2019年のショーでは前回よりも3万5000人来場者が減少したことを受け、今年は開催時期を夏へと移すことになる。
しかし、自動車メーカーのなかには、モーターショーが依然としてひとびとの関心を集めるのに有効な方法だと考えているところもある。
モーターショーにはまだ役割
ラグジュアリーカーやスポーツカーメーカーの多くが、すでに他の主要なモーターショーへの参加は取り止めても、世界中の富裕層に対してVIPデーが設定されているジュネーブには出展を続けているのだ。
こうしたメーカーにとって、今年のショーの中止は痛手だろう。
「非常に残念です」と、新型ロードスターモデル、マリナー・バカラルのオンライン発表の際、ベントレーCEOのエイドリアン・ホールマークは語っている。
「史上最高のステージを準備していたのですが、すべてをストップすることになりました」
新たなエントリーモデルとなるプラス・フォーの公開を予定していたモーガンでは、昨年のジュネーブで公開初日に60台を受注したロードスターモデル、プラス・シックスの再現を狙っていた。
「もちろん影響はあるでしょう」と、CEOのスティーブ・モリスは話している。「厳しい現実です。これ以上の混乱は見たくありません」
モーガンは地元までこの新型プラス・フォーをドライブすることで、ひとびとの注目を集めるとともに、ジュネーブに替えてマルバーンにある本社で発表会を行っている。
他の自動車メーカーも、多くは本社を舞台にライブ配信によるプレゼンテーションと記者会見を早速開催している。
世界中のメディアとクルマ好きがインターネット経由で見た今年のジュネーブで、足りないものは明らかだった。
LMCのケリーは、「実際にニューモデルがどんな風に見えるのかをオンラインで再現するのは非常に困難です。つまり、モーターショーにはまだ役割があるということです」と話している。
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