大企業をやめて、学歴を捨てて……自らの手で新たな道を切り拓いてゆく起業家たち。どこかほど遠い存在に思える彼らはどんなことを考えているのだろうか? そこに、20代のbizSPA!世代の働き方を考えるヒントがあるのかもしれない。

呉宗樹
MeRISE株式会社代表取締役の呉宗樹さん
 今回話を聞いたのは、国内外に英会話スクールを運営する「MeRISE株式会社」代表取締役呉宗樹(37歳)さん。

 大手不動産会社をやめたのち、「世界への挑戦をもっと身近に」というミッションを掲げ、呉さんが起業に至った理由とは?

新卒で4年連続トップ営業になれた

――まず大手不動産会社・東急リバブルに入社しますが、そこでいきなり全国トップセールスを4年連続で獲得。すごい実績ですが、なぜ達成できたのですか?

呉宗樹(以下、呉):ただ、負けず嫌いだったんですよ。2005年に入社しましたが、とにかくお金を稼ぎたくて、そのために優秀な先輩のものまねをしていました。営業職だと、優秀な人と、そうではない人の差がはっきり出るんです。

――売上が数字で出ますからね。どんなところをものまねしたんですか?

呉:意識したのはしゃべり方の抑揚。営業マンは「売りたい気持ち」が先行してしまうと、自分だけが一方的にしゃべってしまう。むしろ買い手が「どんな家がほしいか」をひたすら聞く役に徹したほうが契約を獲得しやすいんです。

不動産営業に感じていたジレンマ

呉宗樹
不動産営業でずっと感じていたジレンマがある
――なるほど、そのほうが相手のニーズも明確になりますね。

呉:トップセールスになってからは、最終的なゴールを購入・売却に定めた脚本をドラマみたいに頭の中に描いて、どういうシナリオを組めばそこにたどり着けるかコントロールしていました。配役まで決めて、「上司はここで出てきたら効果的だな」とか(笑)

――そこから28歳で、中国の大手IT企業アリババの日本法人に入社します。転職するきっかけは?

呉:ずっと感じていたジレンマがあって、日本の不動産会社って商品の買い手と売り手の両方を担当するんです。だから、ノルマを達成するため、双方に良い顔をするし、どちらか一方に厳しい決断も迫らないといけない。双方の代理人になることに近い難しさがありますし、本当にこの商材がお客様に絶対にいいものか懐疑的になってしまうんです。それで26歳のときに一生これをやるのは違うなと思い、転職を決めました。

当時「無名だった」アリババに入社

――なぜアリババに入社したのですか?

呉:アリババを初めて知ったのは韓国に留学していたときでした。どういう会社か知って、このサービスを心の底からお客様に勧めたいと思ったんです。それで採用募集に申し込んだら、面接が3度ほどあり、「なぜこの仕事をやりたいのか」「サムスン電子、LGが海外で活躍できているのはなぜか」を聞かれました。

 採用されてからは、当時のアリババは日本でまったくの無名だったので、北海道から沖縄まで中小企業相手に、同社で最も古いBtoBラットフォーム「アリババドットコム」のセールスをしていました。アリババドットコムなら、マーケット調査や海外のバイヤーとオンラインで商談ができる。だから、あなたの商材を海外(全世界)で売らないかと。ただ、ほとんどの経営者が海外に行きたいのに、英語ができないという理由で進出をためらっていたんです。

 対照的に、中国や韓国の企業は拙い英語でもすぐに商品を展示して、商談を進めてしまっていた。日本人は真面目すぎて、スピードで彼らに全然敵わないし、ビジネスにならないと思ったんです。その頃から「英語への苦手意識さえなくせば、もっと日本人が海外でチャレンジできるのに」と感じるようになりました。

2度の留学で「教育事業」立ち上げ

呉宗樹
フィリピン人講師による授業風景(提供/MeRISE株式会社
――29歳のときにアリババを退社して起業。その前にご自身も語学留学をしたそうですね?

呉:なんとなく起業を意識するようになり、MeRISE共同創業者である鈴木(光貴、取締役CFO)とプランを練っていたんです。ただ、だんだん煮詰まってきてて、それと同時に「これから海外に行かないとダメ」だとも感じていて、そこで丁度海外留学を検討していたもう一人の共同創業者の渡辺(和喜、取締役COO)と3人でフィリピンに留学に行くことにしたんです。

――留学先をフィリピンにしたのは何か理由があったのでしょうか?

呉:27歳で韓国に初めて行ったときにフィリピン留学を知ったんです。ちなみに私は在日韓国人三世として日本で生まれ育ったので、当時は日本語しかしゃべれませんでした。

 同じ在日の友人が韓国に行く様子を見ていて、「今しかない!」と思い切って韓国語を現地で学習しました。その学校で、当然韓国語は一人も話せないのですが、英語を話せないのが私含めた日本人だけだったんです。一方で、もっとも英語が堪能だったのがフィリピンの女性。耳で聞いて、うまいとわかりました。

――フィリピンだとフィリピン語(タガログ語)の印象ですが、英語を話せる人が多いんですね。

呉:それと韓国人も英語がうまかった。日本人に比べて、なぜここまで差がつくのかと。調べたら、韓国経済は貿易依存度が高く内需に乏しいため、企業が外貨を取りに行く関係上、学生も就職を考える上で英語学習について熱の入れ方が違う。その留学先としてフィリピンが人気だったんです。

英会話スクールで上達するのか?

――そこで2012年にMeRISE(当時、ユナイテッド・リグロース)を創業するに至るわけですが、すでに同業他社もいて、後発です。

呉:先ほどお話したように2000年頃、韓国の大学生に向けに作られたカリキュラムがフィリピン留学です。同業他社は、その仕組みをそのまま日本人向けに使っていましたが、英語を学ぶのは学生だけではなく、社会人もいます。学生であれば「履歴書に入れたい」「TOEICスコアを上げたい」といった動機がありますが、社会人は転職だったり、出世に必要だったり、それぞれ理由が異なります。

 そこで、テキストやレッスンを、全員にオーダーメイドにして、当初は社会人特化型として開校しました。いまは学生も受け入れていますが、学生と社会人の生徒の棲み分けをしたんです。

――実際、英会話スクールって上達するものですか?

呉:留学だけで来るなら最低でも3か月来てほしいです。レベルが高い人なら1か月でも良いと思います。初心者、中級者は上達しますが、帰国するとすぐ元のレベルに戻ってしまうので。あとはパッションです。日本人の英語が上達しない理由のひとつに、ゴール設定がうまくないからだと感じていて、みなさん「英語を話したい」で目標が終ってるんです。

 よく陸上に例えますが、100mを走るのか、42kmを走るのかで、走り方は全然異なります。英語が上達して、それからどうしたいのか。「良い会社に入って年収を上げたい」でもいいので、何か長期の目標設定をすると、上達できると思います。

世界への挑戦を阻む壁を壊したい

呉宗樹
世界への挑戦を身近にしたい
――今後の会社としての目標はあるか?

呉:そもそも会社としては「世界への挑戦を身近に」というミッションを掲げています。世界への挑戦を阻む存在として、私は「語学・教育・国」という3つの壁があると思っています。

 一般的に、お金がある人ほど良い教育を受けられますが、それはあるべき姿ではない。お金のあるなしにかかわらず、誰もが良い教育を受けられる仕組みを作りたいと思っています。そのためにも2025年までにテクノロジーと人の力で語学サービスを、2030年に教育サービスのあり方を変えるつもりです。

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 今回取材も兼ねてレッスンを体験させてもらったが、フィリピン人の講師のみなさんは非常に熱心なことに驚いた。代表の呉さんに話を聞くと「フィリピンの語学教師のレベルは世界に通用する」と答えた。

フィリピンの英語人口は世界第3位ですし、英語力も確かなものなので、世界中にこの人たちを知ってもらいたいんです。日本人サービスクオリティ世界一こだわりますが、そのビジネスマンを満足させられたら、他の国でも受け入れられると思いました」

 MeRISEでは2016年から日本にもスクールを開校している。今では新宿や渋谷など都内を中心に9拠点ある。講師はフィリピン本国から呼ばれた優秀な講師ばかりだ。

フィリピンまれの講師のみなさんはパスポートの都合でなかなか日本で働いてもらうのも大変なんです。でも、それって本来あるべき姿ではない。講師のみなさんにも世界に挑戦する機会を与えてあげたいです」

<取材・文/詠シルバー祐真>

【詠 シルバー 祐真】

株式会社扶桑社第二編集局SPA!Web編集部「bizSPA!フレッシュ」編集長、詠(ながみ)です。映画と音楽が好きです。