両角敏明[元テレビプロデューサー]

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いくら安倍政権でも、どうしちゃったの? 狂っちゃったの? と思ったのが「羽鳥慎一モーニングショー」をはじめとするテレビ攻撃です。具体的に、まずは内閣官房国際感染症対策調整室のツイートです。

3月6日午前1時35分にUPされたツイート全文は、

(以下、引用)3月5日テレビ朝日羽鳥慎一モーニングショー」で、「総理が法律改正にこだわる理由は、『後手後手』批判を払しょくするため総理主導で進んでいるとアピールしたい」というコメントが紹介されています。(1/3)

法律改正をする理由はそうではありません。あらゆる事態に備えて打てる手は全て打つという考えで法律改正をしようとしています。(2/3)

現行の新型インフルエンザ等対策特別措置法では未知のウイルスしか対象としておらず、新型コロナウイルスはウイルスとしては未知のものではないので、今のままでは対象とならないからです。(3/3)(以上、引用)

政府が問題にしたのは「羽鳥慎一モーニングショー」(以下羽鳥MS)の以下のシーンです。特措法についてボードに書かれた政治アナリスト・伊藤惇夫氏のコメントを紹介した下り。イタリックの部分がボードに書かれた氏のコメントです。

羽鳥「安倍総理が改正にこだわる理由について、政治アナリストの伊藤惇夫さんが、『後手後手の批判を払拭するため総理主導で進んでいるとアピールしたい』という背景があるんじゃないかという事です。」

羽鳥氏が声にしたのは15秒間、たったこれだけです。この前も、この後もいっさい触れていません。特措法については、国会質疑や多くの番組を含めて伊藤惇夫さんと同じ見解を示した方は腐るほどいます。なのに、ふだんは「3月7日(土)、政府は「新型コロナウイルス感染症対策本部(18回)」を開催いたしました」などのお知らせをツイートしていた内閣官房国際感染症対策調整室がなぜ突然のように羽鳥MSだけを名指しこんなツイートをしたのか、きわめて不自然です。

この不可解ツイートのおよそ10時間後、今度は厚生労働省が羽鳥MSを名指したツイートを。以下はその事後修正版と思われるツイートです。

(以下、引用)厚生労働省では、2月25日厚生労働省の指示の下、メーカーと卸業者が協力して、医療機関の必要度に応じて、一定量の医療用マスクを優先的に供給する仕組みを作りました。(1/4)

3月4日午前8時からの「羽鳥慎一モーニングショー」の出演者から、「医療機関に配らなくてはだめ」とのコメントを受け、3月5日に、既に厚生労働省は医療機関に優先供給をする方針を自治体や医師会に明確にしていたので、この事実関係をお知らせしたところです。(3/4)

最終的に全ての医療機関に十分なマスクが届くことが必要であり、引き続き、マスクの増産や全ての医療機関を対象とした優先供給を進めてまいります。(4/4)(以上、引用)

この3月10日現在のツイートは、(1/4)~(4/4)のうちの(2/4)が消された、当初のツィートを修正した後のものと思われます。羽鳥MSは、修正前の厚労省のツィートには複数の誤りがあったことを、厚労省への取材結果として明らかにしていました。

厚労省・元ツイート感染症指定医療機関への医療用マスクの優先供給を行った」

しかし羽鳥MSの取材では未供給の指定医療機関が多く、これを厚労省に指摘すると、

厚労省・回答「『行った』については言い過ぎた表現『行っている』『開始した』が正しい」

さらに、

厚労省・元ツイート「医師会のルートを活用した優先配布の仕組みをお知らせしてます」

これも羽鳥MSが厚労省の担当者に事実関係を聞くと、

厚労省・回答「そんなことは国会でも言っていない。訂正したい」

結果として厚労省が話を盛った疑いがあることを羽鳥MSが指摘した形です。よって、羽鳥MSには何のミスもなく、「マスクを医療機関に配らなくてはだめ」などというコメントは羽鳥MSに限らず、あらゆるメディアに溢れていたのに、厚労省はなぜ羽鳥MSだけ名前を挙げて矢を放ったのか・・・というお話しですから、とても気持ちの悪い成り行きです。

[参考]<新型コロナ>瀬戸際2週間満了3/9時点で感染状況は一段深刻化

政府のこうした不可解な行動のあと、今度は驚くべき著名人コメントが表れます。3月11日の「特ダネ!」で社会学者の古市憲寿氏がPCR検査について

古市「検査数全体を増やしても陽性率としては、そこまですごい高いわけじゃないですから、そんな市中感染でなんか町中誰でもみたいな、モーニングショーがあおっているみたいなことには多分なっていないと思うんですけど」

羽鳥MSを欠かさず視ている身としては、番組で「市中感染でなんか町中誰でもみたいな、モーニングショーがあおっているみたいなこと」を一度として聞いたことがないので、古市氏が何を根拠にあおっていると誹謗されたのか意外でなりません。古市氏は「社会学者」ですから根拠なしに発言はなさらないと思いますので。

羽鳥MSには岡田春恵氏が毎回出演し、かかりつけ医でも医師が必要と判断したらPCR検査が受けられるようにして欲しい、また検査能力を増やして実際の市中感染率を基礎データとして対策を講じるべき、と主張されています。これは政府対策専門家会議の尾身茂副座長も自民党対策本部の田村憲久本部長も、口を揃えてPCR検査能力を上げることで実現できればと言っています。いわば一般的な意見を伝えているだけで、実際の感染率は高い高いと〝あおっている〟というのは明らかに事実無根です。

この古市発言より前の6日、安倍総理に近いと言われる文芸評論家の小川榮太郞氏も夕刊フジに「ワイドショーが国を滅ぼす・・・」というタイトルで寄稿しています。以下は要旨。

「日本のワイドショーや左派野党、さらに驚くべきことには医師の中にさえ、執拗に『希望者全員に検査させろ』と煽り続ける人々がいる。あるワイドショーの出演者は『PCR検査を希望者全員に適用せよ』と声高に主張し、韓国の検査体制を礼賛している。ワイドショーの無責任な報道に煽られてPCR検査に国民が殺到すれば、日本の医療は完全に崩壊する。全員検査を扇動するこれら『医療テロリスト』たちから、日本の医療を守るための情報戦が、今切実に必要だ。」

お忙しい小川氏よりはワイドショーヘビーウォッチャーの筆者の方がたくさん視ていると思うのですが、「執拗に『希望者全員に検査させろ』と煽り続ける人々」や「全員検査を扇動するこれら『医療テロリスト』たち」などはワイドショーやニュースで筆者は一度も視たことがありません。

もちろん、「PCR検査能力を増やして医師が必要と判断した患者は全員を検査できる態勢に」という主張や「PCR検査能力を増やして客観的な疫学的データを採るべき」という主張はたくさんの方々が言っていますし、先述したように政府の専門家会議メンバーも言っていることです。

先日の桜を見る会問題。辻元議員へのANAホテルメールでも、国会で総理が窮地に立つと読売、産経がANAホテルメールの内容と違った事実を立て続けに報じ、SNSもこれに呼応したかのようでした。

今回は総理もしくは総理近くのどなたかが、なにかを、ちょこっと言ったら、お役人が反応し、そこへ偶然に識者が呼応したような形でこうした結果が生まれたのかもしれません。きっと政権中枢の「どなたか」は羽鳥慎一モーニングショーがお嫌いなんでしょうね。しかし、いま政府は話を盛ったり番組たたきにうつつを抜かしている場合じゃありません。どれほど印象操作をしても新コロナウイルスは消えてはくれません。

そんなアホなことにエネルギーを使っているからか、お膝元の国会で、肝心の専門家会議が緊急の提案を必死に訴えていることに政府もメディアも関心がうすいようで心配です。これについては別稿で。