スペイン全土に非常事態宣言が発令され外出禁止となった3月16日の朝、バルセロナの街を歩いてみた

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 いろんな噂が飛びかっていた。外に出たら警官に止められて罰金をとられる。職務質問される。とにかくいいことはないから外出は避けたほうがいい——。

 通勤での外出や、食料品や医薬品を買いに出かけるのは許されるという。中心部の様子を見に行くことくらい許されるはず。警官に出くわした時のための言い訳を3つほど準備して、非常事態宣言下の街に踏み出した。

人影も、バルサの影も、消えた街角

 最寄りの大通り、グラシア通りに出る。ガウディの建築物、カサ・ミラやカサ・バトリョがある街の目抜き通りだ。

 いつもは人で溢れる並木道はやはりがらんとしていた。

 普段は活気ある通りだが、歩く人はほとんどいない。観光客はひとりもおらず、地元民らしき人も足早にどこかへ向かっている。この日は曇っていて小雨もちらついていたこともあり、どことなく世紀末感が漂う。東京でいえば無人の表参道を歩くようなものかもしれない。

 ディアゴナル通りで信号待ちをしている人もおらず、ほとんど人とすれ違わずにカサ・ミラに到着した。年中どんなときも観光客で列ができているカサ・ミラの前には誰もいなかった。あたりはしんとしている。静けさの中に立つ巨大な建築物がどこか寂しげに見えた。

 3ブロック下にあるカサ・バトリョも似たようなものだった。誰もが知るバルセロナはそこになかった。

 もちろん「バルサ」の影もどこにも見当たらない。

バルサは経済の動力源でもあった

 普段はバルサカラーのブラウグラナ(紺とえんじ)をいたるところで目にする。グラシア通りを歩けば、数分でバルサユニフォームグッズを身につけた観光客やファンとすれ違うものだ。しかし今はサッカーどころではない。スペインリーグは延期され、チャンピオンズリーグなど欧州の大会もすべてストップしている。

 これほどの規模でサッカーが止まったことは、過去の世界大戦中を除けば例がないのではないか。

 数日前、FCバルセロナバルトメウ会長が嘆いていた。

無観客試合によるチャンピオンズリーグ1試合の損失は600万ユーロ(約7億円)にのぼる」

 これは入場料収入に加え、スタジアム施設での飲食や公式ショップでの販売、VIPエリア収入などすべてを合わせた数字だ。無観客試合どころか、しばらく試合自体が開催できないことになったので、損失はさらに膨れ上がるだろう。

 猛威を振るうコロナウイルスバルセロナという街とサッカークラブ双方に、かつてないほどの打撃を与えている。

 カタルーニャの象徴でもあるFCバルセロナは、バルセロナの街と互いに支えあいながら進んできた。

 会計事務所PwCの統計によると、昨シーズンFCバルセロナは街に11億9100万ユーロ(約1400億円)をもたらした。これはバルセロナの域内総生産の1.46%に相当する額だ。雇用の面でも影響は大きく、19451人が何らかの形でバルサに関わる仕事に従事している。消費税法人税など、バルサ関連の税収は3億6600万ユーロに上り、これは市の年間予算の13.81%に相当する。

バルサスポーツ界で世界一ブランドであり、存在感は年々高まっている」とバルトメウ会長は言う。

 近々立ち上げを予定している『バルサTV+』は、世界で3000万人の契約を目標にしている。ウォルト・ディズニー・カンパニーの動画配信サービスディズニー+』の契約者が2月時点で北米を中心に2800万人という数字を考えると壮大な計画だ。

 会長は「バルサバルセロナの街とカタルーニャ州の経済を動かす動力源でもある」ともいう。

 たしかに、バルサバルセロナの経済に及ぼす影響は大きい。”バルセロナはアントニ・ガウディに感謝しなければならない”とよく言われる。この天才建築家がいなければ、特に観光という側面で街がここまで発展することはなかったからだ。そしてバルサは、そのガウディに次ぐ最も重要な観光資源である。

「それぞれが責任をもって、家で過ごそう」

 両者の間にあるのは持ちつ持たれつの関係だ。年間を通して世界から観光客が押し寄せる街のクラブであるからこそ、バルサは商業面でも世界1、2を争うクラブになれた。

 バルセロナ空港に到着した瞬間から人々はバルサの影を感じる。第一ターミナルの一等地と到着ゲートを出たところには、観光客を迎えるようにバルサの公式ショップがある。建築現場サグラダ・ファミリアの隣にも、大道芸人が並ぶランブラス通りにも、観光地のいたるところにFCBのロゴがある。

 市バスの中では試合の観戦チケットとカンプノウ・ミュージアムの広告が流れる。ホームスタジアムのカンプノウ内にあるこのミュージアムは、年間190万人が訪れる街の一大観光施設だ。この入場料だけで、年間約600万ユーロクラブの懐に入ってくる。試合がない日に確固たる収入が計算できるのはクラブ経営の面でも大きい。

 観光とサッカーの相乗効果。たとえば観光都市ではない街のビッグクラブ、トリノのユベントスでは起こり得ないことだろう。

 先日、メッシSNSでよびかけていた。

「それぞれが責任をもって、家で過ごそう」

 多くの選手が自宅待機と我慢の重要性をファンに語りかけている。欧州全体で選手や監督にも感染が広まっており、多くのチームが練習を中止している。彼らはそれぞれの自宅で、またピッチに立てる日を想像しながら調整し、ファンはそんな彼らの姿をSNSで見ながら再開の日々を待っている。

 コロナ騒動が収束し、バルサカラーが再び街角を染めるのはいつになるだろう。静まり返ったグラシア通りはこの街が直面する現実を映し出し、サッカーがある日常への思いを一層強くしてくれた。

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スペインに非常事態宣言が発令された3月15日、バルセロナの観光名所サグラダ・ファミリアを訪れる観光客もやはりいなかった(写真:なかしまだいすけ/アフロ)