新型肺炎を引き起こすコロナウイルスが世界162カ国・地域に蔓延して感染者は18万人に迫り、7426人の死者(令和2年3月18日現在)を出すパンデミックとなっている。

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 米国をはじめいくつかの国では主要都市が閉鎖されるなどして11カ国が国家非常事態を宣言し、ヒトとモノの移動が著しく制限される非日常の生活を余儀なくされるに至った。

 日本でも多くの観客が密集するスポーツ大会やイベントなどが禁止又は延期に追い込まれている。

 また、招致決定後、多年にわたって施設整備や選手育成などに多大の投資を行なってきたオリンピック(続いてパラリンピック)を控えているが、社会や経済にも甚大な影響と不安を与えている。

 千年に一度の複合災害となった東日本大震災に次ぐ想定外である。

定員を充足できなかった自衛隊

 今日、90%を超える国民が自衛隊への親近感を持っている。

 それは阪神淡路大震災地下鉄サリン事件、さらには東日本大震災熊本地震などの度重なる災害派遣を通じて得られた親近感である。

 従って、自衛隊の任務に対する理解もその域を出ておらず、「今後の自衛隊に希望すること」を問われると、「災害対処専門部隊になってほしい」との返事が多かったりする。

 戦後の日本が一度も戦争を経験することなく平和裏に過ぎたことで、日本が直面する危機は自然災害以外にないと多くの国民、特に戦後生まれの人々は思い込むに至ったからである。

 実際はその陰で、日本の領土・領海・領空への不法侵入を阻止するために自衛隊が日夜努力しており、また日米安保条約に基づく(在日)米軍の存在が重要な意義を有し、決して憲法9条の存在によってではない。

(日米安保がなければ中国は〝核心的利益″と位置づけている尖閣諸島を容易に占領しよう)

 現に東日本大震災で日本が混乱し、自衛隊の半分近い10万人超が東北に災害派遣されると、中露は西方や北方周辺で怪しげな動きを行い、残された任務部隊は神経を尖らせたと仄聞する。

 この、「国を守る」自衛隊は日本の景気に大いに左右され、非常に不景気であった一時を除き、総じて定員を満たしたことがない。

 中でも、近年は好景気のあおりを受け、募集難が続き、平均では90%前後で推移(平成22年版『防衛ハンドブック』)してきた。

 しかし、子細に見ると、非任期制〈いわゆる定年制〉自衛官(幹部と准尉・曹クラス)は100%に近いが、現場で実働すべき任期制(一部非任期)の若年自衛官の充足率が著しく低い。

 そうした課題を克服するために近年は駐屯地の隊員食堂などは可能な範囲で民間業者などに委託されるなどしている。

 それでも若年隊員は駐屯地や施設、さらには演習場の整備など、日常的および非日常的な作業に差し出されることも多く、訓練に参加できるのはさらに10%前後減少するとみてよいであろう。

 近年はPKOなどの海外派遣や東日本大震災のような大規模かつ長期の災害派遣などが重なり、必要な訓練や実任務にも支障をきたす状況ともなっているという。

 令和元年版『防衛白書』によると、2019年3月末時点の充足率は91.7%であり、非任期制自衛官(幹部・准尉・曹)の97.1%に対し、若年自衛官の充足率は73.7%でしかない。

 より具体的な人数で言えば、若年自衛官は定員5万7819人のところ、現員は4万2618人で、高卒・大卒などの若年者約1万5000人の補充枠があるということになる。

自衛隊は社会混乱の緩和に寄与

 今次のコロナウイルス騒動では社会の混乱による企業の活動低減で、残念ながら正規雇用さえ解雇せざるを得ない状況に陥り、新規採用などがとてもできる状況にない企業も増えつつある。

 こうしたことから、刻苦勉励して就職の内定を勝ち取り、大志を抱いて社会へ船出しようとしていた矢先に、若者を意気消沈させる「内定取り消し」などが起きている。

 そこで、定員に満ちていない自衛隊は欠員補充という形で行先を失った多くの若者を引き受け、社会の混乱を緩和してやることができるのではないだろうか。

 内定取り消しなどで人生のスタートが狂い始めた人に、例えば内定取り消し解除までとか、1年限りなど、臨時的な採用方式も導入して門戸を広げるのである。

 本来の希望先ではないかもしれないが、失業や宙ぶらりんで先の見通しが立たないよりも、当面の生活の糧になるとみて自衛隊を応募する人士も多いに違いない。

 そして、聞き知っていた自衛隊と実際の自衛隊は大きな違いがあり、「遣り甲斐」を発見される人も多いかもしれない。

自衛隊という学校』(荒木肇著)という本もあるように、戦争のための自衛隊ではなく、平和のための自衛隊であり、社会人生活に大いに裨益することを改めて認識してもらうチャンスともなろう。

 ほかでもないが、以前から企業によっては「新入社員心得」などと称して、新規採用者を自衛隊に1日か数日間預けて、教育を依頼してくることも多かった。

 筆者も飯塚(福岡県)や仙台勤務時に、そうした依頼に対処したことがあったが、たった1日の体験でも見違えるほどになったと喜んでもらった。

 会社に入ったのに「こともあろうに何で自衛隊の体験?」という声も聞かれたが、その疑問はこのわずかな体験ですっかり消え去っていたことをアンケートで確認できた。

 余談であるが、体験終了を前に「心理的葛藤もあったでしょうが、規律は厳正であっても女性自衛官もおり、和やかな雰囲気の自衛隊で、思い描かれていた自衛隊とは全く異なる印象をもたれたのではないでしょうか。このまま居たいと思われる方は引き受けます」と冗談がてらに話したことがある。

 そうしたら、「隊長さん、そんなことは冗談にも言わないでください。せっかく入社してもらった虎の子が心変わりしては元も子もありません」と、社長は真に慌てた様子だった。

ソフトウエア中心になる戦いの様相

 自衛隊は戦車や戦闘機などのハードウエア兵器を扱い、共産党などの宣伝もあって人を殺す集団といったイメージを抱いている人も多いであろう。

 国土を守るという最終局面において厳しい戦いを強いられる点で、人の殺傷に関わる一面がないとは言えない。

 そもそも日本の領域に侵入してきた敵を撃退するのが任務であり、殺傷行為はそうした任務に伴う副次的事象である。

 そうしなければ逆に日本国民が多数死傷することになり、全体主義国家の侵略を無抵抗で許せば、占領後は現在の言論の自由をはじめとした「諸々の自由」は制限され、占領国の言いなりにならざるを得ない。

 また、侵略の排除は国連憲章にも規定された自国防衛の自衛権発動であり、国家主権を守り抜く決意に伴う行動である。

 しかし、今日はハードウエア兵器同士が対抗する武力衝突よりも、サイバー攻撃やEMPとして知られる電磁パルスのような、多くの人たちが慣れ親しんでいるSNSのようなエレクトロニクス機器での戦いに移行している。

 国家や部隊の情報収集機能や命令伝達のための指揮機能などを麻痺させることで、戦力発揮を阻害する方向にある。いわゆる電子戦による戦いである。

 こうした状況から、今後は情報収集・分析・伝達・使用機能や、それらを可能とするIT技術といったソフトウエアに関わる分野が一次的には重要となりつつある。

 一般にはC4I(Command Control Communication Computer Intelligence system)と称される情報処理システムで指揮官の意思決定を支援して、作戦を計画・指揮・統制するための情報資料を提供し、またこれによって決定された命令を隷下の部隊に伝達するものである。

 これまでのハードウエアは頑丈な身体を鍛練して戦うシステムであったとするならば、今後はそれらのハードウエアを機能させないようなソフトウエアで戦うシステムに比重が移っているというわけである。

 従って、戦えば必ず戦死者が出る(〝戦い⇒戦死者″)古典的な様相から、今明日は指揮系統を乱して兵器は存在するが機能しない(〝戦い⇒不可″)、そして人的損害を少なくする方向に向かっていると言えよう。

 自衛隊は専守防衛を基本としており、領域への侵入排除で「勝つ方策」を追求することが一段と求められる。

 こうした状況に応えるのがIT技術による相手戦力の不発であり、こうした時代の趨勢からは短期入隊の自衛官も十分戦力になり得るとみられる。

おわりに
真の自衛隊を知ってもらうためにも

 自衛隊の勤務様式には2、3年の任期制(何回か繰り返す継続勤務可能)と、定年制勤務がある。

 また、一般企業に勤務しながら、勤務先の協力を得てある期間(数日や数カ月)だけ訓練などに参加する予備自衛官等の制度もある。

 任期制は一時的とはいえ、職業として自衛官になったものであり、定年制は生涯の職業として選択したものである。

 他方、予備自衛官などは、普段は企業などに従事し、ある期間だけ訓練に参加するが、東日本大震災などのような非常時は臨時的に招集される制度である。

 このように、自衛隊の勤務形態には柔軟性があり、とくに定員に達していない点からは充足率向上にも資することになる。

 また、予備自衛官制度等は企業との密着性が高いため、内定取り消しや企業で溢れた人を雇用し、日本社会のバッファーとしての機能も果たすことができるのではないだろうか。

 災害派遣以外にも、自衛隊は日本社会の活性化に貢献できることを示し、併せて自衛隊の本来任務が「防衛」にあることを国民が広く知る機会となるならば、逃してはならない最大のチャンスではないだろうか。

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