あなたが今見ているスマホの中で、巨大な”犯罪市場”が広がっている。

 その犯罪市場の名前は、レコメンドウィジェット広告だ。主に、ニュースサイトの記事下などに置かれている広告を指す。

 2020年3月18日毎日新聞の1面に、虚偽広告に関する記事が掲載された。ニュースアプリ大手のグノシー社の子会社が虚偽広告を制作し、その虚偽広告をグノシー社が配信していた、という内容だ。

 インターネットを使う人なら誰でも、怪しい広告を見たことがあるだろう。シミがはがれる美容クリーム。ハゲがすぐに治るスプレー。ヤセ菌を増やして簡単に痩せるサプリメント。それらは、違法性にまみれた広告だ。

 この記事では、それらの違法広告の経済的規模や、全体の構造などについて筆者の認識を説明する。

◆違法なレコメンドウィジェット広告は全体の26.4%
 筆者が代表を務める株式会社デトリタスの最新の調査では、レコメンドウィジェット広告内の違法広告の比率は26.4%である、と結論付けた。これは、レコメンドウィジェット広告から2657件をサンプル抽出し、それぞれを違法か否か有識者の目で判定して算出した数値だ。分析対象となるデータは独自開発したシステムで収集した。

 MarkeZine記事によれば、レコメンドウィジェット広告の2019年市場規模は304億円だと推測されている。それをもとに計算すると、レコメンドウィジェット広告には年間約80億円の”犯罪市場”が存在すると考えられる。

 業界団体である日本インタラクティブ広告協会(JIAA)は、2019年12月11日プレスリリースを出した。インターネット広告に関するユーザー意識調査だ。この結果を見ると、ユーザーインターネット広告を広く受け入れている。その反面、信頼度についてはテレビCMなどよりも著しく低い。つまりユーザーは、インターネット広告を「表示してもいいけど、信じてないよ」と断じている。おそらく誰もが感じているであろう感覚を裏付ける調査結果だ。

 このプレスリリースは、「インターネット広告の信頼性向上に取り組んでまいります」という一文で締められている。しかし現在も、レコメンドウィジェット広告の中には多数の違法な広告が含まれている。

◆簡単に見つかる違法広告
 これを書いている現在の時刻は、2020年3月20日15時29分。今、レコメンドウィジェット広告を見てみよう。違法広告は現在もたくさん存在しており、簡単に見つかった。とある著名ウェブサイトにこの広告が表示されていた(赤枠は筆者が描いたもの)。

 この広告をクリックすると、広告サイトに遷移する。この広告の中に、違法な広告表現が多数存在した。その中のひとつをピックアップしよう。

 「1ヶ月で-10kgもの大減量に成功!!(しかも食事制限・運動は一切ナシ)」と記述されている。これは、薬機法という法律に違反した広告表現だ。

 薬機法とは、簡単に言うと、サプリメントや化粧品、医薬品などの広告表現を規制している法律だ。例えば、サプリメントが医薬品のように効くような広告表現をすると、行政は違法だと判断する。

 今回の場合、この広告サイトは「食事制限も運動もせずに1ヶ月で10kg痩せた」という効能を表示している。これは、医薬品として承認が必要な表現だ。

 独立行政法人医薬品医療機器総合機構医薬品検索ページで当該の商品名を検索してみると、検索のヒットはしなかった。つまり、この商品は医薬品ではない。だから、「食事制限も運動もせずに1ヶ月で10kg痩せた」という表現をしているこの広告サイトは、違法サイトだ。

◆違法な表現をしないと広告が表示されない
 現状は、違法サイトがまかり通ってしまっている。その直接的な原因は、レコメンドウィジェット広告への広告出稿がオークション形式で決まるからだ。

 レコメンドウィジェット広告に広告出稿する場合、広告を出す広告代理店等は、出稿するためにいくら払えるかを事前に設定する。そして、高い金額を設定した広告から順に、広告が掲載される。

 広告サイト内で、「これを飲んだら一ヶ月で10kg痩せた」と「ダイエッターをサポートします」の表現。この2つを比べたら、前者の方がたくさん売れることは明らかだ。

 前者は違法表現、後者は適法表現である。

 違法な表現をしているサイトは商品がどんどん売れる。だから、広告枠のオークションに対して高値で入札できる。

 その結果、違法な表現のサイトが広告枠の入札で勝ってしまう。つまり実務上は、美容系・健康食品系の商品の場合、違法な表現をしないと広告が表示されない。
 先ほど、レコメンドウィジェット広告に含まれる薬機法違反広告の割合は26.4%だ、と書いた。この割合の母数は「レコメンドウィジェット広告枠全体数」だ。

 母数を「薬機法規制対象商品」に絞ると、違反率は実に77.2%に跳ね上がる。前述の通り、「違法な表現をしないと広告が表示されない」のだ。法律を守っている真面目な企業ばかりが損をしているのが現状だ。

フェイク広告の問題
 レコメンドウィジェット広告の問題は、薬機法違反だけではない。いわゆる「フェイク広告」も多く含まれている。

 2019年1月22日NHKクローズアップ現代プラスで「追跡!“フェイクネット広告の闇」が放送された。筆者は、この番組にデータ提供の形で協力した。番組では、土屋太鳳さん、平手友梨奈さん、マツコ・デラックスさんなどの画像が盗用されていることが報道された。

 これらのフェイク広告は、この番組の放送を境にかなり減ったようだ。しかし、まだ残っている。日本テレビ公式サイトのマツコ会議のページでは、今も注意喚起のメッセージが表示されている。

引用元:日本テレビ公式サイト内マツコ会議のページ

 バラエティ番組のトップページには似つかわしくない文だ。番組関係者の人たちは、被害を防ぐために苦渋の決断でこれを表示させているのだろう。

◆主犯格は「アフィリエイター」ではなく「法人」
 悪質なインターネット広告は、「アフィリエイター」の存在を絡めて説明されることが多い。しかし、それは正確な表現ではない。一般的なイメージの「アフィリエイター」が、薬機法違反広告やフェイク広告などの違法広告を出している比率は、大きくない。

 筆者がそう判断する根拠は、アフィリエイトリンクの有無だ。

 レコメンドウィジェット広告をクリックすると、広告サイトに遷移する。個人のアフィリエイターが収入を得ようとする場合、広告サイト内に「アフィリエイトリンク」を設置する必要がある。

 アフィリエイトリンクは、ASP(アフィリエイトサービスプロバイダー)ごとに特徴的な文字列で作られることがほとんどだ。ASPとは、アフィリエイターとECサイトを繋ぐ役割をする企業である。筆者は、収集した広告サイト内に、主要なASPのアフィリエイトリンク文字列が含まれているかどうかを調べた。

 その結果、広告サイト内にアフィリエイトリンク文字列が含まれていた比率は3分の1程度だった。つまり、残りの3分の2の広告サイトは、おそらく一般的なイメージの「アフィリエイター」が作ったものではない。

 筆者の推測としては、この3分の2の広告サイトは、法人である広告代理店が制作したものであろうと考えている。少なくとも、一般的な意味でのアフィリエイト広告が、それらのサイト内には存在しないからだ。

 インターネット広告の闇は、個人が作っているのではない。大きな資本を持った法人が作っている。

◆レコメンドウィジェット広告運営企業のスタンス
 レコメンドウィジェット広告運営企業は、これらの違法サイトへの導線を作ってしまっている。では、それらの企業が薬機法違反サイトフェイク広告サイトに対してどのような認識を持っているのか確認してみよう。

 レコメンドウィジェット広告事業の売上比率が高い会社で、なおかつ上場している企業としては、株式会社ログリーが挙げられる。2019年度第3四半期決算説明資料の15ページ目を見ると、株式会社ログリーの第3四半期までの売上高19.4億円のうち、レコメンドウィジェット広告事業である「LOGLY lift」での売上は18.9億円だ。大雑把な計算ではあるが、全体の97.4%がレコメンドウィジェット広告による売上だと読み取ることができる。「レコメンドウィジェット広告運営企業のスタンス」を知る上では、良いサンプルとなる企業だ。

 そして、2019年度第2四半期報告書の3ページ目に「事業等のリスク」と「経営成績の状況」の記述がある。仮に、薬機法違反サイトフェイク広告サイトについて大きなリスクを認識していれば、ここに記述されているはずだ。

 報告書を見てみると、それらのリスクに対して言及はない。記述されているリスクは、資金調達とアドフラウド、Cookie規制のみだ。

 つまり、株式会社ログリーは、薬機法違反サイトフェイク広告サイトについて、大きな問題認識を持っていない。全く無いとも思えないが、おそらく、四半期報告書に書くような大きな問題ではない、と考えているのだろう。

コストの問題と現実的な解の案
 レコメンドウィジェット広告運営企業が表示する広告の審査を厳しくすれば良いではないか、という考えも思いつく。しかし、それは現実的ではない。コストの問題だ。

 ウェブページが薬機法違反しているか否かをチェックするには、専門的な知識が必要だ。相場観としては、1ページあたり5万円程度のコストがかかる。無数にある広告サイトに対して、そのコストを払えば、おそらく大赤字になり、事業が成り立たない。だから、広告審査をゆるいままにして、この問題に目をつぶっているという面もあるのだろう。

 だからといって、違法な広告を放置することが許されるとは思えない。例えば、「レコメンドウィジェット広告としては美容系・健康食品系の広告を一律で排除する」といった対応はできるはずだ。

 現状の機械学習(いわゆるAI)では、テキスト文字列から薬機法違反を判定することはおそらく不可能だ。だが、紹介されている商品が美容系・健康食品系であるか否か、という程度の推定は、可能なはず。

 商品ジャンルの推定については、レコメンドウィジェット広告運営企業として、全てを内製する必要はない。Microsoft AzureのLanguage Understandingのような優秀な外部サービスも存在する。このMicrosoft Azureのサービスは、文章を送信すると、その中の重要な単語を判定してくれる。このような機械学習の外部サービスを活用すれば、広告サイトで紹介されている商品ジャンルを推定することは、ごく簡単に実現できるだろう。

 「レコメンドウィジェット広告としては美容系・健康食品系の広告を一律で排除する」という対応は、今すぐできる現実的な解としては、候補のひとつとなり得るだろう。

◆お金の流れと、この仕組みの核となっている企業
 違法広告サイトに関係した一連のお金の流れを整理する。おおむね以下の通りだ。

健康食品メーカー
↓ お金を払って宣伝を依頼する
広告代理店 ※ここが違法サイトを作る
↓ お金を払ってレコメンドウィジェット広告枠を買う
レコメンドウィジェット広告運営会社

 ここで重要なのは下記の2点だ。

1.薬機法違反で捕まるのは、実務的には健康食品メーカーのみである。
2.健康食品メーカー広告代理店は多くの場合、零細事業者であり、潰して作り直すことは簡単である。

 これまで行政は、薬機法違反サイトが発見された場合、その商品を「製造」している健康食品メーカーのみを処罰の対象にしてきた。しかし、この健康食品メーカーを作り直すことは簡単だ。健康食品メーカーは、「メーカー」といっても、生産工場を持っていないことが多い。OEMしているのだ。先ほどの図にOEMメーカーを書き加えると以下のようになる。

OEMメーカー
↑ お金を払って商品を作ってもらう
健康食品メーカー ※行政はこの会社を捕まえる
↓ お金を払って宣伝を依頼する
広告代理店 ※ここが違法サイトを作る
↓ お金を払ってレコメンドウィジェット広告枠を買う
レコメンドウィジェット広告運営会社

 「健康食品メーカー」の会社が行政に捕まって倒産したとしても、この仕組みが消滅することはない。新しい健康食品メーカーが出現して、またOEMメーカーに発注し、広告代理店に宣伝を依頼する。広告代理店は、また同じようにレコメンドウィジェット広告運営会社から広告枠を買う。結局のところ、健康食品メーカーを捕まえても、全体の仕組みは変わらない。

 つまり、違法広告サイトが存在し続けている根本的な原因は、レコメンドウィジェット広告運営会社にある。レコメンドウィジェット広告運営会社の責任を問うべきではないだろうか。

◆薬機法第六十六条「何人規制」
 薬機法第六十六条に、通称「何人規制」と呼ばれている条文がある。違法な広告表現をした場合、その広告に関わったすべての企業が罰される、という趣旨の条文だ。

 これまで行政は、実運用としては健康食品メーカーのみを処罰の対象にしてきた。しかし、この薬機法第六十六条が存在するので、レコメンドウィジェット広告運営企業は既に犯罪を犯している、と言える。行政は、レコメンドウィジェット広告運営会社へアクションを起こせる状況にある。

◆行政の介入やむなし
 このレコメンドウィジェット広告という商慣習は、とても新しいものだ。一方、行政の業務を変えるのは簡単なことではないだろう。だから、行政側の実運用として、この問題に即対応できないということは理解できる。

 問題は拡大し続けている。薬機法の世界のみならず、インターネット広告に対する社会的信用は、ここ数年で急落し続けているように感じる。

 筆者の感覚としては、今、インターネット業界は存亡の危機に瀕しているように思う。このままインターネット広告の信頼性が下がり続ければ、いつかその価値はゼロになる。広告の仕組みが役に立たなくなれば、広告以外のインターネット業界も、経済活動が激しく縮小するだろう。

 冒頭で言及した業界団体であるJIAAは、この問題を解決する力を持っていないように見える。本来であれば、行政が介入する前に業界内の誰かが指揮を取り、業界内で健全化することが理想だ。しかし、その意思と実行力を合わせ持つプレイヤーが存在しない。

 問題はここまで悪化してしまった。レコメンドウィジェット広告業界に自浄作用は無い。行政に介入して頂く他に道はない。

<文/土橋一夫>

【土橋一夫】
twitter@kazunii_ac
株式会社デトリタス 代表取締役インターネット広告業界の不正対策事業を行っている。薬事法管理者・コスメ薬事法管理者、ソフトウェア開発技術者
【運営事業】ヤクパト 薬機法違反・著名人肖像権侵害サイト検知システム/ストリス 不正PPCアフィリエイトサイト検知システム/薬機法チェックサービス
【主な実績】NHKクローズアップ現代プラス「追跡!“フェイクネット広告の闇」へデータ提供/サイゾー2019年5月号(4月20日発売号)「芸能人の肖像権侵害に薬機法違反 マツコや欅坂46も無断で登場「あなたにおすすめ」広告の闇」へデータコメント提供/元ブロガー。バリューコマース2016年上期ASコンテストレビュー部門1位を獲得。