国内興行ランキングで2週連続1位をマークし大いに反響を呼んでいる、東日本大震災時の福島第一原発事故を描く映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)。SNSでは称賛の声と共に、巨大地震大津波原発事故のリアルな描写を大スクリーンで体感した衝撃の声も連日アップされている。今回、改めて本作を若松節朗監督もイチオシのDolby Cinema(ドルビーシネマ)で観賞してみると、驚異的な没入感に思わず息を呑んだ。

【写真を見る】暗闇のなか、命懸けのベント作業に当たる作業員たち…Dolby Cinemaで再現されたリアリティに驚愕

Dolby Cinemaと言えば、広色域で鮮明な色彩と幅広いコントラストを表現するハイダイナミックレンジ(HDR)映像と、縦横無尽に空間内で音を移動させることができるサウンドで、劇的な映像体験ができる上映システムだ。

■ 怪物のような大津波、その恐怖を追体験

まずは、冒頭で風光明媚な海岸に佇む福島第一原子力発電所(通称:イチエフ)が映しだされたあと、すぐにマグニチュード9.0、最大震度7という巨大地震が襲う。ここで、地震の揺れで海底が突き上がるド迫力の映像と爆音に思わずのけぞってしまう。激震によって建物のガラスが割れ、天井が落ちるすさまじい惨事にいちいち体が反応していく。

映画を観るのは二度目なので、ストーリーラインは把握しているはずなのに、福島をはじめ東北の被災者が体感した恐怖の何分の一か、いや何十分の一かを追体験する感覚になるのだと、ここで改めて腹をくくる。

そこから押し寄せてくる黒い大津波は、まるで黒いモンスターのように異様な光景だ。津波はあっという間にイチエフを襲うが、その波や水しぶきの轟音が実にリアル。そして、全交流電源が喪失するという「SOB」宣言が発令され、イチエフはメルトダウンの危機に瀕していく。指揮官吉田昌郎所長(渡辺謙)は、1・2号機当直長の伊崎利夫(佐藤浩市)と連絡を取り合い、現場の作業員たちを決死のミッションに向かわせる。

この真っ暗な電源喪失状態が、黒が際立つDolby Cinemaで観ると恐怖感と緊迫感がより煽られる。伊崎たちが待機する中央制御室は、暗いまま物語が進行していくため、より臨場感が感じられると共に、わずかな明るさも表現できる特性上、佐藤たち俳優陣の生々しい苦悩が浮き彫りになっていくのだ。

■ 命懸けの作業「ベント」に当たる決死隊に涙の嵐!

メルトダウンという最悪の事態を回避すべく、伊崎が率いる作業員たちは、原子炉格納容器の圧力を手動で抜く「ベント」という決死のミッションに当たることに。このベントは暗闇のなか、懐中電灯だけを頼りに灼熱の通路を進んでいくという非常に危険な作業である。まさに“決死隊”という言葉にふさわしいFukushima 50たちの姿は、涙なくしては観られない。いや、作業員たちだけではなく、東電本店、官邸、マスコミ、被災者、自衛隊、米軍など、隅々まで丁寧に描かれたドラマには、また大いに心を揺さぶられた。

そして、やはり一番心に残ったのは、終盤の桜のシーンだ。満開の桜に福島の美しい緑、山、川、そこにいる地元の方々の映像も差し込まれていく。とりわけ夕陽のグラデーションもDolby Cinemaでは非常に繊細に映しだされ、いまだ故郷が帰還困難区域となっている被災者の心情がリアルに迫って胸が張り裂けそうになる。

私は震災当時、東京にいて被災地の映像をただテレビで観るだけでもかなりショッキングだったが、『Fukushima 50』を観たあとに沸き起こった感情は、いままで抱いていたものとは別次元のものだった。津波の恐ろしさはもとより、Fukushima 50の方々の“死闘”を知り、驚愕したのだ。

桜のシーンでは、伊崎の「このことは必ず後世に語り継いでいく」という熱い誓いが、くさびのように心に刺さった。もちろん、これはあくまでも映画であるが、映画館で“体験”したあとは、あらためてこのことを風化させてはいけない、そして「対岸の火事」という感覚を持ってはいけないと痛感した。ぜひ日本はもちろん、世界中の多くの人に映画館で観ていただきたい。(Movie Walker・取材・文/山崎 伸子)

『Fukushima 50』、Dolby Cinemaでの鑑賞ポイントは?