世界的に新型コロナウイルス拡散の勢いが止まらない中、これまでのところ日本では他国ほど感染者が爆発的に増えていない。この間、安倍政権は大規模イベント自粛や小中学校などの一斉休校、中韓両国などからの入国規制強化措置など様々な対応を打ち出してきた。それに対して多くのメディアは対応が後手にまわっているとか、求職や失業を余儀なくされた人たちへの手当が不十分だなどと批判的な報道を続けてきた。

 ところが3月に実施された新聞社やテレビ局などによる各種世論調査の結果を見ると、安倍内閣の支持率は下がるどころか一部の調査では上がっている。一斉休校など政府の対応についても、6割以上が「評価する」と回答している。戦争など国家が危機に直面した時はしばしば為政者の求心力は強まり、国民の支持が増えることが多いが、安倍政権とコロナウイルスの関係もそうなのであろうか。

森友・加計問題、桜を見る会、大臣辞任……不祥事に強い安倍政権

 内閣支持率を振り返ると、安倍政権は不祥事にも強い政権である。2012年安倍氏が首相に復活して以後、安倍政権は「森友・加計問題」をはじめ常に不祥事を抱えてきた。ところが国会で野党から追及され、首相や官僚らの答弁がしどろもどろになったり、公文書が政府に都合がいいように改ざんされていたことが明らかになっても、内閣支持率は大きく下がることなく今日まで推移してきた。

 昨年から今年にかけても、河井案里参院議員(自民党)の公選法違反事件とそれに伴う夫の克行氏の法相辞任、自民党を離党した秋元司衆院議員の逮捕(収賄容疑)などと不祥事が続いている。さらに経緯が不透明な東京高検検事長の定年延長問題まで起きた。首相主催の「桜を見る会」問題も事実関係が解明されないまま時間が過ぎている。

 公文書の破棄や不透明な政策変更など、安倍政権の体質が露骨に現れた問題がこれだけ次から次へと表ざたになるというのは政治的にはかなり危機的な状況である。一昔前であれば内閣支持率が急落し、マスコミの批判が強まり、さらに支持率低下に拍車がかかるという悪循環に陥って、やがて与党内から首相退陣論が出て、首相は辞任に追い込まれていただろう。

「60~70%でスタート→20%台に急落」パターンを完全否定

 1990年代から第2次安倍内閣前の野田内閣まで、多くの内閣が政党に関係なく60-70%という高い支持率でスタートするが1、2年の間に20%台以下に急落し、辞任に追い込まれたり総選挙で敗北して政権を失うパターンを繰り返してきた。1年足らずの間に50ポイント以上も支持率を下げた政権は一つではない。

 それと比べると発足以降、40%を大きく下回ることがない第2次安倍内閣の支持率の推移はそれまでのパターンを完全に否定するものとなっている。正確に言えば安倍内閣でもそれなりに下がったことはある。例えば2017年7月、朝日新聞世論調査では内閣支持率が6月の41%から33%に8ポイントも下がった。同じ月、NHK読売新聞では13ポイントも下がり、いずれも30%台半ばまで落ちた。時事通信社の調査では15.2ポイント減の29.9%と初めて30%を切り大いに話題になった。

 7月は通常国会会期が終わった直後の調査だった。改正組織的犯罪処罰法を成立させた自民党の強引な国会運営が批判されるとともに、森友・加計問題に関する野党の追及も注目を集めていたタイミングで、政府は苦しい立場に追い込まれていて、それが支持率急落につながった。

 ところが安倍内閣の支持率は8月以降、徐々に回復し10月には40%台に戻った。安倍首相が一連の不祥事について何か詳細な事実を示し国民を納得させたわけでもなければ、不祥事を吹き飛ばすような画期的な政策を打ち出したわけでもない。にもかかわらず内閣支持率は回復していったのだった。

 数々の問題を抱えているにもかかわらず安倍内閣の支持率はなぜ安定的な数字を維持しているのであろうか。そこにはそれ以前の内閣と異なる点をいくつか見出すことができる。

ポイント1)「他よりよさそう」

 まずよく言われることだが自民党内に安倍氏に代わる首相候補がいない点だ。朝日新聞世論調査では安倍内閣を支持すると答えた人に「なぜ支持するのか」を聞いている。結果は常に「他よりよさそう」という回答が50%を超えている。質問の方式は異なるもののほかのメディアも同じ趣旨の質問を行い、ほぼ同様の結果を得ている。つまり多くの国民が「安倍首相には問題が多いが、じゃあ他に誰がいるのか」と考え、とりあえず安倍内閣を支持しているのである。

ポイント2)「自民党批判の受け皿なし」

 二つ目は、自民党にとって代わる政党がないということだ。政党支持率を見ると、自民党の支持率は長く30%台にとどまっている。1980年代には50%台を記録していたことを思えば、自民党の支持率はかなり低下した。ところが立憲民主党などほかの政党の支持率は軒並み一桁にすぎず、数字のうえでは自民党と政権を争うような存在とはなっていない。

 前述した2017年7月の調査では、内閣支持率と共に自民党の支持率も34%から 30%に低下したが、野党第一党の民進党(当時)も8%から5%に落ちている。つまり野党が政権批判や自民党批判の受け皿になっておらず、代わりに増えるのは「支持政党なし」という構造になっているのだ。そして、一時的に行き場を失った国民は数カ月後に元に戻っていることが数字に現れているのである。

ポイント3)「20代、30代の支持」と「スマホ普及率」

 3点目だが、内閣支持率を年齢別に分析するとより重要な点が浮かび上がってくる。1980年代までの自民党長期単独政権時代、内閣支持率や自民党支持率は年齢が上になるほど増える右肩上がりだった。ところが近年、これが逆転し、20代、30代の方が高く、年齢が上になるほど低くなっている。

朝日新聞世論調査 https://www.asahi.com/politics/yoron/ (年代別の支持率を見ることが出来る)

 例えば「森友・加計問題」や「桜を見る会」などの問題がメディアで大きく取り上げられると、50代以上が政権に対し批判的な反応を示す。一方で若い世代の反応は非常に鈍い。こうした現象を「若者の保守化」と指摘する研究もある。しかし、若い世代の反応を昔ながらの「保守か革新か」というようなイデオロギー的基準で色分けするのは無理があるだろう。

 そもそもこの世代は閣僚の逮捕や首相が関係する不祥事などに関する情報にほとんど接しておらず、無関心なのだ。こうした問題についての質問に「わからない」などという回答の率がほかの世代より高いことがそれを示している。

 ここに一つ興味深いデータがある。今は当たり前のように使われているスマートフォンの普及率の統計だ。総務省『情報通信白書』(令和元年版)によると、スマートフォンの世帯保有率は2010年9.7%だったが以後、29.3%(2011年)、49.5%(2012年)、62.6%(2013年)と急激に増加し、2015年に7割を超えて以後、今日に至るまで7割台を続けている。使っているのはもちろん若い世代が中心で、今は20代から40代の7割以上がSNSを利用し、新聞やテレビに代わってスマホで情報を得ているのである。

50代以上と20、30代で意見が分かれる理由

 そして、興味深いことに内閣支持率が不祥事などに左右されず安定的に推移するようになったタイミングと、スマートフォンの普及が高原状態に達したタイミングが一致しているのである。

 スマートフォンを使って得られる情報のコンテンツが、新聞やテレビコンテンツとは全く異なっていることはすでによく知られている。FacebookGoogleYahoo!ニュースなどは、ユーザーの関心、好みに合わせて情報を選択するアルゴリズムが機能している。あるいは友達同士が気に入ったニュースシェアし合っているのだ。

 その結果、ユーザーが手に入れることのできる情報は第三者が作ったフィルターを通したものに限られ、組織的犯罪処罰法や公文書管理などという問題は届きにくくなる。趣味や芸能、スポーツニュースなどが溢れ、それらを友達同士でやり取りするという閉じられた空間ができているのである。新聞社がいくらこぶしを振り上げて政権を批判しても、伝わりにくい仕組みができているのだ。内閣支持率が安定的に推移する状況はこうして創られているのではないか。

 一方で新聞やテレビという伝統的なメディアに触れる機会の多い50代以上の世代は、政権の問題に敏感に反応し内閣に批判的な姿勢をとっており、それが数字に現れている。

 今後、スマホの利便性はますます高まり、どっぷりつかってしまう世代が増えていくと、この現象はさらに進むであろう。一人一人の好みに合わせた情報の世界は利用者にとって居心地の良いものだ。しかし、それは同時に政治が抱えている問題を認識するために必要な「公共空間」から切り離された閉鎖的な空間である。それがさらに肥大化することは、安倍内閣の評価を超えた、民主主義にとってかなり危うい現象と言えるだろう。

(薬師寺 克行)

内閣支持43%、不支持41%(NHK調査、2020年3月)など、直近の各社世論調査でも安倍内閣支持率は「変化なし」か「微増」が多かった ©文藝春秋