「えっ?」。思わずのけぞってしまった。
40代の韓国人知人は、「今こそチャンスですよね?」と聞いてきたのだ。急落が続く韓国株についてだった。
新型コロナウイルスの世界的な流行は韓国経済にも大きな影響を与えている。感染者増加数こそ、3月第3週目になって100人以下に落ち着いてきたが、なお予断は許さない。
特にここ数日は、欧米からの入国者の感染者が急速に増えているのだ。
航空、観光業や飲食店などすでに大きな打撃を受けている業種も少なくない。さらに、韓国は輸出依存度が高く、世界経済の低迷は、主力産業に影響を与える可能性大だ。
韓国株も急落中
そんななか、韓国の主要企業の株価も大幅に下がっている。
サムスン電子の株価は、1月20日には6万2800ウォンだったが、3月19日には4万2300ウォン(1円=11ウォン)に急落した。
総合株価指数も、1月20日の2262ポイントから3月19日には1457ポイントに下落した。
「株安・ウォン安」のダブルパンチは、米連邦準備理事会(FRB)が3月19日に、韓国銀行(中央銀行)など9か国の中央銀行と通貨交換(スワップ)協定を結んだことで、3月20日には持ち直したが、週明けの23日以降は再び元に戻ってしまった。
そんな中、韓国の株式市場で、大決戦が繰り広げられている。
外国人投資家に挑む個人投資家
ネットの株式関連サイトでは、ここ数週間「東学個人運動」という見慣れない表現をよく見る。
いったい何のことなのか。
新型肺炎の流行を機に、韓国株を大量に売っているのは外国人投資家だ。
韓国メディアによると、1月20日から3月23日までの間に、外国人投資家は15兆4944億ウォン分の株式を売り越した。
売却後、ドルに換えるため、「株安、ウォン安(ドル高)」の循環になっているのだ。
ところが、こうした動きに真っ向勝負を挑む勢力がある。個人投資家だ。
同じ時期、個人投資家は、17兆2975億ウォンも韓国株を買い越したのだ。
これが「東学個人運動」だ。
韓国で1894年に起きた農民の反乱「東学(党)の乱」になぞらえてこう呼んでいるのだ。農民軍の反乱に当時の清が出兵し、これに対抗して日本も出兵して日清政争の契機となった。
圧倒的な兵力を備えた外国勢力に対抗した民族蜂起。ネットでは、今の株式市場をこう評しているのだ。
愛国心だけではないが・・・
もちろん、愛国心だけで株式を買っているわけではない。
「今こそチャンスだ」とみる投資家がそれだけ多いということだ。
「サムスン電子の株価は、6万ウォンを超えて手が届かなかった。今や、買いの好機ではないか」
サムスン電子の場合、2020年に入って3月23日まで、個人投資家が7兆4594億ウォンを買い越した。
これに対して外国人投資家は6兆4246億ウォン、機関投資家は1兆2770億ウォンの売り越しだった。
外国人投資家と機関投資家の集中的な売り攻勢でサムスン電子株は急落したのだ。
「中央日報」によると、過去2か月間に個人投資家が買った銘柄は、サムスン電子、SKハイニックス、現代自動車、韓国電力、サムスンSDI、新韓金融持ち株会社・・・などだ。
この間、18~55%株価が下落している優良企業だ。
筆者の知人は、韓国の優良企業株を何種類か購入した。知人の場合、自分の余裕資金で買っている。それでも、すでにかなりの含み損を出したという。
人生逆転狙う20~30代も
問題は、もっと「大胆な」投資に乗り出している投資家も少なくないことだ。
韓国紙デスクはこう話す。
「人生逆転を狙えとあおっている勢力がいる。特に、20~30代の中には、不動産投資は遠い世界の話だったし、株式も無理だった。それが、株価の急落で、目の前にチャンスがやってきたような錯覚に陥っている」と危ぶむ。
今、韓国株を買っている個人投資家はだいたいこう話す。
「新型コロナウイルスの流行はいずれ収まる。これに対して、サムスン電子や現代自動車、ポスコなど韓国の大企業は絶対に倒産しない。もう少し株価が下がっても、大けがを負うことはない」
韓国の証券市場では、外国人に加えて機関投資家が「売り」に出て、今のところ、個人投資家を圧倒している。
さらに韓国経済に新型肺炎の影響が出るのは「まだこれから」という見方が多いが、個人投資家はそうは見ていないのだ。
あの時もそうだった
韓国の財閥役員はこう嘆く。
「1997年のIMF危機の時も、10年後のリーマンショックの時も、外国人と機関投資家がドカンと売りに出た。主要企業の株価が急落し始めたとき、個人投資がこれを買う動きはこの時もあった」
「だが、経済危機の衝撃は予想以上で、ずっと株式を保有し続けて後で得をした投資家などほんのひと握り。資金を豊富に持っている連中だけだった」
筆者の知人のように余裕資金で投資している場合は、何とかなる。問題は、信用買いなど無理な借金をして「一発勝負」に出ている投資家だ。
新型肺炎の流行で韓国でも全体としては、鬱々とした雰囲気が漂っている。だが、株式市場では、一部投資家が危険な戦いを挑んでいる。
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