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アルピーヌA310 V6

text:C&SC Team(クラシックスポーツカー・チーム)
photo:Olgun Kordal(オルガンコーダル)/Max Edleston(マックス・エドレストン)/James Mann(ジェームズ・マン)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

どの角度から見ても破格の美しさ

ポール・ハーディマン(Paul Hardiman)

コンコルドのように鼻先の折れたフロントノーズ。くさび形のシルエットを描くアルピーヌは、今回集まったFRPスポーツカーの中では少し場違いに見える。

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アルピーヌA310 V6

前後で異なるタイヤサイズのおかげで、フロントとリアには別サイズのスペアタイヤが収まっているのが、フランス車らしい。だが、よくできたパッケージングでもある。

アルピーヌA110にかわって1971年に登場したA310。フロントノーズには、当初6灯のヘッドライトが収まっていた。UFOといえばアダムスキー型だったような時代、フォルムはとても洗練されている。

ボディは大きくなり、車重も増えたが、当初はA110と同じ4気筒エンジンを搭載。フランスのアルピーヌによって生み出されたFRPのワンピースボディは、どの角度から見ても破格の美しさだ。

ボディを真横から見ると、ストラトスのように短いホイールベースに気付くが、ラインは直線的で無駄がない。1976年になると、A310はロベール・オプロンの手によってわずかな変更を受けた。

ヘッドライトは4灯となり、ホイールアーチのリップとバンパーは拡大。フロントリアにはスポイラーも追加されている。

新開発された90度のV6 PRVエンジンは、スポーツカーらしく唸り声も強い。1981年になると、S2にアップグレード。ホイールのスタッドボルトは4本へと増えている。

1977年にギ・フレクランがフランスラリーのグループ4でチャンピオンを獲得するが、A310の売れ行きは延びなかった。1979年に自国市場で最も多く販売されたが、それでも781台。1984年には、663台しか作られていない。

デロリアンと共通するシャシーレイアウト

リアサスペンションはR5ターボに移植されるなど、一部の構成要素は活かされた。アルピーヌがルノー傘下に収まると、クルマはアルピーヌGTAとして名称が改められる。

この1982年製のA310 S2は、以前にもAUTOCARの姉妹メディア、クラシックスポーツカーに登場してもらっている。ジョン・エヴァンスが4年前に手に入れたクルマ。

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アルピーヌA310 V6

もともと状態は良かったそうだが、入手後に大金を投じてトランスミッションとブレーキをリビルド。新しいミシュランTRXタイヤを組み付けた。良好な乗り心地は、一層印象的なものになっている。

エグゾーストは別注品で、シトロエンSMを彷彿とさせる快音を鳴らす。ソレックス製の2-1という配置のキャブレターから、シャシーレイアウトで共通するデロリアンのように、ホーリー製の4バレルキャブレターへと変更。10psを追加で獲得している。

トルクは充分で、高めのギア比でも加速は容易。5000rpm以上回るが、パワー感は高まらない。何より驚いたのは、前後異径の細身のタイヤにも関わらず、シャシーが落ち着いていること。リアは225で、フロントは195なのだ。

テールヘビーのモンスターではない。アルピーヌはポルシェ911のように、肩より後ろが勝手に動くことはない。鋭いコーナリングであえてリフトを誘発しても、ラインが内側に絞られていくだけ。

ステアリングはコミュニケーション豊かではないものの、重み付けは素晴らしく、どんな操作が必要なのかドライバーに教えてくれる。ブレーキングの印象は覚えていないが、きっと良かったのだろう。

少量生産だったが、FRPボディだったからこそ作ることができた。覚えている人は多くはないかもしれないが。

アルピーヌA310 V6

最高速度:220km/h
0-96km/h加速:8.0秒
燃費:9.2km/L
乾燥重量:1040kg
パワートレイン:V型6気筒2664cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:150ps/6000rpm
最大トルク:20.7kg-m/3500rpm
ギアボックス:5速マニュアル

ロッチデールGT

買って欲しいと訴えている

Martin Port(マーティン・ポート)

1948年にフランク・バターワースとハリー・スミスが創業した、ロッチデール社。FRP製のボディで有名になったが、その起源はアルミニウムのサプライヤーだった。

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ロッチデールGT

創業から6年後、オースチン・セブンのシャシーに載せるためのFRPボディ、MkIVが誕生する。1957年にはロッチデールGTが登場し、過去最高の売上を記録した。

オープンボディのSTコンセプトが2年前に発表されていたが、剛性が足りなかった。そこで屋根を追加し、強度を増したのが、このGT。

当初は、フォードポピュラーというクルマのシャシー利用が前提だったが、最終的にはロッチデール独自設計のシャシーが用いられている。今回登場いただいた、ピーター・キャンベルが所有する1959年から1960年にかけて作られたGTも、その1台。

フォード製シャシーを用いたGTとは異なり、このクルマにはチューブラー・シャシーが組まれ、優れた剛性も得ている。キャンベルは、このGTをオークションサイトのイーベイで手に入れた。

「ボディが、買って欲しいと訴えているようでした。修理も必要でしたが、以前に所有していたGTより、シャシーの状態は良好でした」

キャンベルのGTには、1172ccのフォードE93Aサイドバルブ・エンジンが載っている。最高出力は36ps。チューニングを加えたが、目立った効果は得られなかったという。

「フライホイールのバランスを取り、アクアプレーン製のエンジンヘッドを載せ、カムシャフトも変えてあります。ピストンとバルブも大きくしたのですが、44psにしか届きませんでした」

数字は控えめでも、パーセンテージで考えればかなりのもの。トルクは太く、フォード製の3速クロスレシオ・トランスミッションを介して進む。ここで重要なのが、FRP製ボディも含めた全体的な軽さだ。

歴史的な雰囲気と美しい曲線

実際、GTは遅くはない。変速時にダブルクラッチを決めれば、パワー不足を感じることはないだろう。ブレーキドラム式だが、コンパクトだから制動力は充分。

タイヤは15インチのクロスプライで、軽量なバラミー製ホイールを履く。ステアリングの重み付けも、優れたスポーツカーのように素晴らしく、クルマに慣れるにつれて、コーナリング速度が上がっていく。

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ロッチデールGT

操縦性で唯一引っかかるのが、信じられないほどタイトなペダル回り。スリムな靴を履いていないと、クラッチとブレーキペダルを同時に踏み込んでしまう。

戦後のバックヤード的なスポーツカーは、個性が強く、何かしらの縛りを持つという美点がある。オーナーが必要に応じて変更や改造を加えることも、前提だったりする。

「わたしを喜ばせてくれるクルマです。1950年代、まだ子供だった頃の歴史的な雰囲気があり、美しい曲線にあふれています。ほかの人とは違う、ということも好きです」

弧を描くルーフラインのおかげで乗り降りしにくいが、当時物のバケットシートに座れば、車内を窮屈に感じることはない。ドライバーの後ろには、小さな子供も座れるだろう。あるいは、充分な荷室としても使える。

その奥、垂れ下がったルーフラインの先にはスペアタイヤが収まっているが、車内から取り出す仕組み。満足感の高いドライビングを楽しめるが、珍しさでも負けてはいない。

ロッチデールと聞くと、モデルライフの長かったオリンピックを思い出す人もいるはず。GTという選択も悪くない。ロータスエリートの隣に停めると、5万ポンド(715万円)も安いという事実で、一層魅力的に見えてくる。

ロッチデールGT

最高速度:128km/h
0-96km/h加速:12.0秒
燃費:10.6km/L
乾燥重量:620kg
パワートレイン:直列4気筒1172cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:36ps/5000rpm
最大トルク:6.9kg-m/3000rpm
ギアボックス:3速マニュアル

ロータス・エリートSE

初のFRPモノコック構造のロードカー

Greg Macleman(グレッグ・マクレマン)

FRP製ボディのスポーツカーの中で、最も先駆者的存在といえる、ロータス・タイプ14ほど重要なモデルはないだろう。いわゆる、エリート。小さなロータスを特別なスポーツカーたらしめた原因は、素材がFRPだっただけでなく、その用いられ方にもある。

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ロータスエリートSE

軽量なパネルで独立シャシーを補強するのではなない。FRP自体で負荷を受ける、ボディとシャシーが一体のFRPモノコック構造を採用した、初めてのロードカーだった。

F1が同じ構造を採用するのは、1962年まで待たなければならない。もちろん、フロントのサブフレームなど、最低限の部分はスチールが用いられていた。エンジンの重量をボディ全体へ分散させる役目があった。

ほかにも、窓のフレーム、ドアヒンジ、ジャッキアップ・ポイントなどは金属製ではある。だが、基本的な構造はグラスファイバーが受け持っている。その結果、車重は650kgと信じられないほど軽量に仕上がった。

ピーター・カーワン・テイラーのデザインをジョン・フレイリングとフランク・コスティンがまとめた有機的なボディ。自由度の高い造形も手伝い、Cd値は0.29と空力抵抗にも優れている。

ロータスを専門とするディーラーのポール・マティは、「滑らかなので風切り音はほとんどありません。高速時はクオーターウインドウを開けないと、車内に空気が流れ込んできません」 と話していた。

ポール・マティほど、ロータスエリートに詳しい人物はそうそういない。生涯をかけてロータスのクルマの販売とメンテナンスに打ち込んできた。コーリンチャップマンの偉業を、誰よりも認めているともいえる。

チャップマンの信じていたすべて

シルバーとグリーンのエリートは、ポール・マティ個人のコレクション。「ボディは、芸術作品のようです。以前、ロンドン在住の人のために、赤いエリートを修復したことがありました。彼は仕上がったクルマを、スポットライト付きのガラスケースのようなラウンジに飾ったんです」

その考えも、わからなくはない。だが、エリートの美しさを多くの人に見てもらうべきだし、道路を支配するような走りを楽しむべきだと思う。

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ロータスエリートSE

マティのエリートは、1962年にヘセルの工場をラインオフした、SE。スペシャル・エクイップメントの略だ。1957年ロンドン・モーターショーでお披露目された初期のクルマから、多くの改良が加えられている。

MGA由来のトランスミッションは、滑らかなZF社製の4速へ。キャブレターはSUツインとなり、エグゾースト・マニフォールドも手が加えられている。サーキットでは期待を裏切らず、スイス製ムーブメントのように滑らかな変速を披露した。

コベントリー・クライマックス・エンジンの最高出力は84psに留まるが、宝石のようにまばゆい。4000rpm付近でボディシェルにノイズが共鳴することを除けば。

「精彩さと軽さで、ほかのクルマとは一線を画します。チャップマンの信じていたすべてが表れています」 とマティが話す。実際に所有するには、努力も必要だと認める。

「現役時代は信頼性の低さも有名でした。オーバーヒートとトランスミッションが特に。リアホイールのベアリングも弱点でしたが、今は生涯使える対策品が組めます。ほぼ、多くの問題は解決できます。すべてが完璧だったら、エリートとは呼べませんよ」

ロータス・エリート

最高速度:189km/h
0-96km/h加速:11.0秒
燃費:12.3km/L
乾燥重量:656kg
パワートレイン:直列4気筒1216cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:84ps/6250rpm
最大トルク:10.3kg-m/3750rpm
ギアボックス:4速マニュアル


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