―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―


その82 自衛隊にも当直手当と当直明けを!

◆24時間体制で働く「夜勤」と「宿直勤務」という働き方

 昼夜を問わず、命を守るために働く仕事があります。新型コロナウイルス問題もあり、病院は難しい感染予防対策を考えながら医療サービスを維持できるように頑張っています。医師や看護師、そして、PCR検査をする臨床検査技師などは、非常に神経を使っていることでしょう。命を預かる医師や看護師には夜勤がある人も多く、ナースコールは24時間対応し、医師も駆けつけてくれます。とてもありがたいことですよね。

 このような24時間体制の職種や職場には、それなりのルールがあります。

「夜勤」と「宿直勤務=(当直)」という2種類の分類が労働基準法にあります。「夜勤」は「日勤」と同等に労働時間とみなされます。さらに、夜の勤務は割増賃金(時間外、深夜、休日等)を支払わなければなりません。しかし、宿直(当直)業務と登録された業務は割増料金を払わないでいいことになっています(事前登録が必要)。

 宿直(当直)業務と認められるのは、巡回や電話待機などの軽微な仕事で、十分に睡眠時間が取れるようなものを指します。夜勤とは仕事の性質が違います

 当直業務を登録するための条件は3つあります。

①通常の勤務とは完全に切り離されていること
②睡眠設備を設置していること
③宿直(当直)業務は原則として週1回を限度とすること


 宿直(当直)業務を逸脱するような仕事をした場合は夜勤とみなされ、割増料金のある賃金を支払わなければなりません。もちろん、宿直(当直)業務もタダ働きではなく、賃金は通常賃金の3分の1程度を支払うことが義務づけられています。タダ働きではありませんが、割増賃金よりは目減りします。

 看護師が不足していますから、宿直(当直)業務と同時に通常業務もしてもらい、夜勤扱いで賃金を支払う病院も多いかと思います。人手不足の職場にはまずは賃金と待遇を改善することです。目先のお金をケチっていては大事な看護師に逃げられます。これは重要なポイントです。

自衛隊で働く人々は労働基準法の適用除外

 さて、同じように自衛隊員も24時間体制で命を守る仕事です。が、自衛隊員は特別職国家公務員です。労働基準法適用除外の職種ですから、労働基準法の保護を受けることができません。この宿直(当直)業務が今もタダ働きの部署はたくさんあります。

 ただし、「自衛隊の病院に勤務する助産師,看護師若しくは准看護師」などには夜間看護等手当が支給される場合があります。また、陸上自衛隊には弾薬庫などの重要施設の警備勤務があります。こちらにも1回につき800円程度の手当がつきます。

 しかし、ほとんどの自衛隊員の当直はタダ働きです。タダ働きはヒドいでしょ。

 同じ公安職であり、当直手当のある警察官が言っていました。「警察官になりたての頃は、カネなど関係ないと考えていましたが、結婚し子供もでき、小遣いを制限されるようになると、手当があるから頑張れると実感するようになりました。やはり報酬は大事です。報酬は働く社会人への評価ですよ。似たような立ち位置の自衛隊員の当直に手当がないのはとても気の毒です」と……。

自衛隊における「当直明け」がない職場

 陸上自衛隊ではかなり改善され、当直後は帰って眠れる職域も多くなってきました。

 しかし、「当直明け」でも通常勤務が続く職域があります。海上自衛隊の艦艇勤務の当直は次の日も通常勤務ですし、航空自衛隊でもレーダーや防空サイトの当直はキツいようです。当直でもうまくやると4時間くらい眠る時間が取れる場合があります。「少しは眠れるんだから休む必要はないでしょ?」という発想です。当直が明けず、そのまま仕事となると地獄です。睡眠不足でふらふらになりながら働かなくてはなりません。

 自衛隊員は体が資本の仕事です。自衛隊員の健康を損なうような勤務体系は改めるべきです。働き方改革という言葉は「自衛隊員以外の労働者」に向けたものですか? 「自衛隊員」だけ除外されるのはおかしなことです。自衛隊員も日本国国民なのですから、せめて平時は健康を損なわない勤務に改善してもらえないものでしょうか?

「徹夜明けは休み」「当直には当直明けがある」って普通のことでしょ? こんな当たり前のことですら、問題視されていないことが不思議です。「あーあー、聞こえない」なんて言っちゃダメです

 自衛隊の当直も、場所によっては軽微な巡回などですむこともあります。しかし、一晩中、機器類を見つめてチェックし続ける仕事もあります。重要度の高い職場では担当する自衛隊員も決まっています。その駐屯地、基地、部隊の規模や重要度、特殊性によって、当直業務はさまざまです。十分睡眠が取れるものもあればそうでないものもあります。

 一部にしっかり睡眠も取れる職域があるからといって、ほとんど徹夜の当直も一緒くたにして休みなしにしてしまうから、どんどん重要なセクションの人材が辞めてしまうのですよ。陸上自衛隊の当直明けは休ませるという試みを広げてほしいものです。

◆過酷な潜水艦乗組員の当直は乗組員以外にさせては?

 とりわけ、人数が少なく潜水艦では頻繁に当直が回ってきます。潜水艦乗組員の場合は数時間おきに巡回があり、さまざまな仕事をしなければなりません。人員数が少ないため、ほとんど眠ることはできません。

 潜水艦乗組員のタマゴである実習員には上陸中には、3日に1度当直があります。正規の潜水艦乗組員は5日に1度です。労働基準法では当直は7日に1度とありますが、労働基準法の適応外の仕事では「完全に法律を無視」できるわけです。3日に一度30時間を超える仕事をするわけです。

 そこまで睡眠不足に耐え続けることが潜水艦乗組員となる関門なのです。まさに命がけです。上陸中の過酷な当直業務がなくなれば、潜水艦乗組員の離職数も減るのではと思います。

 それが不可能であれば、せめて当直業務にはしっかりと手当を出し、当直明けを休みにするだけでも違います。健康を損なわない働き方と報酬を自衛隊にこそ実行してみてはどうでしょうか? そういう待遇改善が離職者数を減らし、応募者を増やすと思いますよ。

 人数が確保できれば1人当たりの負担も減り、仕事の質も担保できます。自衛隊員の待遇改善は、私たちの安全保障に繋がっているのです。

小笠原理恵】
国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年ブログキラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―


陸上自衛隊Facebookより