東日本大震災時の福島第一原発事故を描く映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)が国内興行ランキングで2週連続1位となり、その後もランキング上位をキープするなど話題を呼んでいる。Yahoo!映画レビューでは、3月28日時点で平均4.25点、Mitaiユーザーレビューでも平均4.2点と高評価を得つつも、SNSなどでは賛否両方の声も上がっている。本作を手掛けた若松節朗監督は、その評価をどう受け止めているのか。今回、若松監督と、福島第一原発で作業員として働いた体験談を綴った漫画「いちえふ福島第一原子力発電所案内記~」の作者、竜田一人を招き、福島第一原発事故をエンタテインメントとして描くことの意義について、前後編でたっぷりと語ってもらった。今回はその前編をお届けする。

【写真を見る】『Fukushima 50』監督の若松節朗と「いちえふ」の漫画家、竜田一人が白熱対談!

『Fukushima 50』は、福島第一原子力発電所(通称:イチエフ)で起きた未曾有の事故で、死を覚悟して現場に残った作業員たちの真実に迫る意欲作となっている。主演の佐藤浩市をはじめ、渡辺謙吉岡秀隆、緒形直人、火野正平、平田満、萩原聖人佐野史郎、安田成美といった演技派俳優たちも、それぞれの思いを胸に本作に参戦した。

第34回MANGA OPENの大賞を受賞した「いちえふ福島第一原子力発電所案内記~」は、東日本大震災を機に会社を辞めた竜田が、イチエフで作業員として従事した経験を描いた、迫真のルポルタージュ漫画となっている。

■ 「建屋の再現度がすごいなと思いました」(竜田)

――まずは竜田さんから、映画を観た感想から聞かせてください。

竜田「すごい力作だと思いました。試写室で観たのですが、音響効果もすばらしく、迫力のある作品だと思いました」

――若松監督も、竜田さんの「いちえふ」を読まれていたそうですね。

若松「映画を撮影するにあたり、文字資料ばかりではなかなかイメージができなかったのですが、竜田さんの漫画はすごくわかりやすかったです。原発事故後の話ですが、防護服の着方や建物の見取り図なども入っていましたし、小説を読んでいるみたいに情報量がすごく多いのでので、参考にさせてもらいました」

竜田「わかりやすいように描くことを心がけていました。ササッと読めないのが弱点だけど、読み込んでくれたらおもしろいと思います。装備を脱着する手順なども詳しく描いています」

若松「原発に入る際は、着衣を全部着替えなければいけないんです。靴下もなぜ2枚も履かなきゃいけないの?と思ったりもしました」

――「いちえふ」で、作業員の方が手袋を脱いだ時、汗が流れる音がするという描写がありましたが、やはり相当暑いのですか?

竜田「暑いです。あれは本当です」

若松「我々の撮影は冬場だったから良かったけど、耐火服を着ると本当に汗が出るんです。いっぱい着込むから夏は地獄ですね。また、事故当時は空焚きしている状態の建屋に行かなければいけなかったので、相当厳しい室温たったと思います」

――イチエフで働いていた竜田さんから観て、『Fukushima 50』のセットはいかがでしたか?

竜田「建屋の再現度がすごいなと思いました。私が入ったことがあるのは2号機と3号機の原子炉建屋で、見学で中央制御室も行ったことがありますが、あまりのリアルさに驚きました」

若松「ありがとうございます。僕たちは、イチエフは外観しか見てませんが、浜岡原子力発電所にはおじゃましました。普通は行ったことがない場所なので、圧倒されましたね」

■ 「キャスティングはすごく難航しました」(若松監督)

――原発で働いている方たちは、ほとんどが地元の方々だとお聞きしましたが。

竜田「そうですね、事故当時から原発の作業員はほとんど地元のおっちゃんたちです」

若松「漫画のなかで使われている方言がいいですね。映画では火野正平さんや平田満さんが福島弁を使っていますが、ほかの役者から『俺にも使われてくれ』と言われました。でも、皆が方言を使いだしちゃうと、狙いと違うテイストの映画になってしまうので、全体的なバランスには気を遣いました。だから若者は標準語で、老人やベテランの作業員だけが福島弁で話すことにしたんです」

竜田「確かに、福島でも子どもたちはそんなに訛っているわけじゃないです。火野さん、とても良かったです!」

若松「頭に水をかけるシーンで水がざーっと流れるじゃないですか。髪がある人だとああはいかないですね(笑)。火野さんの頭から熱さを感じてほしいと思いました」

竜田「泉谷しげるさんが、(佐藤演じる伊崎に)『頑張ってくれたじゃないか』と声をかけてくれるシーンにはぐっと来ました。私は事故のあとにしか原発で働いてないですが、ああ言ってねぎらってもらえるとジーンときますね」

――佐藤浩市さんや渡辺謙さんは言うまでもなく、ほかのキャストも要所要所で見せ場がありましたね。

若松「キャスティングはすごく難航しました。例えば安田成美さんの浅野役もなかなか決まらなかったのですが、安田さんは以前に1回仕事をしたことがあったので、『やっていただけないですか?』とお願いしたら、『私たちの仕事は伝えることです』と言ってくださいました。原発で働いているのはほぼ男たちだったから、彼女の存在はすごく大きかったです」。

――原作にない、浅野さんがトイレを掃除するシーンは監督がこだわって入れたそうですね。

若松「はい、僕が安田さんのモデルになった方に直接話を聞いた時、『一番大変だったのはトイレでした』と言われまして。水が出ないので、どうしようもなかったそうです。水がないから簡易トイレしかないし、彼女はそれを片付ける役割をしていたんです」

――災害用トイレについては、「いちえふ」でも描かれていましたね。

竜田「私が行ったころは、免震棟は水が出るようになっていましたが、それ以外の場所では災害用トイレを使っていました。ビニール袋をセットして、使ったあとは粉を入れてから袋をしばって捨てるんです」

若松「日々家事をされている方には、きっとリアリティを感じてもらえると思います。それにあのシーンがなければ、佐藤さんと渡辺さんのトイレでの会話シーンはできなかったので。浅野さんが掃除したあとでなければ、あんなに臭いところでは話せませんからね(笑)」

■ 「私もエンタテインメントで描く意味は大いにあると思っています」(若松監督)

――東日本大震災から10年目に入りましたが、どうしても年々風化し、報道も減っていきます。そのなかで映画や漫画の形で表現する意義について、お二人はどう思われていますか?

竜田「多くの人に届けるために、とても意義があると思っています。ただ、エンタテインメントとして出すからにはおもしろくしたいと思っています。でなければ読んでもらえないですから」

若松「私もエンタテインメントで描く意味は大いにあると思っています。必死であの事故を止めようとしてくれた人々がいたということを通して、原発にもう一度興味を持ってほしかったんです。原発事故の記憶に向き合うということです。映画を通じて語り合えると思いました」

竜田「僕は抑制が効いている点がすばらしいと思いました。是非論になってしまいがちな題材だけに、世間に対してはっきりと『俺はこうだ』と言ってしまうと、半分の方は引いてしまいますから。そこは僕も漫画を描く時に、気をつけた点です。賛成と反対を声高に言ってしまうと、意見が違う方は読んでくれなくなりますし、石を投げられてしまうこともありますから」

若松「公開してからたくさんのお客さんから賛否をいただいております。それぞれの想いで観てくれることが嬉しいです。僕たちが表現したかったのは、是非論ではなかったですから」

竜田「いいと思います。僕は、意見を主張するための道具としてエンタメを使っちゃいけないと思うんです」

若松「映画を通して、“Fukushima 50”の人々や原発について知ってもらうことが一番大事ですね。そこに関しては、僕らの映画も竜田さんの漫画も同じだと感じます。廃炉作業はこれからもずっと続くわけですから、映画を観てから竜田さんの漫画を読んでもらうと、より原発を理解できるのではないかと思います」

<後編に続く>(Movie Walker・取材・文/山崎 伸子)

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