米国が思いもよらない危機的状況を迎えている。

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 3月27日ロイターは「米国の新型コロナウイルス感染者が26日、累計で8万2000人を超え、中国とイタリアを上回って世界最多となった」と報じた。米国内の死者は少なくとも1206人になったという。

 この1週間で、米国で感染拡大の中心地となっていたのはニューヨーク州である。時事通信の現地からの報道によると、ニューヨーク州の感染者3月26日に前日から5146人増え3万811人となり、依然急増を続けている。感染者の4割近くがニューヨーク州に集中している計算になる。

 米国で最初の感染者が見つかったのは1月21日だった。3月頭までは感染者の増え方はゆるやかだったが、3月10日に1000人を超えた頃から急激に増加ペースが上昇する。恐ろしいのは、2週間前は日本と感染者数がほとんど変わらなかったことだ。日本は3月25日(18時まで)時点で、国内の感染者数は1292人(その後、27日12時では1387人)(出所:厚生労働省)。米国でも3月10日時点では日本と同程度の1215人だった(出所:米国疾病予防管理センター、CDC)。だがそれから2週間で、なんと70倍近くに急増してしまったのである。

専門家会議の危機感

 日本は今のところ諸外国に比べると死者数が少なく、感染者の増加ペースも緩やかだ。そうした状況から、国民の新型コロナ対策には警戒の緩みもみられるようだ。「自粛疲れ」から繁華街を出歩き、満開の桜に誘われて花見に出かける人も少なくない。

(参考)
東京の感染増、想定の2倍 『自粛疲れ』緩みの懸念も」(日本経済新聞
小池都知事、自粛の緩み警戒 『爆発的患者急増の分かれ道』」(東京新聞

 しかし、日本の最前線で新型コロナと戦う政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(座長:脇田隆字 国立感染症研究所所長)は強い危機感を抱いている。同専門家会議の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(2020年3月19日)」(以下「専門家会議」)からは、日本がいかに危機的状況に置かれているかが伝わってくる。  

 そこにはこう記されている。

「(国内の感染状況は)引き続き、持ちこたえていますが、一部の地域で感染拡大がみられます。諸外国の例をみていても、今後、地域において、感染源(リンク)が分からない患者数が継続的に増加し、こうした地域が全国に拡大すれば、どこかの地域を発端として、爆発的な感染拡大を伴う大規模流行につながりかねないと考えています」

「既に地域によっては軽症者や回復後の観察期間にある患者等によって指定感染症病床が圧迫されてきていること、死亡者数が増加傾向にある状況も鑑みると、専門家会議としては、欧州で起きているような爆発的な感染拡大の可能性や、それに伴う地域の医療提供体制が受けるであろう影響の深刻さについても、十分考慮しておかなければならないと考えています」

 この危機感がなかなか国民に伝わっていないようである。「日本の感染者はまだたった1000人、死者は数十人じゃないか」と油断していると、米国のように感染者数が一気に爆発的に増加して、イタリアのような「医療崩壊」状態を招きかねない。

気付いたときには制御できなくなる

 なによりも深刻なのは、感染ルートを追えない感染者が増えていることだ。専門家会議によると、いま日本では、感染源を追えないクラスター(患者集団)が散発的に発生しているという。きわめて不気味な兆候と言えるだろう。

 感染源がわからないクラスターが全国に増えていくと何が起きるのか。

「どこかで感染に気付かない人たちによるクラスター(患者集団)が断続的に発生し、その大規模化や連鎖が生じ、オーバーシュート(爆発的患者急増)が始まっていたとしても、事前にはその兆候を察知できず、気付いたときには制御できなくなってしまうというのが、この感染症対策の難しさです。もしオーバーシュートが起きると、欧州でも見られるように、その地域では医療提供体制が崩壊状態に陥り、この感染症のみならず、通常であれば救済できる生命を救済できなくなるという事態に至りかねません」(「専門家会議」)

 また、海外で感染した帰国者がウイルスを国内に持ち込むケースも増えており、大きな懸念材料である。専門家会議は、3月19日以降、海外において感染し、国内に移入したと疑われる感染者が連日10人以上確認されており、また、これらの者が国内で確認された感染者のうちに占める割合も増加している」と報告する。当初は中国から持ち込まれるケースがほとんどだったが、現在は欧州からの帰国者を中心に多様化しているという。

東京都医師会長の切実な「お願い」

 東京都では3月25日に41人、26日に47人、27日に40人の新たな新型コロナウイルス感染者が確認された(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト」)。24日以前は1日の感染者数は20人以下だったが、25日から一気に局面が変わった。小池百合子都知事は「感染爆発の重大局面」であるとして、週末や平日夜間の外出自粛、在宅勤務を都民に要請した。神奈川、千葉、埼玉、山梨の各県も3月26日から、不要不急の外出を自粛するよう住民に求めている。

 なぜ不要不急の外出を自粛するべきなのか。自らが感染しないため、他人に感染させないため、でもあるが、最も防がなければならないのは爆発的な患者急増だ。

「気付かないうちに感染が市中に拡がり、あるときに突然爆発的に患者が急増(オーバーシュート(爆発的患者急増))すると、医療提供体制に過剰な負荷がかかり、それまで行われていた適切な医療が提供できなくなる」
「こうした事態が発生すると、既にいくつもの先進国・地域で見られているように、一定期間の不要不急の外出自粛や移動の制限(いわゆるロックダウンに類する措置)に追い込まれることになります」(「専門家会議」)

 東京都医師会長の尾崎治夫氏がフェイスブックで「東京都医師会長から都民の方にお願い」としてこう訴えている。

「皆さんへのお願いです。いろいろな自粛活動で、経済がダメになるじゃないか。もう、家にいるのも飽きてしまった・・・。よくわかります。でも今の状態を放っておいて、例えばイタリアの様になったら、経済はもっともっとひどくになるのではないでしょうか。皆さんの生活ももっと大変な状態になるのでは・・・。
 感染者のかずが急増し始めた、今が踏ん張りどころなのです。何故感染者が増えているのか、特に大学生から40歳代の人、コロナに感染しても無症状か、軽い風邪だと思っている人が、アクティブに行動することが、その大きな原因と言われています。若くて元気な方、もう飽きちゃった。どこでも行っちゃうぞ・・・。もう少し我慢して下さい。これから少なくとも3週間、生きていることだけでも幸せと思い、欧米みたいになったら大変だと思い、密集、密閉、密接のところには絶対行かない様、約束して下さい。お願いします。
 私たちも、患者さんを救うために頑張ります。」(2020年3月25日、一部抜粋)

戦いは長期化へ

 新型コロナウイルス感染症はいつ、どのように終息するのだろうか。

 現時点では特別な治療薬はまだ存在しない。日本感染症学会は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)―水際対策から感染蔓延期に向けて―2020年2月21日現在」でこう報告していた。

「特異的な治療薬はありません。新型コロナウイルスによる感染症に対する特別な治療法はありません。脱水に対する補液、解熱剤の使用などの対症療法が中心となります。一部、抗 HIV 薬(ロピナビル・リトナビル)や抗インフルエンザ薬(ファビピラビル)などが有効ではないかという意見もありますが、まだ医学的には証明されていません」
ステロイド等の使用に関する知見も不十分です。本邦において新型コロナウイルスの分離・培養が成功したことから、新型コロナウイルス感染症に対する特異的な治療薬の開発が期待されるところで、上記の薬剤を含む臨床試験が準備中です」

 では、季節が変わり暖かくなれば終息するのか。残念ながらその保証もない。米国疾病予防管理センター(CDC)のサイトには、「気候が暖かくなったらCOVID-19の拡大は止まりますか?」という質問に対する、以下のような回答が掲載されている。

「天候や気温がCOVID-19の感染拡大に影響を与えるかどうかはまだわかっていません。現時点では、気候が暖かくなるとCOVID-19の感染が減少するかどうかはわかりません。COVID-19の感染性、重症度、その他の特徴については、まだ多くのことがわかっておらず、現在も調査が続けられています」

 国立国際医療研究センターの感染症専門医、忽那賢志(くつな・さとし)氏はこう語っている。「わたしたちは、あくまで、発症者のピークを後ろにずらし、医療のキャパシティを超えないように、カーブをなだらかにしていく必要があります」(文春オンライン「都内で感染者急増 新型コロナ患者を診る医師が、いま一番恐れていること」)。忽那氏によると、ピークは夏過ぎになる可能性もあるという。

 結局のところ、私たち一人ひとりが感染の防止に努め、医療崩壊を起こさないレベルににピークをできるだけ低く抑え、なだらかに終息させていくしかないようだ。ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所所長、山中伸弥氏は、自らの新型コロナHP新型コロナウイルスとの闘いは短距離走ではありません。1年は続く可能性のある長いマラソンです」「ウイルスとの闘いは、有効なワクチンや治療薬が開発されるまで手を抜くことなく続ける必要があります」と記している。

 また、日本生態学会・進化生物学会の会長を歴任し、ウイルス進化に関する論文を発表している矢原徹一氏(九州大学理学研究院教授)は、JBpressのインタビューに応えて新型コロナウイルスの流行はおそらく来年まで続きますが、欧米のような爆発的感染拡大を起こさないことが重要です。東京では今すぐ強力な行動抑制策をとる必要があります。そうすれば、約2週間は感染確認者が増え続けますが、そのあと減少すると予想されます」と述べている。

 専門家会議によると、これまでに明らかになったデータから、集団感染が確認された場に共通するのは以下の3つの条件が同時に重なった場であることが分かっている。

(1)換気の悪い密閉空間だった
(2)多くの人が密集していた
(3)近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われた

 そうした3つの条件が同時に重なる場をできるだけ避ける、そして、人と人との接触をできる限り絶つ、ことが必要だという。

 先が見えない戦いは苦しい。だが、取り返しのつかない悲劇を日本にもたらさないためにも、私たち一人ひとりが意識と行動を変える努力を続ける必要があるだろう。

中小企業向けの支援策

 新型コロナウイルスとの戦いは、言うまでもなく経済活動に多大な犠牲を強いることになる。すでに観光業、飲食業、小売業を中心に日本経済は甚大な被害を受けており、事業活動の継続が困難な企業も現れている。

 経済産業省では新型コロナウイルスの影響を受けた企業に向けたさまざまな支援策を紹介している。以下に、主に中小企業が利用できる制度のリンク先を掲載したので、参照していただきたい。

【事業者向け支援策パンフレット】
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf

 新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者が活用できる支援策が、パンフレットの形で網羅的にまとめられている。日本政策金融公庫の貸付制度、信用保証協会の保証制度、雇用調整助成金の特例、新型コロナウイルス感染症特別貸付危機対応融資、セーフティネット保証などの概要と問い合わせ先を紹介している。

中小企業・小規模事業者の相談窓口】
https://www.meti.go.jp/covid-19/sodan_madoguchi.html

 保証協会の保証付き融資、政府系金融機関の融資、雇用調整助成金などの内容の紹介とともに、各地の日本政策金融公庫、商工中金、信用保証協会、商工会議所、経済産業局産業部中小企業課、よろず支援拠点、などの電話番号の一覧を掲載している。

中小企業向け補助金、支援制度】
https://seido-navi.mirasapo-plus.go.jp/supports

 経済産業省中小企業庁の中小企業向け補助金・支援サイト「ミラサポplus」内に掲載された補助金、支援制度。上記URLの検索ページで「新型コロナウイルス」というキーワードで検索すると、さまざまな支援制度サイトへのリンクが一覧になってリストアップされる。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  ドイツで「コロナ」とからかわれた日本人の“反撃”

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