英語で、ストーン・テープ・セオリー(Stone Tape theory)という言葉がある。これは、幽霊を説明する時に使われる言葉で、誰もいないはずの場所で人影や物音、声が聞こえてくる、あるいはその音や映像が再生される現象のことだ。
ストーン・テープという言葉をウィキペディアで調べると、日本語版では「地縛霊」と出てくる。ここでは、ストーン・テープ・セオリーに関するこれまでの調査と地縛霊との関連性について見ていこう。
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ストーン・テープ・セオリーは場所の記憶?
地学者のシャロン・ヒルは、2018年、ストーン・テープ・セオリーの歴史を追うのは難しいと気づいた。研究者や理論家たちは、200年近くも、この理論の中核になる考えについて論文を書いてきたが、ストーン・テープという名がついたのは、たかだか50年ほど前だ。
ほとんどの研究者は、数学者チャールズ・バベッジの1838年の著書『The Ninth Bridgewater Treatise』の中でいち早く言及した「場所の記憶」という理論を指摘する。場所の記憶とは、その場所で過去に起こった出来事の影響がそのままそこに残る力のことだ。
「わたしたちが住んでいるこの地球上における、わたしたちの言葉や行動が永久的に刻みつけられる印」とバベッジは書いている。
「空気そのものが、巨大な図書館だ。それぞれのページには、男がかつて話したこと、女がささやいたことすべてが書き込まれている。死ぬべき運命にある人間のため息、救われない誓い、成就することない約束それぞれの分子のまとまった動きが永遠に滞留し、移ろいやすい人間の意思の証拠となる」バベッジは、これを隠喩的な意味で言っているのではなかった。
地縛霊の正体は建物か?
1882年に心霊現象研究協会が発足したとき、「場所の記憶」の概念は、協会の初期の活動や理論の多くの重要な要素となった。
1885年には、物理学者で協会会長のエレノア・シジウィックが協会誌の記事で、幽霊とはいったいなにかを説明し、それが家や建造物に現れた場合は、人間の脳に影響を与え、幻覚を引き起こすようななにかが、建物そのものにあるのではないかと仮定した。
同協会会員の研究者フレデリック・W・H・メイヤーは、1903年に出版した『Human Personality and Its Survival of Bodily Death』の中で、シジウィックの一節を長々と引用している。
シジウィック自身は、信頼できそうなこととは思えないとして、この説にあまり納得していないことは注目に値する。
「証拠の特定の部分に一番合致すると思ったから、この説を紹介しただけだ」というが、バベッジがこれまで書いたものに基づいた部分もあり、謎解きのべつのピースのひとつとなっている。
霊は人間のイメージ?
シジウィックと同時代のエドマンド・ガーニーは、「場所の記憶」の概念をさらに詳しく述べ、1888年の協会誌に、ある種の幽霊は従来のような感覚で"出る"のではなく、むしろ人間の有機体としての肉体によって刻印されたイメージが生き残っていて、ある種の敏感な人だけが時々知覚できるものだと考えた。
ガーニーも、こうした刻印プロセスがどのようにして起こるのかは、はっきりわからなかった。「それがどのようにして起こるのか、正体はなんなのかは、はっきりわからないが、こう思わざるをえない。記憶が場所や物体に記録されるプロセスがあるのかもしれないと」
敏感な人間の前に招待を表す記憶の痕跡
たくさんの研究者や理論家が、長年の間に「場所の記憶」や地縛霊という考え方を発展させたが、そんなひとりに心霊現象研究協会出身者のH・H・プライスがいる。
1939年のプライスの著書『Haunting and the Psychic Ether Hypothesis』には、記憶の痕跡はある物体に宿るだけでなく、超常現象や超自然の力に対する感性や適性をもつ人間の前に正体を現すものだと言っている。
プライスが書いている記憶の痕跡とは、その場所に以前住んでいた人の感情や体験で、つまり日常生活の中で無意識の中で残される指紋のようなものだ。
超常現象に敏感な人が、そうした痕跡の記憶を体験すると、ガーニーが仮定した刻印プロセスによって作られた記録が再生されるという。
ストーン・テープ・セオリーという言葉はどこからきたのか?
それでは、ストーン・テープ・セオリーという言葉はどこからきたのか?
それはT・C・レスブリッジの1961年の著作『Ghost and Ghoul』からだという。
レスブリッジは、プライスの本にいたく影響され、物体はある種のエネルギー場の助けをかりて、そばで起きた出来事を"たくわえる"ことができる信じていた。
しかし、レスブリッジは、石の記録テープのことなどどこにも書いていない。ストーン・テープ・セオリーとの関連は、1972年のクリスマスにBBCで放映されたテレビドラマ『The Stone Tape』のようだ。
これは、「クエーターマスの実験」というBBCのの怪奇ドラマを手掛けたナイジェル・ニールが脚本を書いた。
改装予定のヴィクトリア朝の邸宅内のすべて石で作られた部屋がとりあげられ、80年以上前にここの壁の中に若い女性が塗りこめられて死んだという、おぞましい"記憶"があり、幽霊が出ることがわかった。
石の部屋は、ある種の録音テープのようなものだ。このテープは、この若い女性の死を記録している。敏感な人にとっては、この部屋はこの女性の最後の瞬間の記憶を何度も再生するプレイヤーなのだ。
地縛霊とストーン・テープ・セオリーの違い
地縛霊とストーン・テープ・セオリーという言葉が、いっしょくたに使われているのをよく聞く。どちらでも同じような意味に思えるが、両者の概念の違いがひとつある。
地縛霊は実際の超常現象のことで、ストーン・テープ・セオリーはこの現象が生まれる手順と、敏感な観察者がそれを体験するメカニズムの両方を表わしている。
それを信じる人たちによれば、いずれにしても、幽霊の出現はそれぞれ千差万別だ。人間やほかの生き物と意識的に交信できる知的な幽霊は、『クリスマス・キャロル』のマーレーの幽霊を考えてみるといい。
ポルターガイストの幽霊は、エンフィールドのポルターガイスト(1977年8月からイギリス、ミドルセックス州のエンフィールドで起きたポルターガイスト現象)のケースのように、たいてい物や人と実際に関わってくる霊だ。
悪魔的な幽霊の目的は、“人間の自由意思を崩壊させて、悪魔が憑りつきやすくさせること”。例をあげると、ロビー・マンハイム(仮名)が悪魔に憑りつかれた事件のケース。この事件をベースに、ウィリアム・ピーター・ブラッティは、1971年に小説『エクソシスト』を書きあげ、のちにこれをベースにした映画ができた。
そして、地縛霊がある。幽霊の出現は霊と人間の間の相互作用なだけでなく、関係の欠如という特徴もある。
地縛霊は、誰かが亡くなる前にその場所、あるいはその近くで起こった過去のトラウマの残余だと言われる。残されたものは音、においもあり、それはずっと変わらない。
階段を昇る女性の幽霊がいるとすると、それはいつもはっきりわかるものなのだ。一日の決まった時間だけ現われるかもしれないし、一年のある日だけ、あるいは特別な気候や天体の条件が合ったときだけのことなのかもしれない。
しかし、幽霊の出現のきっかけがなんであれ、それを誰かが見ているかどうかはわからない。そもそも、目撃されるかどうかもわからないのだ。
知性をもつ幽霊と違って、地縛霊は感覚が鋭いわけではないからだ。これは過去のこだまなのだ。地縛霊を見るということは、映画を観るようなもの。幽霊が表わしている出来事は、すでに起こったことなのだ。
ここで、ストーン・テープ・セオリーという概念が出てくる。この説は、地縛霊がすでに録画・録音された映画や音楽と同じようなもので、それが生まれ、アクセスされることによって意味をもつという考えを支持するものだ。
ストーン・テープ・セオリーのプロセスは、磁気テープで音を録音するのとよく似ている。
このテープ録音技術は1878年にさかのぼり、電気音信号を磁気エネルギーに変換し、磁気粒子に覆われたテープに信号を刻印する機能で、映像やビデオも同じ原理だ。再生は、テープに刻印された信号を電気エネルギーに変換し戻して増幅する。
ストーン・テープ・セオリーとは、ショックや悲劇など心に深い痛手を負うほどの激しい情動を引き起こす出来事が、そばにある物体に記録されることで、記録媒体はたいていは石や石英や石灰岩だ。トラウマ的な出来事は電気音信号、それが記録される石は磁気テープといっていい。
これが再生されるのは、特定の環境条件がそろったときだ。よくあるのは、環境がその出来事が“記録”されたときの状況とぴたりと一致したとき。
あるいは、霊感の強い誰かがこうした記録媒体である“物体”に接触したとき。つまり、再生プレイヤーは、環境か特定の人間である可能性がある。
世界のもっとも有名な幽霊たちは、たいてい地縛霊だ。アン・ブーリンの幽霊は、毎年、自分が殺された日に、自分の首を抱いて、御者も馬も首のない幽霊馬車に乗って、ブリックリング・ホールに現われるという。
ニューヨークのトライアングル・シャツウェスト工場で目撃される霊も、1911年に起きた火災の犠牲者たちだ。ルーズベルトホテルの多くの幽霊もそうだろう。統計的な証拠はないが、幽霊のほとんどは地縛霊といっていいかもしれない。
ストーン・テープ・セオリーという考えは、証明されたものではなく、もちろん推測にすぎない。だが、こういう言葉を知らなくても、幽霊を信じる人なら、事実だと思うだろう。
懐疑主義者たちの見解
懐疑主義者たちは、ストーン・テープ・セオリーがどのような仕組みで起こるのか、疑問に思っている。
地縛霊のデータを石に記録することができる手段も手順も装置もないことは明白な事実だ。まして、家のビデオやプレイヤーのように、石が記録したものを何度も再生するなどということは・・・・・
さらに、記録されるデータそのものの問題がある。磁気テープに刻印できるものは、客観性のあるデータだが、地縛霊のデータは主観的なものだ。感情に頼るものだが、感情というものは、実際にとらえ測定することのできる形のものは生み出さない。
絵や文字や記号や数字を刻むことのできる石を記憶媒体として使うといっても、ストーン・テープ・セオリーのような再生法では使えない。
自然界は、そのような方法では機能しない。セオドア・シックとルイス・ヴォーンは、著書『How To Think About Weird Things: Critical Thinking For The New Age』の中で、「石の塊は磁気テープと同じ特性はもたない」と言っている。さらに言えば、感情は音とも、電子音信号とも、磁気エネルギーとも同じ特性はもたない。
シャロン・ヒルは、ストーン・テープ・セオリーは実際には仮説ではない、少なくとも科学ではなく、せいぜい偽科学どまりだろうと言う。
メルボルン大学の生物学教授のジェイム・ターナーは、2017年に「科学者がセオリーという言葉を使うのは、世間一般につかわれるセオリーとは少し意味合いが違う。ほとんどの人はセオリーという言葉を誰かがもっている考えといった意味で使うが、科学界では事実を解釈する方法としてセオリーという言葉を使う。セオリーが存在するためには事実が必要だが、ストーン・テープ・セオリーに関する実際の事実はない。例えば、次のような質問の答えはわからないとヒルは言う。
「どうやって物事が記録されるのか?」
「なにが記録されて、なにがされないのか?」
「どうやって保存されるのか?」
「どうやって、再生できるのか?」
ストーン・テープ・セオリーに関する事実はなにもないため、わたしたちはそれを理解しひとつの枠組みの中に取り込むことができない。
つまり、科学的セオリーの形として確立させるために実際に必要な処置を行うことができないのだ。わたしたちができることは、推測することだけだが、推測では学説を立てることはできない。
では何を信じればよいのか?
信じる人と懐疑的な人との間で、ストーン・テープ・セオリーについてはさまざまな綱引きがあるが、結局のところ結論は出ていない。
信じる人たちの多くも、ストーン・テープが生まれたはっきりしたプロセスはわかっていないことを認めている。
懐疑的な人たちは、これは論理的に間違った信念だと考えている。石に霊現象が記録されたという事実もなく、信じるいわれはないとしている。
これまで幽霊の存在を信じなかった多くの人が、ほかの人と同じ場所で同じ幽霊を見るという事実がストーン・テープセオリーが現れた理由だというが、懐疑主義者は、ある特定の場所で幽霊を見たと証言する人たちがすべて、同じ幽霊を見ていることを実証する方法はないと指摘する。
こうしたやりとりが有益かどうかはわからない。信じる人は信じ、信じない人は信じないだけで、どちらも決定的に証明はできないだろう。堂々巡りを続けるだけだ。
だが、幽霊や地縛霊などを信じていなくとも、その場所にいわくつくの歴史があり、なんらかの情動があったとすれば、そこを見た人の心に何かの影響を与えることは確かだろう。
References:theghostinmymachine. / / written by konohazuku / edited by parumo
全文をカラパイアで読む:http://karapaia.com/archives/52289267.html
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— カラパイア (@karapaia) 2017年12月9日
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