欧州の感染者が日々1000人単位で増加するなか、ロシア連邦保健監視局(Rospotrebnadzor)の発表によれば3月25日時点のロシア国内感染者数は840人である。
こうした状況に対し、米国メディアを中心にロシアの感染者数は少なすぎる、ロシア政府は情報操作を行っているのではないかとの記事が目立つようになった。
ロシアはウイルス発生源とされる中国と4209キロと最長の国境を接しており、特に極東ロシアでは道路、鉄道によってつながる中国とは密接なビジネス関係がある。
モスクワを中心とするヨーロッパ・ロシアは感染者が急増中のEU諸国とビジネスはもちろん、観光での人の移動は頻繁である。
こうした批判に対し、ロシア政府は早期に適切な対策を講じたことが感染者数の抑制につながっていると反論しているのだが、過去に情報を操作した前例があるだけに西側のメディアが懐疑的になるのも仕方がない。
これまでのロシア政府の「Covid-19」拡大防止対応策を振り返ってみよう。
2月3日 モスクワ・シェレメチエボ空港以外の中国人の入国制限
2月20日 中国人 の全面入国禁止
3月5日 6月初に開催予定のサンクトペテルブルグ国際経済フォーラムをキャンセル(ウラジーミル・プーチン大統領も参加するダボス・フォーラムのロシア版)
3月6日 中国・韓国・イラン・フランス・ドイツ・イタリア・スペインからの入国者に対する隔離措置
3月11日 5000人以上のイベントの禁止、イタリア・ドイツ・フランス・スペイン行きのフライトをほぼ全面延期
3月16日 欧州向けフライトをシェレメチェボ空港に限定、政府による経済対策発表、ベラルーシとの国境を閉鎖、5月1日まで外交官とそれに準ずる者以外の外国人はロシアへの入国禁止
3月19日 ロシアに入国した全員は14日間の隔離遵守を命令、COVID-19の感染者から初の死亡者、すべてのスポーツジムとスイミングプールを閉鎖、国営・民間医療機関の医師資格を持つ人に専門分野を中央データベースに登録することを義務づけ、政府による経済支援対策検討会議
3月25日 プーチン大統領によるコロナウイルスに関する国民への呼びかけ、3月28日から4月5日までの1週間、生活を維持するために必要な企業以外の企業の閉鎖、コロナウイルスによる経済的な悪影響を緩和するために、税金、社会保障費などの各種法定支払いの延期、キャンセルを発表
(出典:ロシアメディア、Macro-Advisoryアナリストリポート)
ロシア政府のウイルス対策については、すべての感染の疑いがある患者をテストしていないという批判もある。
ロシア当局は検査の対象者を以下のように定めている。
●症状が発現する14日前にCOVID-19が拡散した国・地域から帰国した人
●過去14日間、COVID-19隔離対象者との密接な接触があった人
●過去14日間、COVID-19検査の結果、陽性確定した人と密接な接触があった人
●肺炎の症状がある人
この通りだとすれば、日本と比べても特に限定的ではなさそうである。
ロシアでは現在3つのテスト・キットが承認されている。
ノボシビルスク市にあるRoszdravnadzor付属国立化学センター “Vector” が開発した2つのPCR法テスト、ロシア保健省付属“戦略企画と生物医学的健康リスク管理センター”が開発したPCR法テストである。
しかし実際に用いられているのはVectorが開発したPCR法のテスト・キットだけである。
ではテスト・キットの数が足りないのだろうか?
3月16日に保健担当のゴリコバ副首相は 「国立化学センターVectorは毎日10万件のテスト・キットを製造しており、現在ロシアのどの地域でもCOVID-19のテストを受けられる」と発言している。
さらにロシア製のテスト・キットはイラク、アゼルバイジャン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルコメニア、モンゴル、北朝鮮にも提供されている。
ロシア保健監視当局も3月20日時点で15万6000件のテストを実施したと発表している。
しかし、ロシアで現在用いられているテスト・キットの精度については明らかに問題がありそうである。
COVID-19に関する情報を取りまとめている専門サイトPCR.Newsは、Vector社のPCR法テスト・キットを分析した。
そこで明らかになったのは、同社のテストのウイルス検知精度は、例えば世界中で使われているロシュ製の検査キットに比べると10~15分の1の精度であるという事実であった。
PCR.Newsの専門家によれば、Vector社のテスト・キットは緊急時対応としてウイルスのサンプルもなかった中で開発されたため、この精度でも十分であったのだろうと推測している。
しかし、問題はVectorのテストの結果は陰性でも、実際は体内にウイルスを持ち続けていることである。
こうした患者が周囲にウイルスを拡散する可能性は十分であり、実際にVectorのテスト・キットで検査された患者に同様のケースが起きているとPCR.Newsの専門家が語っている。
どうやらロシア国内で用いられているCOVID-19テスト・キットの信頼性は期待するほど高くない。こうした事情がロシアにおいてコロナウイルス感染者数が少ない理由の一つであるかもしれない。
こうしたなか、思いがけないニュースが飛び込んできた。
3月19日にロシア連邦直接投資基金(RDIF)公式サイトで発表されたプレースリリースによると、RDIFはCOVID-19を検出するテスト・キットの製造と促進を手がけるMedpromresurs社に投資を実施したという。
そして、Medpromresurs社の研究開発パートナーになっているのは日本のMirai Genomics(横浜市)であるという。
このMirai Genomicsであるが、日本の知人に聞いても誰も知らないと言われた。
同社のホームページ(https://miraigenomics.com)を見ると、K.K. Mirai Genomicsは理化学研究所からスピンオフした神奈川県所在のバイオテック会社であり、SmartAMPという定温・短時間での遺伝子検査を可能にする技術を開発した会社であることが分かった。
ロシアとの関係では、2019年9月にウラジオストクで行われた東方経済フォーラムでタタルスタン共和国との協力協定に調印している。
内容はK.K. Mirai Genomicsがタタルスタン共和国で同社の商品であるLife Pad伝染病テスト・キットを製造、25億ルーブル(約42.5億円)投資を実施すると報じられている。
今回、ロシアで開発・製造される新型コロナウイルス検査キットにはMirai Genomics社のSmartAmp技術が使用されており、PCR法と同精度のテストを最大30分と短時間で行うことが可能となる。
検査費用も1回あたり20ドル程度と伝えられている。
しかも検査には常設のラボを必要とせず、スーツケースほどの大きさにすべての必要な検査機器が収納できるため、学校、オフィス、空港、駅などの公共の現場での検査が可能になるとのことである。
この日露合作のテスト・キットにはロシアだけではなく、UAE、サウジアラビア、オーストリアなど、海外からも要請が相次いでおり、現時点で既に50万件のテスト・キットの注文受けているとRDIFは語っている。
ロシアの有力紙RBCによれば、ロシア連邦健康監視局(Roszdravnadzor)は日露共同で開発された新型コロナウイルスのテスト・キットのロシア国内の利用を承認したと報じている。
早ければ今年の4月には使用が開始されることが期待されている。
この検査キットが4月からロシア国内で本格的に導入され、その結果、ロシア国内の感染者数が急増することはあまり期待したくない。
しかしながら、日露の優秀な頭脳のコラボレーションによって少しでも効率良く、少しでも早くコロナウイルスが征服されることを期待したい。
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