タイムマシン経営とは、ソフトバンク孫正義氏が唱えていたキーワードYahoo!iPhonePayPayなど時時の世界最先端の事例をコピーして日本に持ってくれば、あたかもタイムマシンで未来から持ってきたサービスかのように成功・普及していく、という意味だ。この企画では、日本の最先端を行くベンチャー企業のキーマンに取材し“このベンチャーの成功法則はほかの業界でも使えないか”を検証していく。(企業取材集団IZUMO

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年間の売り上げ目標を3カ月で

「結果にコミットする」――ライザップのCMで有名になったフレーズだが、2018年に東証マザーズに上場したピアラ(東京都渋谷区)は、同じ仕組みで、マーケティング業界、とくにビューティ、ヘルス、食品の市場関係者から注目を集める。代表取締役社長の飛鳥貴雄氏が話す。

「10年間ほど、通信販売WEBマーケティングのコンサルティングをしていました。具体的に言えば、仮に顧客企業が青汁を売りたいなら『この媒体に、こんなクリエイティブ、こんな文言で訴求すると売れます』と提案していたのです。

 しかしある時から“これは属人的な知識に過ぎない”と考えるようになりました。そして通販の分野で、過去にどんな年齢層向けの、どんな価格帯の商品が、どんなクリエイティブで、どんな媒体で売れたのか、成功パターンを会社を挙げて蓄積していったんです」

 データをAIで分析すると、今までになかった「コンサルティングの自動化」が可能になった。一言で「ウェブ広告」と言っても様々なパターンがある。例えば、サイトやアプリ上の広告枠に表示される「ディスプレイ広告(バナー広告)」、検索エンジンユーザーが検索したワードに関連した広告を表示する「検索連動型広告」、FacebookInstagramTwitterLINEなどを使った「SNS広告」等だ。また、仮に検索連動型広告なら、ヤフーで行うのか、グーグルで行うのかによって費用も効果も異なる。

「今までは、企業のマーケティング担当者や販売の担当者の方が“もっとGoogle広告に予算を配分したほうが売れるかも”とか“このクリエイティブだと弱いのかも”とPDCAサイクルを回してきたと思います。しかし当社は、膨大な量のデータを活用することでいきなり最適解を提示できるのです。そして、もし広告を出稿した結果が予測値から大きく外れた場合はアラートが出て、戦略の変更を指示します。ここで、クリエイティブの問題なのか、検索エンジンアルゴリズムの変更なのかなどを再分析していくんです」

 この手法を確立することによって、飛鳥氏はさらに大きな一歩を踏み出すことができた。

「KPI保証ができるようになりました。いわゆる“結果にコミット”ですね(笑)。今まで広告と言えば“やってみてどうか”でしたが、当社は“こういうことをすればこれくらい売れる”という予想をかなり正確に立てられます。だから結果にコミットできるんです。

 現在、KPI保証(成果報酬型)で200社近くの企業にご利用いただいていて、毎年、取扱高が数十%伸びています。取引開始後の初期段階ではクリエイティブのディレクションに労力がかかるため、一気に取引先を増やすことは難しい。そこで、契約する企業の数は少しずつ増やしている状況です」

ピアラがレポートを作成しない理由

 ではピアラが、ビューティ、ヘルス、食品の領域に強いのはなぜなのか。

「実を言うと、当初はアパレル、不動産、保険など、通販を行うすべての業種を自動化したいと考えていました。しかし仮にアパレルなら『今年は赤が流行る』といった不確定要素が多く、成功パターンを自動化しにくかったのです。

 しかし我々が得意とするビューティ、ヘルス、食品の領域ではこれができました。消費者の悩み別に分類していくと、正確なデータが出せたんです。シミ、しわ、中性脂肪が高い、腰が痛い・・・こういった人間の悩みは普遍的で、あまり変わらないから正確なデータを提供できるのだと思います

 実は、商品名がこうだとこれくらい売れる、といったデータも取得しているんですよ。しかし、悩みで分類していった時に、非常に強い法則性が見えます」

 ピアラのAIは、おもに「ユーザーインサイト(悩み)」のほか、「商品特性」「広告媒体」「価格帯」「クリエイティブ要素」を学習している。同社はクライアントと契約したらまず「どんな悩みに対応できる商品なのか」を聞き出し、クリエイティブがなければ制作、あとはすべてピアラが実行する。基本的には、レポートの作成すらしない。

「広告代理業をはじめ、最も不毛だったのが時間をかけてレポートを作成することだったんです。一方、我々のシステムは画面を見ていただけば売り上げの推移がわかります。そんな状況のなか、細かい数字や情報を報告して、この数字はこういう意味で・・・などとご説明するより、KPI保証なのであれば、結果を出しているかどうかを見ていただくのが一番いいかな、と」

 成果報酬型だからこそ、仕事を請ける側がイニシアティブをとれる、というわけだ。その結果、何が起るか。

「例えば『ブライトエイジ』という、しみ・しわ美容液を扱わせていただいた時は、1年間の売上げを3カ月程度で達成しました。特に“商品自体は素晴らしいのに、なかなか知ってもらえない、試してもらえない”といった場合に非常に大きな成果が出せると思いますし、私たちも、自分たちが得意な領域にある優れた商品を求めています」

 突然だが、お豆腐を全国で発売する相模屋食料という企業がある。同社は今まで製造工程の一部を人の手に頼らざるを得なかった木綿豆腐づくりの全自動化に成功。するとこれにより、手を使わないからこそ消費期限が伸び、消費期限が延びると一気に大量に搬送できるようになり、同社製品を扱う小売店も増え、商品が売れると原料の大豆を安く仕入れられ・・・と、1つの進化が芋づる式にいくつもの進化をもたらした。ピアラも、データの蓄積とAIによる分析が、マーケティングの自動化、KPI保証、レポートの必要すらない報告の単純化=効率化、といった様々な進歩をもたらした。

 どこを変えれば、芋づる式に進化していくか、多くの業界には、その“急所”のようなものがあるのだろう。マーケティング業界は100年近く結果を保証してこなかった。しかしピアラの登場により、これが劇的な進化を見せた、というわけだ。

時代は「サブスク」&「自動化」

 飛鳥氏は、新卒で1999年トリンプ・インターナショナルジャパンへ入社、宣伝部を立ち上げ、さらには通販事業も新規で立ち上げ1年で黒字化。ここから18年の長きにわたり通販システムの構築、流通、販促、受発注、リピートの促進等を行ってきた。いわばネット通販事業の“生き字引”だ。

 その後「テクノロジーでマーケティングを変えたい」と考え独立、起業後ずっと、オートメーション化ができないかを考えてきたという。そんな飛鳥社長いわく、ピアラのサービスは「サブスク化」「クラウド化」の流れの一部らしい。

「このビジネスは単発でお客様を獲得する“フロー型“でなく、毎月ご料金をいただける“ストック型=サブスクリプションモデルです。また、適切な料金をいただくモデル、とも言えます。昔は聴きたい曲があったらCDを買うしかなく、聴きたい曲以外の曲もついてきました。しかし今は、好きな曲だけダウンロードできます。当社のサービスも同じで、売れた分だけご料金をいただく形なので無駄がないのです」

 要するに、飛鳥社長にははっきり見えていたものがあったのだ。「広告」は将来、根拠がある普通の商品になる。炊飯器を売るとき、まさか「玄米も炊ける・・・と思います」とはならない。同様に広告も、炊飯器のように「こういう条件を整えればこんな結果が出せる」とデータで示し、顧客に価値を提供した分だけお金をもらうモデルになっていく。

「実際に実施してみると、多くの経営者が実は広告に口を出したいわけでなく、単純に、どれくらいのコストをかけたらリターンがいくらだったか、というシンプルな部分を求めていることがよくわかりました。広告に“根拠”があれば、経営者の方がクリエイティブに悩むこともないのです。

 しかもこうして、まだ充分に認知されていない価値ある商品を、それが必要な消費者にしっかり届くシステムがあれば、企業は商品開発に集中できます。

 しかし現状、例えば食品の分野の企業が、最近、健康分野にも進出し、社員の皆さんが我々に任せればとっくにできているPDCAを必死で回していたり・・・。率直に言って“私たちに任せて下さい”と言いたくなる事例が多いんです」

 飛鳥社長は、このシステムを越境ECとしても実現すべく、中国とタイに現地法人を設立している。さらには今後データが集まれば、ビューティ、ヘルス、食品以外の市場でも、彼の“革新”が成し遂げられる可能性がある。

 飛鳥氏とピアラが描いた事例を見ると、サブスク化、クラウド化、自動化、KPI保証型、従量制など、旧弊な業界を変革していく手法の数々が見えてくる気がしないだろうか。

 最後に飛鳥社長がこんな話をする。

「最初に3000万円ほど広告ご予算をいただけば、最適な広告をミニマムでつくれます。その利益をすぐ利益として計上するのでなく、長い目で見てさらなる広告予算にしてください。こうして雪だるま式に広告を増やしていった結果、売り上げが当初の200倍に達した事例もありますよ――」

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