(姫田 小夏:ジャーナリスト

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 新型コロナウイルス感染症COVID-19)が世界で猛威を振るうなか、欧米の国々で中国人に対する差別、攻撃が強まっている。

 最近、トランプ大統領が「チャイナウイルス」という言葉を使ったが、これが拍車をかけた。英国では中国人留学生が10代の少年から「チャイナウイルス、帰れ」などの罵声を浴びせられた。

「お前はこれを食べるんだろ?」

 ドイツもこうした差別は存在する。ケルンで暮らす中国人留学生はドイツ人の子どもたちに「コロナだ、気持ち悪い!」と騒がれたことがあるという。

 その場では耐えるしかなかった。「言い返したり、やり返したりしたら強制送還されてしまうかもしれません。悔しいけれど無言で通り過ぎるしかありませんでした」と語る。

 彼が不快な思いをしたのは、それだけではない。熱帯魚の販売店を訪れていたときのことだ。生餌コーナーに、ウヨウヨとうごめくミルワームやケースに入れられた無数のコオロギがいた。すると後ろから「お前はこれを食べるんだろ?」とドイツ人の子どもからからかわれたのだ。

「僕は食べないけど、君は食べるのかな?」と中国人留学生が聞き返すと、ドイツ人の子どもはバツの悪そうな顔をして去っていったという。

 ドイツの一部のマスコミは、「新型コロナウイルスの発生は、コウモリなど野生動物を食べる中国の習慣が原因」と報道している。ドイツ人の子どもはそうした話を聞きかじって、中国人の食習慣をからかってきたのだろう。

「アジア人は出ていけ」という空気

 十数年にわたりミュンヘンに在住する日本人女性は、最近、アジア人に対する排斥がますます露骨になっていると感じている。

ミュンヘンでは、新型コロナの流行で当初は中国人が『コロナ』呼ばわりされていましたが、今ではアジア人全体がターゲットにされるようになってきました。『アジア人は出ていけ』、そんな空気が強まっています」

 夫の仕事で数年前にフランクフルトでの生活を始めた日本人女性の永山明日香さん(仮名)も、今年に入ってから「あなた、どこから来たの」という質問を頻繁に受けるようになった。永山さんは「そんなときは満面の笑みで『日本からですよ』と答えるようにしています」と言う。たいてい、相手は拍子抜けした顔で去って行くらしい。

 永山さんは、まだフランクフルトで露骨な差別を受けたことがない。金融関係の企業が多いフランクフルトは、日本で言うなら丸の内のようなイメージとも聞く。永山さんは繁華街から離れた住宅街に住んでいることもあり、「むしろ日本人は珍しがられることの方が多い」と話している。

「コロナ」呼ばわりするいじめっ子と対峙

 3月中旬、外出中の永山さんにLINEの通話機能で現地事情についてインタビューをしていたときのことだ。通話中、こともあろうに彼女がドイツ人の子どもたちに囲まれてしまったのである。

コロナァァ! 中国人~!」と子どもたちが叫んでいるのが、スマホを通して筆者にも聞こえてくる。大丈夫か? 危害が及ぶのではないか? スマホの向こうで何が起きるのか筆者は気が気ではなかった。

 永山さんはスマホの通話をオンにしたままだったので、一部始終がこちらにも聞こえてくる。すると意外な展開が始まった。彼女は子どもたちを相手に英語でこう切り出したのだ。

永山さん「『中国人コロナ』だって? 私は中国人じゃないよ」

ドイツ人の少年「じゃあ、どこから来たの」

永山さん「日本の東京から来たんだよ」

ドイツ人の少年「同じじゃないか」

永山さん「同じじゃないよ、東京は日本の首都だよ。あなたたち、もっと勉強しなさい」

ドイツ人の少年「冗談だよ! 学校で女の子をからかってるのと同じだよ」

永山さん「冗談でも人に向かってコロナなんて言うのは失礼だし、言われた方は傷つくよ

 永山さんは毅然とした態度を貫いていた。そして彼女は、他愛もない会話を続けて子どもたちとの空気を柔らかいものに変えていった。

ドイツ人の少年「ところで僕の英語どう? 上手?」

永山さん「上手だと思うよ、学校で習ったんだね」

ドイツ人の少年「東京か、行ってみたいな、うん、東京に絶対行くよ」

 筆者のスマホの画面に突然10歳ぐらいのドイツ人の少年の顔が大きく映し出された。永山さんが「東京につながっているよ」と言って、スマホの画面を子どもたちに見せたのだ。筆者もつたない英語で「こんにちは~、ここは東京だよ! 今度遊びに来てね」と言って手を振った。

 子どもたちは3人だった。彼らはしばらくすると自転車をこいでどこかに走り去っていった。最後に永山さんに残したのは、「いい1日を!」という言葉だった。

小さな出来事が世界を変える

 国や都市によっても違いはあるだろうが、欧米の子どもアジア人を「コロナ」呼ばわりするのは、確かに“ちょっとしたいたずら”からなのかもしれない。

 一方で、ドイツ人の3人の少年は、永山さんから「相手が傷つく」ことを教えられた。また、アジアには「日本の東京」という街があることも知った。おそらく、子どもたちは折に触れ永山さんとの対話を思い出し、いつか東京を訪れるだろう。

 政府の対外アナウンスでもなければ、大金を投入した広告宣伝でもない。結局のところ、世界の人々の心を変えるのは、こうしたほんの小さな出来事や出会いなのかもしれない。

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