JR東日本が「Suica」とは別の「タッチ」によるバス乗車の仕組みを検証。NFCタグを使ったもので、背景に交通系ICカードだけではカバーしきれない状況や、MaaSなどがあります。レストランでの支払いといった状況も検討されています。

交通系ICカードではなく「NFCタグ」でバスに乗車

交通系ICカードSuica」を展開するJR東日本が、新しいタッチ型システムの実証実験を始めています。

自動改札機や端末などへタッチして使える交通系ICカード。しかしその導入は、処理機器を設置する場所やコストなどのため、容易ではないことがあります。

そうしたなかソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ子会社フェリカネットワークスの技術協力のもと、実証実験を始めたのが、交通系ICカードと同じく「タッチ」で交通機関などを利用できるうえ、導入ハードルが低い「NFCタグ」を使った仕組みです。

2020年3月4日(水)、「お台場レインボーバス」を運行するケイエム観光バスの東雲車庫(東京都江東区)で行われた実証実験を取材しました。

この実験では、簡単にいうと、NFCタグを使って以下の流れでバスへ乗車します。

1:スマートフォンアプリでバス乗車券を事前に購入。
2:バス乗車口の運賃箱に設置されたNFCタグにスマートフォンをタッチ。
3:有効な乗車券が使用されたことが、スマートフォンからチケット管理サーバを経て、バス乗務員のタブレットへ瞬時に伝わる。
4:アプリで購入した乗車券は使用済みになる。

バス車内に必要なものは、NFCタグと乗務員のタブレットだけ。NFCタグの読み取りは現在、多くのスマートフォンが対応しています(FeliCa対応のiPhoneやおサイフケータイに対応したAndroid端末を含むNFC対応スマートフォン)。

また条件が満たされていれば、使用チケットを乗車前にスマートフォンで選択することなく、いきなりNFCタグへかざして乗ることも可能だそうです。

「NFCタグ方式」のバス乗車 メリットは?

この「NFCタグを利用した交通チケット」の実証実験、仕組み的には、NFCタグの代わりにQRコードを運賃箱に貼り、乗客にそれを読み取らせても、同様のことができます。

しかしNFCタグには、タッチするだけなので処理が早い(乗客がQRコードを素早く読み取るのは容易ではない)、偽造が難しくセキュリティが高いといったメリットが存在。このときの実証実験では、3分で62名が乗車可能だったといいます。なおNFCタグは、安価で小さいのも特徴です。

ただ現在のところ、乗車区間によって変動する運賃への対応はさらなる技術検討が必要とのことで、まず実証実験が行われている「お台場レインボーバス」のような均一運賃の場面における活用を考えているそうです。

「Suica」を展開するJR東日本 「いろいろなタッチ」を開発する狙い

現在、各交通手段を「ひとつのサービス」としてとらえ、それらをシームレスにつなぐ「MaaS(Mobility as a Service)」の取り組みが各地で進行中です。

しかし、そのラスト/ファーストワンマイルの部分では、どうしても規模が小さくなることなどから、利用者には手軽なものの、決済方法としては大掛かりな交通系ICカードFeliCa)は導入が難しいところがあり、MaaSの利便性向上や普及における課題になります。

そうしたなか、NFCタグによる手軽な仕組みが実用化されれば、MaaSの利便性が向上し、地域の活性化につながると、JR東日本は考えているとのこと。また交通系以外でも、たとえばレストランの席にあるNFCタグにタッチし、そこから注文や会計をする、といった展開を想定しているといいます。

経営におけるひとつの柱として「IT・Suica事業」を掲げるJR東日本。「タッチ」というUX(ユーザー体験)を、交通系をはじめそれに限らないより多くのサービスへ、シームレスに拡大していくことで、その事業をさらに成長させていく狙いがありそうです。

バス運賃箱のNFCタグにスマホをタッチして乗車(2020年3月4日、恵 知仁撮影)。