(ジャーナリスト・吉村剛史)

JBpressですべての写真や図表を見る

 中国湖北省武漢市に端を発した新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染症パンデミック(世界的な大流行)の影響で1年延期となった東京オリンピック国際オリンピック委員会(=IOC、トーマス・バッハ会長)と東京大会組織委員会(森喜朗会長)などの話し合いで、2021年7月23日を新たな開幕日とすることで決定した。

 実はこの日は中国共産党結党100周年の記念日当日であり、中国においてはこの前後に国家レベルの祝賀行事があるはずだが、世界の要人は東京に集まり、その拍手と視線は「人類の新型ウイルス克服」を象徴することになる東京大会開会式に注がれることになる。

 国際社会からは当初の発生情報の隠蔽なども疑われ、世界保健機関(WHO)から台湾を締め出してきたことにも厳しい視線が注がれている中国にとっては、あたかも「国際社会からの意趣返し」を受けているかのようなかっこうとなる「苦い記念日」となりそうだ。

新型コロナの世界的感染で苦しくなった中国の立場

 中国共産党は、1921年7月23日、上海で中国共産党第1次全国代表大会(第1回党大会)を開催し、結成されたとされている。大会の舞台となったのは東京帝国大(現東大)留学から帰国した李漢俊の上海の自宅で、国際共産主義組織(コミンテルン)の主導のもと、陳独秀や毛沢東らが中国各地で結成していた共産主義組織をまとめあげる形で発足した。「党」はその後、現代中国を象徴し、中国を世界第2位の経済大国に押し上げた牽引力となっただけに、同年7月には結党100周年記念の盛大な関連祝賀行事などが見込まれている。

 一方、今回の新型ウイルスの世界的な感染拡大を受け、「1年程度の延期」が決まっていた夏季五輪の東京大会に関し、大会組織委では2021年夏までの実施に向けて日程の確定や会場の確保を最優先に作業。最終的な日程案は、日本時間で2020年3月30日夕、IOCバッハ会長と、橋本聖子五輪相、小池百合子東京都知事、組織委の森会長によるテレビ会議で日本側が提案し、合意。これを受けたIOC理事会で決定した。東京五輪は2021年7月23日(金)開会、同8月8日(日)に閉幕する17日間で、パラリンピック8月24日から9月5日まで。

 日程の検討では、新型ウイルス問題の終息の見通しや、春開催と夏開催の利点、欠点なども考慮、比較されたといい、さらに2021年7月22日に任期満了を迎える東京都議選や8月15日の終戦記念日を避けるなどで決定。中国共産党の記念日との重複は偶然だと思われる。

 しかし、今回の新型ウイルスの感染拡大問題では、欧米メディアなどが中国当局による初期段階の感染拡大の報告の遅れや、隠蔽などに疑念を持って報じるなか、中国から巨額の投資を受けるエチオピアの元保健相でもあるWHOのテドロス事務局長が中国をかばう姿勢も浮き彫りに。

 また中国と距離をおく台湾の蔡英文政権(民主進歩党)が、政権発足後の2017年以降、中国の圧力でWHOから締め出されていることも、「防疫に地理的空白を生じさせた」「WHOは政治的な中立を保てていない」「WHO(世界保健機関)ではなくCHO(中国保健機関)」などとして国際社会から中国と、中国寄りと見られるWHOに対して厳しい視線が注がれ、米国発の署名サイトでもテドロス氏の事務局長辞任を要求する署名活動に署名が殺到する事態につながっている。

台湾でも話題、WHO参加に関する本紙記事

 こうした状況のなか、中国の孔鉉佑駐日大使が、この3月27日日本記者クラブ東京都千代田区)での会見終了後、筆者の取材に応じ、台湾のWHO参加に関して、条件付きながら「一つの中国」の原則を受け入れていた台湾の前政権、馬英九政権(中国国民党)当時と同様に、オブザーバーとして参加することが常態化してゆくことになるだろう、との見解を示すなど、国際社会の批判の矛先に対して探りをいれるかのように、台湾への態度を軟化させた言動も垣間見られるようになっていた。

(参考記事)中国、台湾のWHOオブザーバー参加、認める方針
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59933

 これについては台湾の有力紙『自由時報』なども関連報道し、台湾社会でも「本来干渉されるべきではない」「果たして『台湾』名義での参加が受け入れられるのか」「単なるポーズではないか」などと、関心がたかまっている(追記:中国大使館はその後、発言を打ち消し、発言は孔大使の個人的見解であったともみられている)。

(参照)https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/3117848

 孔氏は当日の会見でも、新型コロナウイルスの中国での感染ペースは減速傾向にあるとし、「中国本土の感染拡大は遮断できたと考えている」と述べ、新型ウイルスの呼称や発生源をめぐって応酬が展開された米中関係に関する質問について、「発生源がどこかは専門家の間では定説がない。専門家以外のいかなる議論も今は意味がない」などと強気の発言が目立った。一方で、新型ウイルスへの対応で習近平国家主席の国賓訪日が延期されたことについては、「今の困難は一時的なもので、中日関係の上向き基調には変わりがない」と断言。

 習主席と安倍晋三首相の電話会談も調整中とのことで、「そんなに遠くない将来に実現されるだろう」と述べた。さらには、日本の官民による対中支援に謝意を示し、「日本の善意へのお返し」として、日本で品薄が続くマスクに関し、「中国メーカーが早期に生産能力を回復させ、日本に輸出するよう調整を急いでいる」という。このような中国政府による新たな対日支援の姿勢も示唆するなど、国際社会での孤立を警戒するかのように、日本との良好な関係を強調していた。

 日本の中国問題研究者らからは、「新型ウイルス感染症に英国の皇太子や首相までもが罹患し、スペイン王女が亡くなるなどで、習政権は国際社会の厳しい視線にさらされていることを強く自覚していると思われる」「志村けんさんの死去に台湾の総統までもがお悔やみのツイートを寄せた。中国が国際社会で孤立しかかった際の頼みの綱の日本からこの日程が出てきたことに対し、衝撃は小さくないのではないか」との指摘も出ている。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  中国、台湾のWHOオブザーバー参加、認める方針

[関連記事]

台湾駆け込み朝日編集委員の「隔離日記」が大炎上

中台関係をも揺るがす米海軍艦艇の「コロナ蔓延」

3月20日、新型コロナウイルスの世界的感染を受けて開かれたG20首脳テレビ会議に参加した中国の習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)