第1週「初めてのエール」2回〈3月31日 (火) 放送 演出・吉田照幸〉

おはよう日本関東版」では桑子真帆アナが「(朝ドラ)見ちゃった」と言って、高瀬アナを「新鮮」と喜ばせた。
和久田麻由子アナは朝ドラを決して見ない塩対応キャラを貫いたが、これからは檜山靖洋アナと3人で朝ドラトークに花を咲かせるのだろうか。見てない人の気持ちも考えて内輪受けにはならないようにすることがNHKの俊英アナウンサーとしての腕の見せ所である。ただ、朝ドラ送りの場合、ほぼ「おはよう日本」から続けて「朝ドラ」を見る人ばかりであろうから、さほど気にしなくてもいいのかもしれない。

唐沢寿明、大活躍初回が最終回かと思うような未来の栄光が描かれ、第2回は初回かと思うような、主人公・古山裕一の幼少期(石田星空)のターン。やがて名作曲家になる裕一が音楽に目覚める瞬間を描いた。

アヴァンから主題歌のタイミングも、これぞ朝ドラという感じであった。はじまりがオーソドックスだから初回でぶっ飛ばしたのかなと思う。

初回に窪田正孝二階堂ふみをふんだんに出したのは、最初の頃が主人公の子供時代になるからだろう。朝ドラはたいてい主人公の子供時代からはじまるため、そのなかでメインの俳優を出し、この子供がゆくゆくこの大人になるんですよとあらかじめお披露目しておく工夫が成される。「スカーレット」は冒頭で戸田恵梨香が穴窯に火をくべ、「なつぞら」では広瀬すずが広大な牧場で絵を描いていた。

窪田も二階堂もタイトルバック以外に出ないことが残念ではあるが、その分、お父さん役の唐沢寿明が頑張って牽引していく。秋には日本版「24」こと「24 JAPAN」に主演も決まって50歳過ぎてもなおアクション俳優として活躍するたのもしさで、前夜はテレビ東京で「あまんじゃく」という医療の技術で悪者をこらしめるというダークヒーローを演じていた。朝ドラではうってかわって明るく行動的なお父さんに。
唐沢寿明は明るい。ただ明るく華があるだけでなく、とても研究熱心な俳優だと思うので、福島なまりも口先だけでなく体に染み込ませている印象を受ける。

待ちに待った子供が生まれて、張り切って、まだ日本に出回ってない、東北では2台めとなる貴重なレジスターを買って、もっと仕事に励むぞ!と張り切る三郎。
レジスターに指をはさまれ「いててて いててて いてて」と「バナナ・ボート・ソング」(いででいでで……)みたいな調子で痛がるところがご愛嬌。

威風堂々♪ただし、三郎はどうやら空回り気味らしく、彼の代で商売がうまく行かなくなっているらしい。それをネタに同級生から虐められる裕一。元来、裕一は、内向的で、緊張すると言葉もうまく出なくなることもあって、いつもひとりぼっちだったが、父のことを悪く言われて、立ち向かっていくが、力及ばない。

乃木大将の異名をもつ、魚屋・魚治の息子・村野鉄男(込江大牙)に、「悔しいことを笑ってごまかすな」「このづくだれが」(いくじなし)と言われてしまう。ちなみに、鉄男は初回では中村蒼が老けメイクして墓参りしていた。

母・まさ(菊池桃子)は2歳下の弟をかわいがっていて、家でも孤独な裕一。でも弟が生まれた祝いに購入した蓄音機から、西洋の音楽「威風堂々」を聴いて、父に言われた「なんでもいい夢中になるものを探せ それがあれば生きていけっから」という言葉の意味を見つける。
華やかで力強い「威風堂々」のメロディが裕一の眠っていた心を起こしたことと同じく、見ているコチラも少し勇気をもらった。コロナウイルスで萎え気味な心を奮い立たせたい。



窪田正孝の面影子役と成人した俳優は、たいてい全然雰囲気が違うものなのだが、なぜか、この裕一少年の虐められたときの憂い顔や、山や川を見ているとホッとするというナイーブな表情に、窪田正孝を重ねて見ることもできる。つまり窪田正孝が少年性をまだ残しているからなのだと思う。少年の無防備な柔らかい表情も窪田正孝は時々するので、子役ちゃんには悪いが、窪田正孝に置き換えて見るという楽しみもできる。
本来、大人に子供時代の面影を見るものだけど、子供に大人の面影を見てしまった。

メモ◯まさの兄・権堂茂兵衛(風間杜夫)は県内でも有数の資産家  
福島には日銀の支店がある。日銀福島支店の公式サイトによると、“東北地方で最初の、全国では本店を除く7番目の日本銀行の店舗として開設されました” “全国的にみても早い時期に当出張所が開設されたのは、当地が当時の重要輸出品であった生糸や米穀の有数の集散地であり、東北の金融の中心であったためです。”とある。

◯浪曲士 桃中軒空左衛門 実在するのは桃中軒雲右衛門。
「エール」では実名と架空の名前が混在していく。実在する古関裕而の功績を楽曲も用いて描きつつ、ドラマの主人公は古谷裕一という名前になっている。ちょっとややこしい。

◯ナレーション(津田健次郎)が丁寧な心情や設定解説。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

番組情報

連続テレビ小説エール」 
NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和

イラスト/おうか