(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 新型コロナウイルス感染症COVID-19)が急速に広まる米国で、ウイルスの発生源となった中国を糾弾する動きが官民で改めて高まっている。米国議会では、COVID-19の諸外国での被害に対する賠償金の支払いを中国政府に求める決議案が上下両院に提出された。

 米国では、ウイルス感染の広がりを隠蔽する中国政府の虚偽の発言、そして最近になって責任を米国に押しつけようとする態度への追及が広範となり、ついに補償金の要求までが活発となってきた。

米国を怒らせる中国政府の言動

 米国でのコロナウイルス感染者の数は3月31日時点で15万5000人、死者は2800人に達した。感染者の数は世界最多である。感染者が集中したニューヨーク市では病院に死者があふれるなど、医療体制の危機的な状況が全国に生々しく報道されている。

 それゆえ、この非常事態の原因を生み出した中国への憤慨は、米国内のあちこちで見受けられる。とくに米国の国政レベルで中国への非難が一段と鮮明になってきた。

 その理由としては、中国政府の最近の言動が大きな要素となっている。ウイルス感染が米国で広がった当初から、米国では官民ともに中国政府の初期の隠蔽工作に対する批判が強かった。さらに、中国政府がその非を認めず、外務省報道官らが逆にコロナウイルスは米陸軍が武漢へ持ちこんだという主張を表明するようになって、米国側の中国に対する非難は激しさを増すようになった。

 しかも中国は、イタリアなど感染の被害が大きい国への援助を行い始める。正体不明で危険なウイルス感染症を国内で発生させ、大あわてだった被害国が、余裕のある支援国へと立場を変えてしまったのだ。米国は中国政府のこうした態度の豹変に、さらに激しく糾弾を強めることとなった。

 マイク・ポンペオ国務長官が公式の場で「これはあくまで『武漢ウイルス』なのだ」と強調したことも、中国の最近の態度への明確な抗議がこもっていた。米国のメディアや学者たちの間でも「武漢ウイルス」という呼称を使う向きが増えてきている。

 もともとはウイルスの発生と拡散を許し、いわば加害者の立場にありながら、いつのまにか被害者側に回り、まるでヒーローのように他国を支援する構えまでみせている中国の“立ち回り”について、若手のアジア研究学者、マイケル・ソボリク氏が手厳しく論評していた。

 ソボリク氏は「アメリカ外交政策評議会」の研究員である。ワシントンの政治外交雑誌「ナショナル・レビュー」(3月27日号)に掲載した「中国共産党コロナウイルス感染の政治的利用を許すな」というタイトルの論文で、次の骨子を述べていた。

中国共産党政権は新型コロナウイルスパンデミック(世界的大流行の感染症)に関して、放火犯と消防夫の両方の役割を果たしている。武漢でのウイルス発生に対しては、隠蔽工作を図り、その拡散をあおって、大感染の火をつけた。そしてその後はその責任を隠して、今度は感染の被害を受けた諸国を助けるふりをして、消火にあたる、というわけだ。アメリカの官民も国際社会も、こんな欺瞞を許してはならない。

 このようにソボリク氏は、本当は放火犯なのに、いまは消防士のふりをしている、と中国を激しく非難する。そして、米国は中国政府の法的責任を追及し、米国側が受けた被害に対して賠償金を請求すべきだと主張していた。

「中国は賠償金を支払え」

 それでなくても米国議会では、中国政府の法的かつ財政的な責任を問う具体的な動きがすでに広まってきていた。

 米国連邦議会の上院のジョッシュ・ホーリー議員(共和党)、下院のセス・モールトン議員(民主党)、エリス・ステファニク議員(共和党)ら約10人の超党派議員グループは3月23日コロナウイルス感染症に関して中国政府の責任を法的に追及し、感染の国際的拡散によって被害を受けた諸国への賠償支払いを求める、という趣旨の決議案を上下両院に提出した。

 その決議案の要旨は以下のとおりである。

・中国政府が、コロナウイルスの感染の拡大や殺傷性を意図的かつ組織的にカバーアップ(隠蔽)するという非道徳的な決定をしたことは、米国民を含む数十万の人間の死をもたらした。

・米国議会は中国政府に、その傲慢な決定が全世界に生み出した有害、損失、破壊に対して、法的な責任をとって、損害賠償金を支払うことを求める。

・米国議会は国際社会に対して、それぞれの国家が中国の行動によって受けた損害を数量的、金額的に測定し、中国政府からの賠償金を受け取るための法的なメカニズムを創設することを提案する。

 米国議会はここまで過激な要求を中国に対してぶつけるようになったのである。

賠償金をどのように支払わせるか?

 現実には、新型コロナウイルスの感染で米国はじめ多数の諸国が受けた損害を換算すると、天文学的な数字となるだろう。それほどの巨額の賠償金を中国にどのような方法で払わせるかは難しい問題である。

 しかし、その賠償金の具体的な取り立て方法を提案する議員も出てきた。同決議案に署名した1人、ジム・バンクス下院議員(共和党)である。同議員は議場での発言で、中国の責任追及のためには、単なる決議ではなく、米国として強制力を持つ法律を作って、中国政府への損害賠償を法的に迫るべきだという提案を明らかにした。

 バンクス議員はそのうえで、米国が中国側に実際に賠償金を支払わせる方法について具体的な提案を語った。それは以下のような提案だった。

・全世界に被害をもたらした中国政府の法的な責任を明確にして、中国に賠償金を支払わせる方法として、第1には、中国政府が保有する莫大な額の米国政府債券の一部を放棄させる方法、第2には、中国からの輸入品にこの賠償のための特別な関税を新たにかけて、「コロナウイルス犠牲者賠償基金」を設けさせる方法、などが考えられる。

 こうした方法の実効性は現時点では不透明だが、米議会にここまで具体的な中国政府への賠償請求の動きが広がっていることは注視すべきである。米国議会の共和党、民主両党が一致してここまで強硬な態度をエスカレートさせたことは、今後の米国の中国への姿勢がまた格段と厳しくなる展望を示したといえる。その展望は“脱中国”とも呼べるだろう。米国のこうした極端で過激な対中姿勢は、同盟国の日本の対中政策にも複雑に影響してくるはずである。

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