マカロニえんぴつの2ndアルバム『hope』は、バンドが新たなフェーズに突入したことを知らせる作品に仕上がっている。収録曲の大半がタイアップ楽曲というところに彼らの現在の立ち位置が刻まれているけれど、そこに安住しない野心や挑戦が刻み込まれた一枚だ。お茶の間に愛されるロック/ポップス・バンドでありたいという意志を貫く一方、今作はメインソングライターのはっとり(Vo/G)以外のメンバー3人が作曲した楽曲も積極的に取り入れている。よりバンド然としたサウンドを掲げた今作には音楽を奏でる喜びや楽しさがギュウギュウに詰まっているのだ。表題にある通り、光を追い求め、希望を鳴らし続ける今作の魅力について、はっとりに話を聞いた。

取材・文 / 荒金良介 撮影 / 森崎純子

◆国民的な愛され方をするロック/ポップス・バンドでありたい気持ちは強いですね

ーー 今作は全14曲中8曲がタイアップ・ナンバーですよね。改めて一枚のパッケージになって、ご自身ではどんな作品に仕上がったと思います?

2ndアルバムということもあり、マカロニえんぴつの8年のキャリアを封じ込めたというよりも、ちょっとノッてきた勢いをそのまま封じ込めることができたおいしいとこ取りのアルバムかなと。バンド内でもマスタリングのときに「いい作品ができた!」と盛り上がりましたからね。“俺が”というより、“バンド”としての手応えを感じてます。

ーー 勢いが増してきたというのは1stアルバム『CHOSYOKU』以降ですよね?

そうですね。「レモンパイ」(2ndシングル)でギアがさらに上がり、「ブルーベリーナイツ」(4thミニアルバム『LiKE』)、「青春と一瞬」(5thミニアルバム『season』)がステップアップになり、マカロニえんぴつの音楽とは?を広めることができたかなと。「青春と一瞬」がテレビCMタイアップもいただいたので、邦ロック・ファンを飛び越えて、お茶の間の方々にも認知してもらえるようになりつつある状況です。これからはもっと大事な時期だなと。

ーー 結成時からお茶の間に届けたい、という意識は強くありました?

もちろんありました。音楽好きの間だけで愛される前提で結成してないし、デビュー前に自分たちが作っていたホームページ内に「全年齢対象ポップス・ロック・バンド」と謳ってたんですよ(笑)。だから、国民的な愛され方をするロック/ポップス・バンドでありたい気持ちは強いですね。

ーー その思いはどこから来ているんですか?

自分はサビがあって、つい口ずさみたくなる歌が好きなので、そこだと思います。最初から歌を大事にしていたので・・・ロック・サウンドでありつつ、みんなの懐にスッと土足で入っていける楽曲を歌うバンドでいたいから。

◆すべての曲はサビを盛り上げるためのものだと思っているし、いいサビには昔から惹かれます

ーー それはリスナーとしての自分の嗜好が大きく影響してます?

ですね。一貫してキャッチーなものが多かったし、サビの概念も人それぞれですけど、琴線に触れるコマーシャルな音楽が好きなんです。すべての曲はサビを盛り上げるためのものだと思っているし、いいサビには昔から惹かれますね。

ーー はっとりさんが思う最強のサビ曲を挙げると?

難しいですね(笑)。UNICORNが好きなので、「すばらしい日々」だったり、阿部さんが作曲した「開店休業」は一番好きな曲ですね。声を張り上げて歌う曲じゃないけど、ちょっと悲壮感が全体に漂ってて、もの悲しいんですよ。曲調はオルガン・メインで可愛らしいアレンジなんですけど、民生さんの歌い方も切なげで、それがUNICORN解散前に出した曲でもあるから、いろんな想像が膨らんでしまうんですよね。切ないけど、メロディは優しくて、そういうバランスというか、そういう感情にさせられる曲を作りたいんです。切ない、儚い曲を聴くと、安心してしまう性格なんですよ。それはそのままマカロニえんぴつの音楽にも反映されていると思います。

◆切なくて儚い曲に惹かれるのはそれがリアルだから

ーー ええ。でも、なぜ切なくて儚い曲に惹かれるんでしょうか?

う〜ん、自分は物事の捉え方がマイナス思考ではありますね。安心できない性格というか、生きていく上で幸せな時期はないと思っているというか、疑ってかかるんですよ。幸せな瞬間はたくさんあるんですけど・・・わかりやすく言うと、お金持ちになりました、不自由ない生活が続きます、それが怖くなるタイプというか。不安定な時期がリアルだと思っているし、だからこそ、人間は愛や幸せを求めると思うんです。本当の歌はネガティヴな言い回しや、後ろ向きな言葉を使いながらも、優しいメッセージがそこにあるんですよ。陽のイメージが強い言葉ばかりだと、ウソ臭いと感じてしまうから。切なくて儚い曲に惹かれるのはそれがリアルだからだと思います。

ーー 光だけを提示させられても、薄っぺらく感じてしまうと?

このアルバムも前向きな言葉だけを使って、希望の光りを前面に提示している曲はないですからね。絶望の壁の隙間に一瞬光が見えるというか、その光に気付いていますか?と投げかけてる感じなんです。今はマカロニえんぴつを好きでいてくれる人に誤解なく汲み取ってもらえる気がするので、胸を張って「hope」というリード曲もいままで通りに書きました。

レコーディングライヴと一緒という感覚になれたんです

ーー 今はリスナーに対して、どんなスタンスで向き合ってます?

一方的じゃなくなった感じというか、いい関係値に擦り合せられているなと。お互いに必要だよね、という関係性を築けていると思います。あと、今作は歌の面においてはテイクを重ねずにライヴに近い感じでやれたんですよ。それは自分としては新しい挑戦です。いままではクオリティを優先して、上手に歌おうと意識していたけど、作品を重ねていくと、1テイク目には勝てないなと。何度か歌った後に1テイク目を聴き直して、これで良かったじゃん!と思うことが多くて。だから、レコーディングライヴと一緒という感覚になれたんですよ。「hope」は新録曲の中でも早く録り終えたんですけど、2テイクしか録ってないんですよ。

ーー そうなんですか!

歌録りは長いときで1曲2、3時間かかるのはザラなのに、この曲は10分で終わりましたからね(笑)。メンバーもすげえ良かったよ!と言ってくれたし、今回は2テイク目のほぼ1テイク目を使用したので、それはライヴやフェスを重ねたおかげですね。そういう意味でロック根性が付いたと思います(笑)。

ーー 自信が付いてきた証拠でしょうね。

メンバーやお客さんに自信を付けられた感じです。そのホットな感じも今作を聴けば伝わると思います。

◆アルバム全体のバランスを取れたのはほかのメンバーが作った曲のおかげだと思います

ーー 今作を聴いても、歌がまっすぐ入ってくる曲調が多いですね。

特に既発曲は歌がガツン!と来るものを作ったし、「愛のレンタル」は楽曲提供(私立恵比寿中学)した初めての曲なので、かなりキャッチーだし、アッパーなリズム隊のビートも入ってますからね。(作品トータルで)味は濃過ぎるかもしれないから、胃もたれしないかなって心配したんですよ。でもアルバム全体のバランスを取れたのはほかのメンバーが作った曲のおかげだと思います。特に「この度の恥は掻き捨て」は高野の曲ですけど、フザケまくったし、マカロニ流のUNICORNの「人生は上々だ」ですね(笑)。

ーー ははは、そうなんですね。

UNICORNの曲はキーがどんどん上がるけど、この曲はテンポをどんどん上げていこうと。後半、弾けないくらいのテンポ感ですからね(笑)。こういう曲が入ることで、音楽って楽しいとか、楽器を持ったときの喜びがサウンドでも伝わるかなと。それも魅せられたアルバムだと思います。アレンジは僕の好きなUKサウンドがメインになっているけど、長谷川が作った「Mr.ウォーター」のジャジーなセクションは僕には作れないし、最後のサビは自分で考えたので共作になっているんですけど、いい化学反応が起きているなと。

ーー 「Mr.ウォーター」におけるハードロック/ヘヴィ・メタル調のギターソロもいい味になってます。

あれも無理やりぶっ込みました(笑)。田辺がギターソロを弾きたそうな顔をしていたし、今作は速弾きのセクションも多いですからね。「hope」のアウトロもフェイドアウトで終わってますけど、あれから1分ぐらい弾いてますからね。彼はハードロック/ヘヴィメタル出身だし、今回はメンバー個々のルーツを押さえ付けずに出したいように出したいというか。リード曲以外はガス抜きと言ったらヘンですけど、それが伸び伸びとしたサウンドになってる要因だと思います。

ーー 「恋人ごっこ」もかなり攻めた曲調ですね。

曲の後半でセクションがガラッと変わりますからね。サウンドではそこまで奇抜なことをやってるわけじゃないし、かなり削ぎ落としたシンプルな音なんですけど、歌詞は同世代や下の世代の人に共感してもらえるんじゃないかと。ここまでテンポの変わるアレンジもなかったし、それができたのも今後の自信に繋がると思います。1曲の中でうまく抑揚を付けられたなと。

ーー シンプル繋がりで言うと、「嘘なき」もそうですよね。

1年以上前にあった曲で弾き語りですからね。個人的な感情が多く含まれた曲だったので、マカロニえんぴつとしてリリースする必要はないと思っていたんですよ。読まれることはない置き手紙みたいな、ボイスメモのようなものだったから。ただ、ここ1、2年でバンドの状況も変わったので、自然とこの曲を出したいと思えるようになったんですよ。バンドっぽくなってきたからこそ、個人的な感情を入れた曲も出してもいいのかなと。

◆気付こうとしないと、気付けないものが希望だと思う

ーー 歌詞もすごくいいですよね。「ねぇねぇ、どうして大事なものは無くしちゃうの?」、「たぶん、どこへ行っても探せる自信があるからだよ」の2行には揺ぎないポジティヴさを感じました。

気付こうとしないと、気付けないものが希望だと思うから。絶望の壁が大き過ぎて、そこに悲観的になってしまいがちだけど、すぐ横にある希望を見過ごしていたなあ、手放していたなあ、拾えてすらなかったなあって。この曲は「hope」に通じる後悔だったり、気付けたことの喜びが詰まってますからね。その2行は俺もいいフレーズに辿り着けたなと思いました。だから、独り占めしたくて、リリースしたくなかったのかもしれない(笑)。相当いいものができたと思ったんですよ。ウソのない歌詞を書けたし、曲名の「嘘なき」の“なき”をひらがなにしたのも“嘘がない”という風にも受け取れますからね。この曲は入れて良かったと思います。

ーー あと、「たしかなことは」は田辺さんが作曲したものですよね。

彼の曲が初めて入ったのは「恋のマジカルミステリー」ですけど、あれはリフで始まる曲調でギタリストが作ったものとわかるじゃないですか。でもこの曲はクリーン・ギターで全編を通す感じで、メンバーも自分というより、バンドのことを考えて曲を作っているんだなと。ここに来て、シンプルに曲がいいと思うものは持って来たので、マカロニえんぴつのギタリストなんだと思いました。メンバーのデモ音源は歌詞もない打ち込みのメロディ・ラインなんですけど、それでもこの曲はやりたい!と思いましたからね。

ーー メンバー各自の個性が際立つフレーズもありながらも、バンド全体を俯瞰した曲調を作れるようになったのも大きいんですね。

メンバーも客観的にバンドを見れるようになったんじゃないですかね。俺がある種委ねるようになりましたからね。この曲もキーはかなり低いんですけど、このキーで歌うからこその温度感が出ていると思う。声を張って歌う曲ばかりだと、ライヴの抑揚も付けられないから。それも考えてこのキーにしていたら、凄いなと思いますね(笑)。この曲は70年代のニューミュージックっぽいアレンジを心がけました。

◆今作のレコーディングも笑いながら録ることが多かったんです

ーー 70年代のニューミュージックというと?

わかりやすく言うと、ユーミンみたいな。音数が少なくて、ベースとドラムもすごく近くにいる。イメージに近いものができましたね。今回は自分が作った曲以外の、メンバーの作った曲が好きですね。自分が関与してないから、新鮮に聴こえるんですよ。これからもバンド全体のアレンジを意識して楽しみながら曲を作りたいですね。ある取材で「バンド活動において一番大事なことは?」みたいな質問に対して、「楽しくできることが大事」と長谷川が言ってて、その言葉を聞いたときに同じなんだ!と思って嬉しくなったんですよ。今作のレコーディングも笑いながら録ることが多かったんですよ。いままではしかめっ面でやってることも多かったですからね。

ーー 今作を作り終えて、バンドの可能性はどんどん広がりそうですね。

そうですね。まだリリース前だから何とも言えないし、多少の不安もありますからね。届いてくれるかなって。でも今は必要とされていることのありがたみも感じているので、いい作品がいいタイミングでパッケージできたと思います。



マカロニえんぴつ 2ndアルバム『hope』に込めた想いとは? 曲作りのこだわりと広がるバンドの可能性をボーカルのはっとりに訊く。は、WHAT's IN? tokyoへ。
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掲載:M-ON! Press