新型コロナウイルス感染拡大により、各地の自治体が外出自粛要請をする中、家庭内暴力(DV)や児童虐待が増える懸念が高まってる。 DV被害者の支援団体であるNPO法人「全国女性シェルターネット」(北仲千里共同代表)によると、相談窓口の現場には「夫が在宅ワークになり、子どもも休校となったため、ストレスがたまり、夫が家族に身体的な暴力を振るうようになった」といった声が寄せられているという。

海外でもDVの増加がみられるといい、国内でも阪神淡路大震災東日本大震災の際にもDVが悪化したことから、全国女性シェルターネットは、国に対して早急な対策を求めている。(弁護士ドットコムニュース・猪谷千香)

●夫が妻と発達障害の子に暴力をふるい、妻も子に暴力…

全国女性シェルターネットが3月30日、国に提出した要望書によると、各地の児童相談所への相談の増加がみられるほか、次のような相談例が現場に寄せられているという。

・夫がテレワークで自宅にいるようになり、これまで長時間労働ですれ違っていた夫が妻に家事一切を押し付け、ことごとく文句を言うようになり、モラハラが起こってきた。 ・かねてからDVで母子で家を出ようと準備していたが、自営業の夫が仕事がなくずっと在宅し、家族を監視したりするようになったので、避難が難しくなり、絶望している。 ・妻が子を残し、DVで避難したが、学校が休みになり子どもたちが父と一緒に過ごすようになって、大声で怒鳴ったり、幼児が泣くと夜も戸外にしめだされたりしたため、子どもたちが父の下から逃げ出した。一部の子ども(女児)は児相に保護されたが、部屋が足りず、男児は児相に保護されないでいる。 ・DV夫と家庭内での別居中。発達障害の子どもがいて、離婚できない状況。学校が休みになり、学童や子ども食堂も休みになり子どもが家にいることで、夫から妻、夫から子どもへ暴力が増え、妻も子どもへの暴力をしてしまう状況が起きている。 ●相談窓口につながらず、暴力の深刻化や経済困窮の懸念

また、要望書では、自治体の相談窓口が被害者との面談を中止したり、男女共同参画センターが閉鎖されたりしていることから、「DVが悪化しても支援につながりにくくなっている」と指摘。今後、次のようなことが起こると懸念している。

・自宅勤務の配偶者や子どもたちが在宅しているため、相談電話をかける機会が奪われる。 ・外出自粛に伴い暴力の深刻化や加害者の監視など行動の制限が強まる。 ・非常勤職員の自宅待機、雇い止めが多発しているため、経済的困窮に陥る家庭での暴力、虐待の増加が予測される。 ・暴力被害を受けても、コロナ不安のため通院・治療を差し控える当事者が増える。 ・外国籍移住女性やその家族への差別的風当たりが強まる。 ・飲食業や風俗産業で働かざるを得ないシングルマザーなどは、直ちに生活困窮に陥る。

こうした懸念から、全国女性シェルターネットは、新型コロナウイルス感染拡大による緊急の状況下でも、DVや虐待の窓口を閉じないことや、一時保護の強化、被害者への経済支援などの対策を早急に実施するよう求めている。

フランスではDV増加、政府が対策

世界各地でも新型コロナウイルスによる外出制限はDVの増加を招いているという。

その一つであるフランスでは、女性団体からの要望もあり、外出禁止が開始すると同時に、政府がさまざまな対策をとっている。司法大臣も「女性に対する暴力との闘いは、法務省が明確に認めた刑事政策の最優先事項であることは変わりない」というリリースを発表した。

北仲共同代表は、弁護士ドットコムニュースの取材に「現在、世界各地と連絡を取り合い、情報を交換しているところです。今後、日本で現金給付などがおこなわれた場合、支援が行き届かないDV被害者が出てくると思われます。政府は新型コロナウイルス対策や景気対策をしつつ、この問題についても取り組んでほしいです」と話している。

また、現在DVに遭っている被害者に対しては、「相談窓口は閉じているところもありますが、100%閉じられているわけではありません。危なくなったら、諦めずに逃げてほしいです」と呼びかけた。

●DV被害者支援者情報

厚労省のホームページでは、「配偶者からの暴力被害者支援情報」( http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/index.html )で、被害者に向けて、相談窓口などをまとめているほか、各自治体でも電話相談などの窓口を設けている。

「在宅ワークの夫がストレスで家族に暴力」 外出自粛でDVや児童虐待の増加懸念