新年度に入りましたが、全世界規模で見たとき、新型コロナウイルスの猛威は収まる気配が確認できません。
「ピーク」という表現を目にします。いわく「ピークを低くしろ」「ピークを遅らせろ」などなど。
前者は、発生する患者数の「最大値」=頂上、山のてっぺん=ピークが地域の医療キャパシティを超えてしまうと「医療崩壊」が起きてしまうから、医療体制のキャパシティに合う範囲「水際」で食い止めろという警鐘。
後者は「治療法などの確立までに時間がかかっているのだから<治る病気>になるまで、時間を稼げ」という警句と考えることができます。
しかし、この「ピーク」というものがいつ到来するのか・・・つまり「頂点」を過ぎて下降線のカーブをなだらかに描く時期がいつ到来するのか。
ひとまずの事態の収拾を5月とか夏頃とか予測する記事も目にするのですが、どうしてそのような予測が出せるのか、疫学的な観点からは根拠を見つけることができません。
しかし、別の「理由」ないし「事情」は察することが出来るように思います。
経済的な損失を前提に、予防的に流す「観測」としては、その「狙い」は理解できないわけではありません。
いたずらに危機を煽るべきではないが・・・
3月末の段階で全世界のコロナ感染者数は約70万人、その2割を超える15万人強は米国に集中し、次いでイタリアの10万人、スペインの8万5000人などが続きます。
中国はスペインを下回る8万1470人の「感染者」と発表していますが、症状の出ていない人をカウントしないなど、数字が操作されているのは、すでに報道されている通りで、文字通りに取るわけにはゆきません。
統治から経済への波及効果、証券相場まで、様々な影響を念頭に、数字には手が加えられている可能性があり、文字通りに受け取ったり、単純に比較したり、足し算したりすることで得られる知見には限界があることは間違いありません。
NHKによると、3月末時点での国内総感染者数は2193人、これにクルーズ船の感染者712人を加えると「2905人」というのが、新年度あたま時点での総数だというのですが・・・。
この「2193人」という和も、それとクルーズ船の(有限確定の)712人という数を単純に足すのは、実験科学を学んだ人には自明のことですが、誤差の幅を考えると、あまり意味のある計算ではありません。
では、「こうした発表の数字はすべて操作されている~」から、「信じても意味な~し」と、私は思わないのです。
この連載で幾度も強調する通り、私のお勧めは「定点観測」ならびに「差分」に注目せよ、というものです。
小池都知事の「日程」が意味するもの
東京都の小池都知事は、3月に入って6回、新型コロナウイルスに関して記者会見を行っています。日程は
3月6日
19日
23日
25日
27日
30日
という分布、これを日数差で見ると
第1/第2回間 13日
第2/第3回間 4日
第3/第4回間 2日
第4/第5回間 2日
第5/第6回間 3日
となっており、とりわけ3月25日、27日の会見の間が、非常に詰まっていることが分かります。
会見では都知事が手にしたパネルで「感染爆発」の文字が示されました。
どうしてこの段階で「爆発」予防が訴えられたのか?
東京都のデータに即して検討してみましょう。下に示すのは、3月20日から24日の値として、東京都が発表した感染者数の推移と、それを「指数関数」で近似して、そのペースで感染が1か月拡大したと仮定した「外挿」の模様です。
3月24日までの累積感染者数は171人でした。しかしこのペースで増加すると4月末には1800人になってしまう・・・たった1か月で10倍を超えてしまいます。
都の把握しているデータは完全ではないでしょう。でもこれが「サンプリング」であると考えるならどうだろうか?
つまり、この増分の実際は何倍かが「真の感染者数」であるとすれば、この予測に何倍かすれば、最悪の事態を予測できる可能性があるでしょう。
さて、ところが、です。事態は一日一日変化していきました。3月25日、志村けんさんが病院を移り、ECMO装置を接続した日までデータを伸ばすと、結果が変わってきてしまいます。
3月25日までの総感染者数は212人でしたが、この日1日での患者数の伸びは41人、急に増加しました。
この1日のデータを増やしただけで、指数外挿した4月末時点での感染者総数は5000人に飛び上がってしまいました。
翌3月26日の総感染者数は259人、患者数増加の「差分」は47人で、ここまでのデータを指数関数で近似し、4月末まで外挿すると、あっという間に1万人を超えてしまいました。
この経緯と並行して、都知事は「感染爆発」という表現を表立って使い始めます。
都内にある病床数は約6万床、大半はすでに埋まっています。
東京都は3月末時点で新型コロナ対策の病床数を4000床に増やすことを「目指す」としていますが、これは「ピーク時」の患者数を「2万人」と仮定して、その25%をカバーする、とするものです。
しかし、重症患者数がその範囲に収まるという保証は全くなく、その範囲に患者数を「抑える」ために「外出自粛要請」などを発しているわけです。
これらの計算を私はリアルタイムでチェックしていましたが、先週時点では公にすることを控えました。
というのも、台東区の永寿総合病院で大量の感染者が見つかるなど、クラスターの影響がはっきりあるので、軽々なことを言うべきではないと慎重に考えたためです。
ではその後「差分」の振る舞いはどう変化したでしょうか?
3月31日の感染者数増加は78人まで増えてしまいました。3月20~31日のデータから指数関数で外挿した、4月末の感染者数見通しは以下のようになります。
3万人弱。1週間前の予測数、170人が1800人に「急増」とは、桁が違ってしまう・・・。
そういう「最悪可能性」のフロンティアが、毎日データが更新されるたびに、悪化してしまうというのが、3月最終週の経過で、この間、コンスタントに都知事の緊急記者会見が開かれたのにほかなりません。
最後に3月下旬のデータをもとに「線形」外挿ならびに「指数」外挿で短期予測の図を描いてみましょう。
直線的に患者数が伸びると考えると4月2日は550人程度、指数的だとすると700人に近づきます。
実際の推移がどうなるか、「幅」をもって予測し、対処の意思決定を慎重に進めることが重要と思います。
・・・とここまで予定稿を書いたのは3月31日でしたが、果たして4月1日時点で、総感染者数は587人、仮に同じペースで2日も伸びれば650人を超える数となり、直線予測はすでに超え、指数外挿に近い推移を見せています。
抗体療法が完成されていない現時点、感染と被害の拡大を防ぐ唯一の方法は「だれもうつすべき人がいない」<無人>の状況をつくる、一種の「疎開」しかありません。これについては続稿で詳述します。
つづく
[もっと知りたい!続けてお読みください →] 志村けんの訃報が教えるパンデミックの現実
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