新型コロナウイルスの感染が東京都内などで広がり、小池百合子都知事は「このままではロックダウンを招く」と強い口調で危機状況を訴えています。「ロックダウン」は「都市封鎖」と訳され、先行して実施されているニューヨークやパリの街頭からは人影が消え、国によっては、許可なく外出している人を警官が強くたたく姿も見られます。

 東京など日本国内の都市や地域で都市封鎖が行われるとしたら、実際どのようになるのでしょうか。また、そもそも可能なのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

欧米は罰則付き、移動制限など実施

Q.「都市封鎖」の定義を教えてください。街はどのようになるのでしょうか。

牧野さん「『ロックダウン』とも呼ばれ、政府の専門家会議では『数週間、都市を封鎖したり、強制的な外出禁止の措置や生活必需品以外の店舗閉鎖などを行ったりする強硬な措置』と定義しています。

ヨーロッパやアメリカで行われているロックダウンは罰則付きで、移動制限、外出制限、飲食店の営業禁止(ただし、テークアウトやデリバリーは営業可)、就業制限などが行われています。

外国のロックダウンの状況が盛んに報道され、『日本もこうなるのでは?』と心配している人がいると思いますが、少なくとも日本の現行法の下では、罰則付きで外出を禁止することはできず、外国のようなロックダウンはできません」

Q.都市封鎖の根拠となる法律は何でしょうか。

牧野さん「日本では、『新型インフルエンザ等対策特別措置法(新型インフル特措法)』か『感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)』に基づいて対応することになります。

首相が対象となる地域を定めて、新型インフル特措法に基づく『緊急事態宣言』を出した場合、指定地域の都道府県知事は同法やその施行令により、(1)外出自粛要請(2)多数が利用する共用施設(学校、保育所、劇場、映画館、百貨店、ホテル、体育館、博物館、図書館、学習塾など)の使用制限(3)病院開設のための(所有者の同意が原則)土地使用・収用(4)事業者・販売者に薬や食品の売り渡し要請(応じなければ)収用などを行うことができます。

(1)~(3)については罰則はありませんので、協力義務にとどまります。(4)は応じない場合、6月以下の懲役または30万円以下の罰金となる可能性があります。なお、(2)の『共用施設の使用制限』については、食品や医薬品、衛生用品など生活必需品を販売する店舗は除外されます。つまり、仮に都市封鎖が実施されても、生活必需品の販売や購入は規制されないということです。

次に、移動などの制限があるかどうかです。感染症法33条は『強制的な移動制限』(交通制限や遮断)を定めています。都道府県知事が72時間以内の条件付きで、病原体に汚染され、または汚染された疑いがある場所の交通を制限し、または遮断することができるというものです。

感染症法33条は『エボラ出血熱』など限られた感染症について適用されるものでしたが、新型コロナウイルス感染症についても適用できるよう、政令が改正され3月27日に施行されました。3日間(72時間)に限って強制的に交通制限ができることになり、違反すれば50万円以下の罰金が科される可能性があります。

ただし、あくまで最長3日間であり、専門家会議が定義する『数週間の都市封鎖』をこの法律で実現するのは事実上不可能でしょう」

Q.もし、外出など人の移動を制限するとしたら、憲法違反にならないのでしょうか。

牧野さん「憲法が定める基本的人権はとても大切なものではありますが、一方で、憲法12条、13条は国民の基本的人権を『公共の福祉』により制約できることを規定しています。今回のコロナ禍の状況では、『公共の福祉』=『公共の安全・健康』を守るため他に方法がなく、明白かつ切迫した危険な状態にあるなどの条件を満たせば、必要最小限の人権の制限は必要なものだと一般には考えられます」

Q.都市封鎖によって仕事ができなくなり、給料が下がった、あるいはもらえなかった場合、行政からの補償はあり得るのでしょうか。

牧野さん「都市封鎖を念頭に置いたものではないと思われますが、政府は、新型コロナウイルスの影響で収入が減った世帯に現金を配布することなどを検討しています。

また、これも都市封鎖と直接の関係はありませんが、小学校などの休校による休業中の保護者に給与を支払った企業から申請があれば、1人当たり1日最大8330円を助成する、個人事業主・フリーランスの保護者には日額4100円を支給する支援措置を始めました。都市封鎖の場合についても、同様に何らかの配慮があり得ることは考えられます」

Q.もし、現行法で東京都が「封鎖」された場合、都民はどのように行動すればよいのでしょうか。

牧野さん「まずは、命や健康あっての経済活動・私的活動ですので、自分や家族、友人、知人の安全・健康のために、東京都自粛要請などの指示に粛々と従うことが一都民として重要であり、それを前提に、経済活動・私的活動を限定的に継続していくことになるかと思います。

繰り返しになりますが、生活必需品の販売は規制されず買い物もできます。不要不急の外出は慎むべきですが、生活必需品の買いだめに走る必要はありません。くれぐれも、『都市封鎖だ!』とパニックにならず、落ち着いて行動してください。

一方で、そうした我慢を長期間都民に強いるためには、政府は医療品・飲食を含む生活必需品の調達に関して、都民が不安を感じて買い占めなどに発展しないよう、広報宣伝活動や生活必需品の物流の安定に指導的役割を果たすべきだと思います」

オトナンサー編集部

新型コロナウイルスについて緊急記者会見をする小池百合子都知事(2020年3月、EPA=時事)