記者会見もリモート(遠隔)でいいのではないか――。新型コロナウイルス問題で、外出自粛などを求める為政者の記者会見こそ、「三密(密閉、密集、密接)」で危険なのではないかという声があがっている。

たとえば、3月30日夜にあった小池百合子都知事の緊急記者会見について、ネットでは密閉空間に大勢の記者を集める必要があるのかといった疑問を複数目にすることができる。せき込んでいる記者がいて、怖かったという書き込みもあった。

リモートでも記者会見は成立するのか。都知事の緊急会見と同日、ビデオ会議ツールZoom」を使って開かれた、ある最高裁判決についての記者会見から可能性を考えてみたい。(編集部・園田昌也)

マイクミュートにして

記者側の映像は必要だろうか。一瞬迷って、ビデオとマイクをオフにする。

「会見場」に入ると、画面には弁護士の姿。他社の記者も何人かアクセスしているが、全員ビデオはオフで、黒い背景に名前だけが表示されている。マイクをオフにしていない社があるのか、ときおり話し声が聞こえるーー。

3月30日最高裁で注目の判決が言い渡された。タクシー業界で一部採用されているという、歩合給から残業代相当額を差し引く制度が違法と判断されたのだ。提訴から約8年がたっていた。

【判決の内容はこちら:https://www.bengo4.com/c_5/n_10994/】

訴え出たドライバーの一部は判決からほどなく、ビデオ会議ツールZoom」を使って、記者会見を開いた。代理人の中村優介弁護士は経緯についてこう語る。

「小池都知事が土日(28、29日)の外出自粛を求めたことが大きかったですね。もともとは厚生労働省の記者クラブで開く予定でしたが、29日に内部で話し合って、Zoomを使おうと決まりました」

実は中村弁護士が所属する「日本労働弁護団」では、3月半ばから会議でZoomを使いはじめたという。また、同じく代理人の菅俊治弁護士は以前から海外相手の会議で利用していたそうだ。

●顔が見えないと話しづらい

定刻になった。しかし、画面の弁護士たちはどこか戸惑った表情だ。菅弁護士が冗談めかして言う。

「すみません。コミュニケーションをとりづらいところがあるんですけど、(記者の姿も)映していただいてもいいでしょうか」

映像と音声がオフになっているから、主催者からは記者の準備ができているのかは見えない。いつスタートして良いかタイミングがつかめないのだ。

相手は実名と顔出しなのに、記者側は匿名になっていたのだなと反省の言葉が浮かぶ。

一方で、外出自粛が続くとなると、記者も自宅からの参加が増える可能性がある。視覚や音声面で会見に堪える環境をどう構築するか、という点は課題になるかもしれない。

●資料配布の難しさ、質問いつ打ち切る?

弁護士の戸惑いは続く。

「すみません、幹事社の方はどちらになります。厚労クラブの方は…」

通常、記者クラブで開かれる会見は、持ち回りの幹事社が司会進行を務める。しかし、Zoomになるとクラブの概念はなくなる。

中村弁護士はこう振り返る。

「こちらが話す分には、いつもの会見とあまり変わりありませんでした。ただ、会見中に資料を配布したので、質問をどこで打ち切るかが難しかったですね。対面なら空気感みたいなのがわかりますし、幹事社が判断してくれるので」

通常の記者会見だと、終わったあとに名刺交換がてら、細かいニュアンスを確認したり、独自のコメントをとったりする時間が設けられることがある。一方、リモート会見だとそういう時間はない。正規の質問パートがより重要になる。

ところが、配布される資料はデータだ。あらかじめ渡されていたり、印刷環境があったりすれば良いが、そうでなければ、パソコンの画面でZoomと資料の両方をみなくてはならなくなる。パソコンでメモをとるタイプの記者にとっては不便なところもありそうだ。

●多くの問題は慣れで解決?

「実は会見後、ある記者から電話がかかってきたんです。『(Zoomの)使い方がよく分からなかったから』ということで、イチから伝えて30分ぐらい話したと思います」(中村弁護士)

とはいえ、リモートであっても通常の記者会見とそこまで大きく変わるものではない。

ときには話しているのに、マイクがオフになっているといったトラブルもあったが、中村弁護士は、「事前の準備や慣れで多くの問題は解消されるのではないでしょうか」と分析している。

この日の会見の出席者はのべ10人ほどだった。

●ビジュアル面での課題

ただ、メディアを通じて発信するという点では明らかな違いも感じたという。

「写真とかテレビ用の映像という点では難しいですよね。視覚的インパクトが残らない」(中村弁護士)

記事が読まれるかどうかは、見出しと写真によるところが大きい。一方、ウェブカメラでは画質や画角的な限界があるし、他社との差別化も難しい。また、記事中に複数枚を配そうとしても、主催者側のカメラが複数台ないと、画に変化がつかない。

実際、弁護士ドットコムニュースで判決を報じたとき、Zoom会見のスクリーンショットはトップ画像には使わなかった。

「自分たちが扱う事件では、しばらくZoomの活用を検討することになると思いますが、見せ方は考えていきたいですね」(中村弁護士)

リモート会見、報道陣をコントロールしやすい?

以上は、最高裁判決後にZoomで開かれたリモート記者会見について、主催者側や記者が感じたことだ。会見の性質やリモート手段によっては、まったく違う感想もありえるだろう。

たとえば、ローソン3月2日、YouTubeのライブ配信を使ってリモートで新商品を発表している。これに出席したITmediaが「参加して分かったメリットとデメリット」と題した記事を配信している。(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2003/06/news070.html)

記事では、「リアルな記者会見との違いはそれほど感じなかった」としつつ、あらかじめ投稿されている質問を主催者が選ぶタイプの質疑応答だったため、一般論として「企業側にとって都合の悪い質問や意見は黙殺される可能性がある」などとの懸念もつづられていた。

リモート記者会見になると、カメラを自由に操作できる分、主催者は見せたくないものを隠しやすくなるという面もある。

報じる側としては、リモートにも慣れる必要があるとともに、通常の会見との違いを常に意識し、慣れ過ぎないことも求められるのかもしれない。

記者会見もリモートで十分だった? 「Zoom会見」に出席して得られた気づき