世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっているが、安全保障の分野でもこのウイルスの影響が徐々に出てきている。

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 世界中が新型ウイルスと戦っている状況にもかかわらず、中国人民解放軍(PLA)は東シナ海や南シナ海などで活発な行動を継続している。

 一方、米軍も、実力をつけてきた人民解放軍に対処するための将来に向けた変革の動きを加速している。

 米海兵隊は3月末に「2030年の戦力設計」(“Force Design 2030”)という米海兵隊総司令官デビッド・バーガー大将の署名入りの文書を発表した。

 バーガー大将は稀にみる改革派の将軍で、「我々は、漸進的な改善変更や旧来の能力の改善バージョンなどの中途半端な勧告を受け入れることはできない」と宣言し、海兵隊の大胆な改革を推進中である。

2030年の戦力設計」によると、中国の台頭などの新たな安全保障環境に効果的に対処する改革として、海兵隊員1万2000人の削減、戦車の全廃、陸上戦力の骨幹である歩兵大隊の削減、「F-35」の機数削減など大胆な削減を行う提案をしている。

 一方で、海軍前方展開部隊(Naval Expeditionary Forces)の強化、長距離対艦ミサイルや致死性の高い無人機システムの増強を提案している。

 この改革の結果は、日本の安全保障にも大きな影響を与えると予想されるため、本稿において紹介する。

 なお、本稿は、「2030年の戦力設計」だけではなく、バーガー大将の海兵隊改革のエッセンスが書かれた“Notes on Designing the Marine Corps of the Future”や“Commandant’s Planning Guidance”も参考にしている。

2018年の「国家防衛戦略」に基づく変革

 バーガー大将の改革案は、2018年に発表された国家防衛戦略(NDS)に基づいてること、インド太平洋地域における中国の脅威にいかに対処するかをウォーゲーム(軍事作戦のシミュレーション)や部隊実験などで実戦的に分析検討している点に特徴がある。

 2018年の「国家防衛戦略」は、海兵隊の任務の重点を中東のイスラム過激派(いわゆるイスラム国など)への対処から、インド太平洋における中国やロシアの脅威への対処へと転換した。

 米海兵隊は、内陸部から沿岸部へ、そして非国家主体から米軍と対等な競争相手(人民解放軍ロシア軍)へとミッションを大きくシフトさせる。

 つまり、米海兵隊は、イラク戦争やアフガニスタン戦争において、米陸軍とともに主として地上戦力として運用されてきた。しかし、米海兵隊は本来、米海軍の作戦を支援する海軍前方展開部隊としての本来の役割がある。

 バーガー大将の改革の核心は、海兵隊が陸上での作戦を重視するのではなく、米海軍海兵隊との統合を強化し、海軍との全面的なパートナーシップの下で、海洋沿岸での歴史的な役割に回帰することだ。

米海兵隊の戦力設計の概要

 海兵隊の戦力設計に際し、「海兵隊に提供される予算は増えない」という前提を受け入れている。

 この前提の結果として、不可欠な新しい能力に資源を投入するためには、既存の部隊や兵器を削減しなければならない。

 部隊削減の最も合理的な方法は、歩兵大隊を削減するとともに、削減される歩兵大隊を支援する組織(直接支援火砲、地上機動部隊、攻撃支援航空、軽攻撃航空、支援対象となる地上部隊や航空戦闘部隊の規模に類似した能力を持つ戦闘サービス支援能力)も削減することである。

 主要な焦点が大国間の競争に移り、インド太平洋地域へ新たな焦点が置かれる中で、現在の軍隊は、新たな統合作戦構想、海軍および海兵隊の作戦構想(これについては後述する)を支援するために必要な以下のような能力が不足している。

 長射程の精密火力、中・長距離防空システム、短距離防空システム、情報・監視・偵察(ISR)、電子戦(EW)、殺傷能力と耐久能力が高い長距離無人機システム、海上民兵などを使った「グレーゾーン」戦略を追求する相手に対抗するのに適した殺傷力の低い装備が不足している。

 そして、将来の環境に不適な兵器がある。例えば、戦車、牽引火砲、殺傷力の低い短距離・低耐久性無人機システムだと分析している。

米海兵隊の2030年目標戦力

 何年も極秘で行われたウォーゲームを通じ、中国のミサイルや海軍力が太平洋地域での米軍の優位性を脅かしつつあると判明した。

 海軍前方展開部隊としての役割を予算の枠内で再構築するため、海兵隊は保有する戦車を削減し、軍用機を削減し、兵員総数を1万2000人削減し17万人程度に縮小する。

 バーガー大将は、「質を高めるために海兵隊の規模を縮小すべきだとの結論に至った」と述べている。

 主要な目標戦力は以下の通り。

コマンド部隊(Command Element

・3個の法執行大隊(軍事警察大隊)の削減

●地上戦闘部隊

 海兵隊は、対テロ戦争の時代において、米陸軍とともに地上戦力として活動してきた。しかし、今は米海軍とともに海洋や海岸近くで作戦するという本来の任務へ回帰するという決心をした。そして、以下のような目標戦力を設定した。

・7個の歩兵連隊本部:8→7(1個歩兵連隊本部の削減)
・21個の歩兵大隊(現役):24→21(3個大隊の削減)

・6個の歩兵大隊(予備役):8→6(2個大隊の削減)
・残りの歩兵大隊の再設計:歩兵大隊当たりの削減数は約200人

・5個の砲兵中隊:21→5(16個中隊の削減)
・21個のロケット砲兵中隊):14→21(14個中隊の増加)

 この部隊は長射程の対艦ミサイルを含む部隊で、ウォーゲーム分析から得られた結果によると、この部隊のお陰で海兵隊の前方展開が容易になる。

ゼロ戦車中隊:7→0(7個中隊と前方配置能力のすべてを削減)

 この能力は、将来の最優先課題に運用上適していないと結論づける。しかし、米陸軍は引き続き戦車を保有する。陸上戦闘における戦車の重要性を否定するものではない。

・12個の軽装甲偵察(LAR)中隊:9→12 (現在の部隊に比し3個中隊の増加)

・4個の強襲水陸両用中隊:6→4(2個中隊の削減)

 歩兵大隊の削減などに伴い、これらを支える部隊も縮小する。

・3個の架橋中隊の削減

 この能力は、主に持続的な陸上作戦に関連している。陸上作戦を回避して戦力を設計するという指針を考えると、この架橋能力は明らかに要求を超えている。

・2個のAA中隊の削減と水陸両用強襲輸送車(AAV)および水陸両用戦闘車両(ACV)の削減

●航空戦闘部隊(Air Combat Element

• 18個の現役攻撃戦闘機飛行隊 (VMFA):(F-35BF-35C飛行機を各飛行隊当たり16機から10機まで削減)

• 14個の現役中型ティルトローター飛行隊(VMM):17→14(3個飛行隊の削減)

 歩兵大隊の能力とそれに伴う戦闘支援の削減を考えると、残りのティルトローター部隊で十分である。

• 5個の重輸送ヘリコプター(HMH)中隊:8→5(3個中隊の削減)

 5個飛行中隊は、海兵隊の要求及び承認された海軍コンセプトに記述されている将来の戦力を満たすのに十分な能力を提供する。

• 5個の軽攻撃ヘリコプター(HMLA)中隊:7→5(2個中隊の削減)
• 4個の航空給油輸送機(VMGR)中隊:3→4(1個中隊の増加)

• 6個の無人機(VMU)中隊:3→6(3個中隊の増加)

 将来の「スタンドイン部隊(敵の脅威圏内に展開する部隊)」として、海兵隊は無人航空機システムUASファミリーを必要とする。

•海兵航空支援グループ(MWSG)の削減

戦力設計の前提となる作戦構想

 海兵隊の戦力設計の前提になるのが作戦構想だ。

 海軍の作戦構想である「分散型海洋作戦(DMO: Distributed Maritime Operations)」、海兵隊と海軍の共同作戦構想である「競争環境下における沿岸作戦(LOCE: Littoral Operations in a Contested Environment)」、「前方展開前線基地作戦(EABO: Expeditionary Advanced Base Operations)」だ。

 海兵隊は敵の攻撃を阻止するため、中国のミサイル航空機、海軍の兵器の攻撃可能範囲内で戦う部隊(Stand-in Forces)になる。

 バーガー大将が策定した計画の中核は、中国海軍と戦うことを任務とする新たな海軍前方展開部隊だ。

 海軍前方展開部隊は、米海軍の作戦を支援するために、小規模なチームに分散し、揚陸艇などで南シナ海や東シナ海に点在する離島や沿岸部に上陸し、前方展開前線基地(EAB: Expeditionary Advanced Bases)を設定する。

 図1にEABの一例を紹介するので参考にしてもらいたい。図の左側の島にEABが設定されている。

図1「前方展開前線基地(EAB)の一例」

 EABは、敵の長距離精密火力の射程内の離島や沿岸地域に設定される。EABは中隊から大隊規模の小さな前方基地だ。

 EABは敵の発見・対処が難しいため、艦艇や航空機よりも長い時間、敵地近くで作戦を行える。

 敵地近くに長くとどまることで、EABは敵の行動に制約を加える。例えば、対空・対艦攻撃を行い、敵のセンサーを無能力化し、敵の戦力を妨害・阻止する無人機を運用する。

 EABは、海洋ISR装備、沿岸防衛巡航ミサイル(CDCM)、対空ミサイル、戦術航空機のための前方武装給油拠点(FARPs)、滑走路、艦艇・潜水艦の弾薬補給拠点、哨戒艇基地として利用しうる。

 これらの兵器や施設は、友軍のセンサーミサイルの能力を高め、敵のターゲティングを複雑にする。また、重要な海洋地域をコントロールし、シーレーンや海のチョークポイントの安全を強化し、敵の利用を拒否する

 空中・海上・水面下で運用可能な無人システムを運用し、中国海軍がより広い太平洋に進出する直前に、対艦ミサイルで中国の艦艇を破壊する。そのデータは空軍や遠方から長距離ミサイルを発射する海軍部隊にも伝達される。図2を参照。

図2「EABへの対艦ミサイル対空ミサイルの配備」

 敵の反撃を避けるため、海兵隊は遠隔操縦できる新世代の水陸両用艇を駆使し、48~72時間ごとに島から島へと移動する。他のチームは米戦艦からおとりの舟を使った欺騙(騙すこと)作戦を展開する。

 バーガー大将は、「海兵隊の新たな能力や戦術が人民解放軍に「極めて多くの問題」をもたらすことをウォーゲーム明らかにした」「小規模で常に動き回り、しかも敵と接触する能力を持つ、分散型の海軍前方展開部隊に対抗するのは非常に難しいだろう」と述べている。

米海兵隊改革への筆者の評価

海兵隊改革の動機となった最も大きな要因は脅威認識の変化だ。

 バーガー大将は、「中国の脅威は着実に増している。もし米軍が何もしなければ、われわれは追い抜かれるだろう」と中国の脅威を強調しているが、その危機感は妥当だ。

 2001年ニューヨーク同時多発テロ以来20年近く続く対テロ戦争を焦点としないで、急速に軍事力を増強し覇権を目指す中国に対して、これにいかに対処するかに焦点を当てたことは妥当である。

 そして、米海兵隊が限られた予算の中で、米海軍の作戦を支援するという役割に回帰したことは妥当だと思う。

 人民解放軍の増強が最大の脅威になっている日本にとって、米海兵隊の改革を前向きに評価し、陸海空自衛隊の統合作戦と米軍との共同作戦の充実に向けた努力を継続すべきであろう。

●戦車をすべて削減するという方針は非常に大胆だ。

 日本でも、「米海兵隊は戦車を全廃したのだから、陸上自衛隊も戦車を削減しろ」という暴論が出てきそうだ。

 しかし、バーガー大将は、「海軍を支援する海兵隊には戦車は必要ないが、大量の戦車を持つ陸軍は必要だ」と発言していることに留意する必要がある。

 主として陸上戦闘を遂行する陸上自衛隊や米陸軍と米海兵隊を同列に議論するのは不適切だ。

 また、退役した海兵隊の将軍でバーガー大将の改革案を批判する者が少なくないことにも留意する必要がある。

 批判者は、「米海兵隊には多くの任務が付与される。中東、欧州、朝鮮半島などで海兵隊が陸上作戦を命じられた場合に戦車なしでは対応できなくなる。行き過ぎた改革には問題がある」と主張している。

海兵隊の作戦構想である前方展開前線基地作戦(EABO)の多くの要素は、自衛隊の南西防衛構想と共通点がある。

 例えば、離島を拠点とする対艦ミサイル対空ミサイルにより、人民解放軍の作戦を妨害し、米海軍や米空軍の作戦を容易にするという構想(筆者は自衛隊が実施する人民解放軍に対するA2/ADと呼んでいる)は自衛隊と米海兵隊で共通のものだ。

 また、離島における作戦のためにISR能力の向上、無人機システムの導入、長距離ミサイルなどが必要であるという主張には共通するものがある。

 以上の諸点を勘案すると、自衛隊、特に陸上自衛隊は米海兵隊の大胆な改革から多くのことを学ぶべきであろう。

 そして、米海兵隊の大胆な改革を契機にして、日米同盟をさらに強化し、中国の脅威に日米共同で対抗すべきである。

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