作家・桜木紫乃の直木賞受賞作『ホテルローヤル』が武正晴監督により実写映画化され、今冬全国公開されることが決まった。

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 原作は、北海道の湿原に立つラブホテルを舞台に、現在から過去へ時間軸を遡り、ホテルの盛衰とそこを訪れる人々の生と性を切なくもみずみずしいタッチで描いた、7編からなる連作小説。2013年に第149回直木賞を受賞し、累計発行部数は85万部(電子書籍を含む)を超える。

 映画では、原作の持つ静かで穏やかな魅力をそのままに、閉塞感のある日常を離れ、ホテルローヤルの扉をひらく男と女、問題を抱える経営者家族・従業員のそれぞれの人生模様が、ホテル経営者家族の一人娘・雅代を主軸として繊細につづられる。映画は既に完成しているが、キャストは後日発表となる。

 メガホンをとる武監督は、『百円の恋』(2014)で日本アカデミー賞をはじめ国内外の各映画賞を総なめにし、その後も『きばいやんせ!私』(2019)などで一本芯の通った女性像を描いてきたほか、Netflixで配信中の話題作『全裸監督』では総監督を務めた。脚本は、現在放送中のNHK連続テレビ小説『エール』を手掛ける清水友佳子。

 武監督は「原作を読んで『ホテルローヤル』というホテルそのものを主人公にできないかと妄想した。どうしても釧路で撮らなくてはと考えた。釧路という土地が我々撮影隊に力を与えてくれた。桜木さんが我々のシナリオに自由を与えてくれた。この原作に惚れ込んだ素晴らしいキャストとスタッフが集結して挑んでくれた。僕の敬愛する啄木が、さいはてと呼んだ土地での仕事を僕は一生忘れないだろう。釧路、札幌、北海道の土地のおかげで、唯一無二の映画が創れたと自画自賛している」とコメントしている。

 原作者の桜木は本作を見た感想を「あの日あの場所にいたかもしれない人を、小説というかたちで裸にしたと傲慢にも信じていたので、映像化のお話をいただいたときは『遠慮なく好きに作ってくださいね』などと言っていた。しかし新たな姿で目の前に現れた『ホテルローヤル』は、あの日あの場所にいたかもしれない経営者やホテルに集う『家族』の物語となっていた。正直に言うと映画という表現に書き手の内面を素っ裸にされたような気持ちになった。脱がせたつもりが脱がされていた――エンドロールで泣いてしまうという失態。悔しかった」と語っている。

 映画『ホテルローヤル』は今冬全国公開。

『ホテルローヤル』原作書影 (C)桜木紫乃/集英社